日記・きぼうを見なかった

 未明に目覚めると「ディズニーランドに行くんだ」と思う。未明の目覚めは全部ディズニーランドにつながる。午前5時ごろ、夜が明けるか明けないか、曖昧な時間に目を覚ますと外へ出たくなる。

 鼻が覚えている。夜のうちにすっかり晴れた空へと温度が奪われた地表が太陽の光にゆっくりと照らされて、立ち込めたばかりの朝靄の匂いを記憶している。

 覚えているできたての朝靄の匂いを嗅ぎに外へ出る。まるで”出発”するような気持ちになりながら玄関のドアを開けた。今朝の気温は8℃。澄みきった秋の未明の空は思い描いていた以上に綺麗だった。

 そのとき、空に動く光の点が見えた。飛行機かと思ったが明滅しなかった。一定の速度で、一定の方向に進む光は流れ星よりもゆっくりと一直線に進んだ。

 「きぼう」だと思った。エッセイで読んだことがある。国際宇宙ステーションのことだ。太陽の光を反射して光る。

 しかし調べてみるときぼうではなかった。きぼうは北の空に見える。僕が見たのは南の空で、通過する時刻はあっているが方向が違っていた。

 人工衛星も同様に光って見えると聞いたことがあるので、恐らくきぼうではない別のなにかの光だ。人が作ったものの光だ。

 着のみ着のまま外へ出てしまったからそこそこに寒かったので部屋の中に戻ってエッセイを読み返す。筆者はきぼうを見たあとパートナーと交際を始める。

 きぼうではないなにかを見た。それから東の景色を見ると夜が明けはじめていた。太陽から近いところから順に夜は明けていく。

 太陽の光を受けて光って動いたなにかはなんだったのだろう。できたての朝靄の匂いを思い出してこれを書いているうちに部屋も朝になった。



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