日記・好きなように食べてください
「このお団子、引っつきやすいので好きなように食べてください」
初めて入った荻窪の古民家カフェでランチの後に頼んだ草団子を持ってきた店員さんがそう言った。もう数年は経っているがたまに思い出す。
確かにその草団子は引っつきやすかった。白玉くらいの大きさの草団子がいくつかお皿の上に乗っていて、その上に粒あんときな粉がかかっていた。なんとなく和風の甘いものが食べたくて頼んだのだった。
草団子には一緒に細くて二股に分かれた木製の菓子楊枝がついていた。つまり(その菓子楊枝を使ってもいいですし)好きなように食べてください、そういう意味だった。
いまになって思ったが、その店員さんはいままでその草団子について客からなにか言われたことがあるのかも知れなかった。「この草団子、菓子楊枝で食べようとするとお皿に引っついて取れなくなるようで」と嫌味たっぷりに言われたのかも知れなかった。
お団子なんだから、ちょっと手でつまんで食べたっていいじゃないか。店員さんは悔しかったのかも知れない。決してそんなニュアンスは僕には伝わってこなかったが、ふとその嫌味を思い出して咄嗟に「好きなように食べてください」と言ったのかも知れない。
でも僕はその「好きなように食べてください」という言葉がなんだか好きだった。もしあの店員さんに偶然会うことがあれば「好きでした」と伝えたい。あくまでその言葉について。だって、その言葉でとてもリラックスしたのだ。初めて入ったお店でゆっくりできて、僕はかなり嬉しかった。
「好きなように食べていい」という事実は自明ようにも思えるし、和菓子に菓子楊枝がついていれば菓子楊枝を使って食べるのだけれど、「好きなように食べてください」という言葉ひとつで気持ちが自由になって草団子がもっとおいしくなる。
ルールがある食べ方よりも、好きなように食べる方が実はおいしいんじゃないかとちょっと思ったりした。なにかの料理を人へ出す時の言葉として「好きなように食べてください」は僕としてはかなりおすすめしたい。
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