日記・誰も待たず散る山茶花、人を待って朽ちる椿

 去年のいま頃の写真を見ていた。

 どうしてか、桜を撮った写真が一枚もない。そのまま4月が過ぎ、写真の日付は5月になった。

 代わりに、落ちた椿の花が写っていた。花がまるごと落ちる椿はまるで誰かがそこに置いたように見えた。


 桜が咲く頃に東京の椿山荘の庭を見たことを思い出した。同じように、いくつもの椿の花が落ちていた。

 また橋の欄干にひときわ大きい椿の花が置いてあった。枯れ始めか、花は一部が朽ちていて赤黒かった。

 これは明らかに人が意図的にそこへ置いていた。欄干の、橋と欄干を結ぶ縦の円柱の上に置いてある。

 なんだかこれは綺麗ではない。そう思った。花が朽ちているのもあるが、誰かが拾ってそこに置いたのだと思うと人間の気配を感じられて、人間が手を加えたわりにはずさんに思えた。

 誰かがそこに待っているような気がする。見てもらう為に、誰かがそこを通るのを待っている。

 以前、新宿御苑で見た山茶花のことを思い出した。


 花の形を見ると山茶花のはずなのだけれど、花ごと落ちていた。鳥が蜜を摘んで落としたのか、あるいは雨の翌日だったので自然に落ちたのかも知れない。

 ふたつ、並んで落ちていた。まるで誰かがこのように並べたように落ちていた。

 自然にこのように落ちたのだと思うとうつくしく思えた。誰の手も加えられないままそこに並び、誰を待つのでもなく、ただそこにあるだけだった。


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