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日記・車の中、優しい彗星に救われた夜のこと

 仕事帰りの車の中で YOASOBIの曲を武道館のライブのセトリで聴いていた。ちょうど後半戦の『夜に駆ける』から。

 武道館のライブから数日経ち一気に気が抜けてしまったのか今日はまるで仕事に身が入らなかった。もちろんただライブを見に行っただけなのだけれど。

 でも YOASOBIのライブを見に行けることが最近の生きる原動力になっていて、それを終えてしまったいま、なんとなく宙ぶらりんな気持ちになっている。

 まあなんとか今日を終わらせ帰路に就いた。帰宅ラッシュの道路の混雑にうんざりしそうになったその時に流れ始めた『優しい彗星』。



ふと、武道館の景色を思い出した。うつくしい星空だ。




 ひとつ前の楽曲『怪物』からステージは風景を変える。澄んだ夜空を望むような景色だ。ikuraちゃんの歌声で曲が始まるとステージ上で南東側のAssHさんが手を上げて左右に振り始めたのを見た。

 向かい側の客席を見ると小さな星の光が左右に揺れているのがいくつか見えた。星を作りたいと思った。手に持ったスマホのライトを灯す。

 揺れる星の光が少しずつ増えていく。日が暮れたばかりの空の夜が深まっていくみたいだった。暗闇はやがて満天の星空となって光輝き出した。

 曲の途中、ステージを見ていた目線を客席の方へと上に向けた。そこにあったのはうつくしい星空だった。

 武道館というステージがこの星空を作ったのだと思う。円形だからこそ観客も客席の様子をアーティストと同じように見て感じられる。

 こんなにうつくしい星空をステージにいる6人にも見えているのだと思うと心が震えた。特にステージの中央にいるAyaseさんが見る景色はもっとうつくしいだろうと思った。

 その景色をふと思い出した。車は渋滞の最後尾に着いて止まった。視線の先には並んだ車のテールランプが無数に赤く光っている。

 『優しい彗星』は運転する車の中で聴くのが一番しっくり来る。なぜならば助手席の”右隣”はその車を運転する者だからだ。

 それからふと思い出したのはMVの海沿いを走る青い風景だった。目の前の景色が一瞬青く見える。そしてまた視界には赤いランプの光が映った。

 あの日、僕は確かに武道館にいて YOASOBIの音楽を聴いたのだと、なぜかその時強い実感を持った。その強い実感が心に流れ込んでくると、それはとても温かかった。

 ライブは終わった後もこうやって生活の中で不意に顔を出す。そうやって僕はいままで日常を乗り越えてきたのだと、およそ2年振りのライブから帰ってきた数日後の今日、ようやく思い出した。

 次の YOASOBIのライブがいつになるのか分からないけれど、その日まで乗り越えていこう。そう思い立ち、進み始めた列に従って車のアクセルを踏んだ。





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