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VCから株を買い戻しプライベート化しました

1ヶ月前の3月24日。株式会社リーボがVC三社に発行していた優先株をすべて創業者の松尾が買い取り、株主は松尾龍馬100%となりました。

つまり、プライベート化。

実行から1ヶ月経って、僕自身がいろいろ整理しておきたいなと思ったのと、「VCから調達したら結局最後どうなるの?」って話はM&Aとか上場のことばかりがメディアで出るのでそれ以外にこんな事例もあるよーってお伝えできればと思って書きます。
注)これまでも公開していない株主比率、バリュエーション、株価等の具体的な数字は省略します

雑に調達からの流れを振り返る

ちょっと前にTwitterで #雑に振り返る ってハッシュタグ見て僕もやってみました。

この書き方踏襲するなら
'23年 全VC株を創業者松尾が買い取りプライベート化←New!!

って感じ。

最初の調達は、VC一社から転換社債で2012年11月調達。このときやってたのは超小型電気自動車のカーシェア事業。ちなみにこの時代に今みたいなJ-KISSとかはありません笑

一人乗りの超小型電気自動車をスマホで借りるカーシェア
システムは自社開発してました。懐かし。

この事業は3年間、形を変えながら進めたけど収益化せず。詳しい顛末は本稿とは趣旨ずれるんで割愛。多分書き始めたら数万字になりそ。
2015年にカーシェアの予約システムを転用してレンタカープラットフォーム事業にピボットし、同年2月に2回目の調達をVC二社から。

中小レンタカーを横断的に予約できる予約サイト"Veecle!"

この調達の約1年後、2016年5月にリーボは実質経営破たんします。原因はいろいろあるけど、一重に僕の経営力不足。判断の間違えがいくつもある。家賃も払えずオフィス追い出され、至るところに頭下げて周り、いろんな人の助けを借りながら、唯一残ってくれた社員と共に起死回生で立ち上げたクリエイティブ事業で再建を図ります。

このとき株主の方々から言われたのはとてもシンプル。
「投資時の事業にこだわる必要はない。とにかく頑張って生き延びてください」

消えない罪の意識

クリエイティブ事業を立ち上げたあとも、毎月株主定例会を開き、経営状況、財務状況、業績、チームの課題とその対策の報告をしていました。いわゆるIRってやつですね。

幸い、クリエイティブ事業は1年目から黒字、売上ベースで前期比60%を超える年もあり6期連続増収。

毎月「順調です」「成長してます」「黒字です」って報告できるんですよ。
株主の皆さんも喜んでくれてたし、株主の一社は撮影の発注までしてくれました。

でも、どれだけ頑張っても、投資時の株価には程遠いのがわかってる。

"出資して頂いたお金を無駄にしてしまった"
"株主に大損をさせてしまった"

こうした罪の意識は、ずーっと心の奥底にありました。
毎月顔を合わせるから、消えるわけないよね。

だからかもしれないけど、僕はこの11年ずっと、自分の経営者として資質にも自信が持てなかった。どこか「自分は失敗ばかりするダメな経営者」と思ってた気がする。

株の売却先を探す

そもそもなぜ僕が買い取ることになったか、というと、業界に詳しい方は既にお察しかも知れませんが、きっかけはVC三社のうち一社がファンドの期限が来たのです。

期限は23年の3月末。

その1年半くらい前から、保有してもらっている株をどうするか、という議論を株主さんたちと重ねてきました。

最初はファンド期限が来る一社と、期限が近いもう一社、合わせて二社分だけ売却を考えてたけど、議論が進むうちに三社すべて同じタイミングで売却する意向となり「順調に成長しているし、少しでも高く買い取ってくれる会社や人を探しましょう」という方向性になりました。事実、何人かの知り合いの経営者の方にも相談に行って。その相談先で先輩経営者の方に言われたことが、僕の心のどっかに引っかかってたことに、気づきを与えてくれることになります。

「あなた自身の本心はどうしたいの?」
「これからどんなふうに経営していきたいの?どんな人生にしたいの?」

核心をつかれた感じでした。

「ファンド期限がくるなら、誰かに買い取ってもらわなきゃ」とだけ考えて、僕自身がどうしたい、とかではなく、こういうものだ、こうすべきものだ、と思い込んで行動してました。

