日記・クリアな日本語でラッシー
お小遣いが自由に使えるようになった頃からときたま食べに行くカレー屋がある。注文を取る、お会計をする、その必要最低限の会話だけ日本語で話して、他の従業員との会話は知らない外国語の言葉で喋っている、インドカレー、というと分かりやすいが確かインド出身の人ではなかった。ネパールとかバングラデシュとか、その辺りの人が商っていた。
子どもの頃から食べていて、別段コミュニケーションに困ったことはない。必要なことはちゃんとやりとりする。カレーの辛さをどうするとか、ナンにするのかご飯にするのか。従業員どうしで知らない言葉で話していたとしても別段気にすることはない。
今日もなんとなしに食べに行ってみるとだいたいいつもの感じなのだが、いつもより聞き取りやすい日本語がひとり分飛び交っている。多分これは誰かお客さんの話し声なのだと思い込んでいたがそうではないらしかった。
その声はカレー屋の従業員らしかった。クリアな日本語を話している。そして他の従業員よりかなり若かった。だれかの子どもなんだろうか、あるいは血縁関係なく仕事に入っているんだろうか。
そのカレー屋で従業員からクリアな日本語が聞こえてくるのは不思議な感覚だった。カレーが食べられればそれでいいので特にクリアな日本語がほしかったわけではないのだが、ひとりの声だけがやけに耳に届くのだ。
それはちょっと不思議な変化だった。カレーはら変わらずおいしかった。
「遅くなってすみません」
彼はクリアな日本語でラッシーを持ってきた。僕は思わず「いえいえ大丈夫ですよ」と言った。
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