日記・チョコレートの祭りのあとには捨て猫が多い

 スーパーの一角に普段見ないチョコレートの特設コーナーが作られていた。

 少し前まで鏡餅を見ていたのでそれがなんの意味を持ってそこにあるのかすぐに判断できなかった。ちょうど1月14日、日付を1ヶ月ほど進めるとようやく合点がいった。

 2月14日を過ぎて安くなったチョコレートを毎年見る。スーパーやコンビニの店頭で綺麗な箱の上から雑に貼られた値札のシールに目が行く。

 それはもしかしたら誰かから誰かへと贈られたチョコレートだったのかも知れないと少しだけ頭をよぎる。箱に値札の貼られたチョコレート。

 値札が貼られると途端に贈り物からありきたりな売り物みたいな扱いになって、チョコレートはいつも棚にあるきのこの森やメルティーキッスなどと同じような雰囲気を帯びてくる。

 しかし売れ残りのチョコレートというだけで変にかわいそうだと思ってしまう。箱にデカデカと「Valentine’s Day」なんて書いてあったりするともう切なくて胸が張り裂けそうだ。

 2月15日のコンビニは特に不憫なチョコレートが佇んでいる。ここに祭りのあとの寂しさが凝縮されている。

 売れ残りのチョコレートたちがうらめしくこちらを見ている気がしてくる。できるだけ目を合わせないようにしてレジでお会計を済ませ、自動ドアをくぐろうとすると値札とうっかり目が合う。

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 やはりこちらを見ている。確かに昨日、僕はチョコレートをもらったけれど、それは君ではなかった。仕方がないことだ。

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 もうひとりが隣で見ている。箱にデカデカと「Valentine’s Day」と金色の文字が書かれていて、三白眼のその目は怨念さえ感じる。鳥肌が立ち、つと冷や汗が流れる。

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 こいつは赤いリボンをつけて、表は余裕を見せているが裏では「自分は絶対に最後まで残っている」と分かっている。達観している姿が余計かわいそうに思えてくる。

 ああ、でも。気軽に手を伸ばしてはいけない。一度手を差し伸べてしまったら全ての売れ残りのチョコレートに手を差し伸べなくてはならなくなる。

 振り返ると捨て猫みたいなチョコレートたちが拾ってほしいとばかりに値札をつけてコンビニの棚に腰掛けている。祭りのあとには捨て猫が多い。






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