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日記・カロリーメイトは帰り道の味がする。

 カロリーメイトをとても愛していた時期がある。

 カバンの中には必ずカロリーメイトが入っていたし、カロリーメイトを持ち歩いていないとなんとなく落ち着かなかった。あのでっぷりとした形のクッキーを4本、常に持っていた。

 小腹が空いた時に食べる為に持っていた。コンビニで買い食いしてしまうのを避けてカロリーメイトを2本食べた。節約のつもりだった。

 結局あれは節約になっていたんだろうか。それなりの頻度で食べていたし、確か4本入りで180円とかそれくらいの値段だった気がする。

 でも半分はパケ買いしていたような気がする。カロリーメイトの箱の形が好きで、あと黄色みたいなオレンジみたいな、あのカロリーメイト特有の色も好きだ。

 節約の気持ち半分、パッケージが好きという気持ち半分で、味はというと実はそんなに好きでもない。よくカロリーメイトを食べていたせいで「カロリーメイトっておいしい?」と周りの人から聞かれていた気がするけれど、うーん、おいしいかは分からない。

 いろんな味を食べて、最初はチーズ味が好きだったけれどのちに苦手になった。よくチョコ味とフルーツ味とメープル味を食べていた。メープル味はわりとおいしいほうだと思う。

 カロリーメイトを全く食べなくなったのはちょうど新型コロナウイルスが流行り出した時からだった。出かけた先でよく食べていたので、出かけることがなくなったからつられて食べる機会がなくなった。

 部屋で賞味期限が切れているカロリーメイトを一箱見つけた。これはもうさすがに食べられないなぁと思うくらい過ぎていた。

 本当だったらこのカロリーメイトをどこか遠くまで持ち運んでいた日々があったのかも知れない。知らない街の中で、夜の人影少ない電車の中で、かじっていたはずのカロリーメイト。

 カロリーメイトを食べていた記憶の中で真っ先に思い出すのはなぜか帰路の普通電車の中だ。終電の、ほとんど誰も乗っていない電車が他の電車との待ち合わせの為に途中の駅で止まる。

 ドアが開いたままの電車がホームに停止して、田舎の駅はホームの向こうに田畑や野山が広がっているから、開いたドアから田舎の夏という夏が入り込んでくる。

 虫の鳴き声、草が蒸された匂い、風になびく稲の音。家に着くまではまだ距離がある。

 お腹が空いてカバンからカロリーメイトを取り出す。あの黄色ともオレンジともつかない色の箱から袋をひとつ取り出し、封を開ける。

 相変わらずのでっぷりとした形のクッキーをひと口かじると、もさもさとした食感が広がる。おいしいかと聞かれるとよく分からない。でもなんとなく「帰ってきている」感じがする。

 カロリーメイトは帰り道の味がする。仕事からの帰り道、カロリーメイトを買ってみるとそのことを思い出した。


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