それから改めて、今一度自分自身に向き合い、株の売却先だけでなくこれからの経営者人生や生き方まで含めて、深く考えました。

株を買ってもらう行為

「株を買ってもらう」というのは「将来この会社の株価が上がると納得してもらい、その期待値を値付けして買ってもらう」ということだと思ってます。つまり将来株価が上がることを説得力のある材料で説明し、誰かと合意しないといけないわけです。

リーボは確かに業績は上がっています。でも、既存の事業は動画制作とSNS運用代行で労働集約型であり、成長しているとはいえ利益率は高くはない。
新しい事業の準備はしているけど、それはまだ売上になっていない状況。

スタートアップでいうなら構想だけはあるみたいな、調達に入る前の段階。

このタイミングで、誰かに株を買ってくれというのは、なんか違うんじゃないか。新たな株主に対して不誠実なんじゃないだろうか。だったら、僕自身に一旦買い取らせてもらうのが一番スジが通る。今の状態で外部株主がいる状態といない状態、どっちがいいか、みたいにシンプルに考えても、やっぱりいない状態のほうが、スッキリするし選択肢は増える。

それをそのまま、正直に株主さんにお話しました。

絶対嫌がられると思った。個人で買い取るとなると金額にも限界があるし。

許された感覚

結論から言うと、VCの三社とも僕個人の買い取りに承諾頂き、出資時の株価に満たない金額で買い取ることにも合意して頂きました。僕自身は先述の"罪"の意識もあり、「なんて身勝手な!」って言われてもおかしくないと思っていたんだけど、株主の方々は単に保有している株の清算という視点だけなく、これまでの積み重ねてきたリーボ実績や、これからのリーボのことも含めて総合的に評価して考えてくれていました。

株主VCの担当者の方が言ってくれたこと。

「経営破綻したときに会社を潰す選択肢もあったのに、そこから立ち直って事業を伸ばし利益を上げて、債務超過を解消し、雇用を生み、リーボから起業家を何人も排出している。出資した事業は確かに失敗したが、出資した"人"は間違えてなかったと思ってます」

そんなことまで考えてくれてたんだなって。表現できないくらいの嬉しさと、喜びと、感謝と、申し訳無さと、いろんな感情が混ざり合ってぐちゃぐちゃな笑い泣きみたいになってました。

後日、このことを親しい友人と話して気づいたことだけど、株価を下げて大損をさせてしまった"罪"に対して、その相手から直接"許し"を得たような気持ちがどこかにありました。そして僕自身も、ダメな経営者と思っていた僕のことを"許す"ことができたのかもしれません。

プライベート化して何が変わったか

正直、株主が僕だけになったからといって、やっている事業もこれから先に計画していることも、何も変わりません。変わらず、粛々と僕が目指す会社作りを賛同してくれている仲間たちとやっていくだけです。

強いて言うなら、プライベート化すると決まってから、僕の心がすごく落ち着いて穏やかになってます。先述の"許し"も影響しているのかもしれませんが、経営や経済だけでなく、人生や人の心も広く捉えて、大きな流れに身を任せるような、そんな感覚はあります。これはまた別で書こうかな。

株主の皆さんから最後に、と念を押されたこと。

「出資額より低い額で買い取ったからといって、申し訳ないとかはもう思わないでください。それよりもこれから先リーボがどんな企業に成長していくか、それだけを考えてくれたほうが僕たちも嬉しいです」

本当に、ありがたい。ありがとうございます。
心に留めて、引き続き楽しみながらこの会社を経営していきます。

最後に

最後の株主定例会でもお伝えしましたが、皆さんが株主で僕は本当に幸せでした。ときに厳しく、ときに優しく見守って頂いて本当にありがとうございました。長らく、大変お世話になりました。

とりあえず、飲みに行きましょう!!

またプライベート化にあたって相談にのって頂き、ご支援まで頂いた諸先輩方にも、ひたすら感謝です。引き続き、よろしくお願いします!!