創作・わたしは犬
わたしは白くてふわふわの犬。これだけじゃよく分からないと思うから、わたしは大きな犬で、たくさんの毛が生えていて、とにかくみんなが触りたがるの。分かる? まちを歩いているとどこからともなく人が寄ってきてわたしを触りたがる。わたしはそういう人が好きでも嫌いでもないから、気分が悪くなかったら触らせてあげる。
わたしは大きくてふわふわしていて、たまに「フトッテル!」って言われたりする。人間の言葉はどういう意味なのかは分からないけれど、そう言っている人間の顔が好きじゃなくて、あんまりいい気分はしない。そういう人にはそっぽ向いてどこかに歩いていっちゃう。あとから触りたそうなそぶりをするのを見ても、おしりを見せて知らないふりする。
おうちの中にいると眠くなって、丸まって寝るのが好き。たまになにもかも忘れちゃって起きたらひっくりがえって寝てたりする。どうりでお腹が冷えるわけね。わたしといつも一緒にいる人はそんなわたしを笑ってくれる。横に来たら眠ってるわたしだって気づいて起きちゃう。足音でなんとなく分かる。
それからくだものの匂いが好き。わたしにはあんまり食べさせてくれないけれど、おうちの中にいると突然くだもののいい匂いがしてきて、どんなに眠くたってすぐに起きる。わたしにも食べさせてほしいなぁって一生懸命アピールするけれど、みんななにか言ってわたしにくれない。なにを言ってるか分からないから分かるように言ってほしいけれど、それも伝わらないから嫌になって、たまに「もう絶対にわたしを触らせてあげない」って思う。寝たら忘れちゃうけどね。
この前、すごくおいしいものをもらった気がするんだけれど、でもわたしそのあとすごく調子が悪くなっちゃって、そのあとのことはよく覚えてない。おいしかったなぁ、またおいしいのくれないかなぁ。おいしいものはくれないけれど、いつも一緒にいる人がわたしをたくさんなでてくれるようになったから、まぁいっか、って思いながら、いつもより少しやわらかいご飯を食べてる。なんとなくお腹が痛い気がするけどなんだっけ。
わたしの家にたまにわたしみたいな犬が来て、話をするけれど「いまいくつなの?」とか「きみはぼくのこと好き?」とか聞いてくるから好きじゃない。遊ぶのは楽しい。遊んでいるうちに忘れてしまうけれど、わたしは好きなくだものの話とか、まちを歩いていると漂ってくる不思議な匂いのこととか、わたしが行ったことのない場所の話を聞きたいのに、わたしの話は聞いてくれない。
わたしは風が好き。たまにわたしはなにかに乗せられて、そこから外を眺めていると風がたくさんわたしに吹いて、わたしを撫でてくれる。自分では触れないところとか、人が触ってくれないところも、ぜんぶ風が触ってくれる。だからわたしはずっと外を眺めていられる。わたしは風に一番触ってほしいのかもしれない。
わたしの名前? わたしはよく分からないけれど、いつも同じ鳴き方を人間がするから、それがきっとわたしを呼んでるんだと思ってる。わたしはわたし。白くてふわふわの犬。みんなが触りたくなるくらい、柔らかくて、もふもふで、大きな犬。
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