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大発生したバッタ、食べて危機克服できるか

アフリカ北東部で大発生したサバクトビバッタが作物を食い荒らし、1200万人近くの人が食糧難に陥っている。国連食糧農業機関(FAO)の屈冬玉事務局長は1月30日、大発生が「人道危機をもたらしている」と述べた

だがFAOが2013年に発表した「食用昆虫」についての報告書には、サバクトビバッタは食べられると書いてある。作物の敵を食べれば、食糧危機は克服できるだろうか?​​​​​​​​​​​​​​

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イエメンで2016年に発生したサバクトビバッタ=FAO提供

専門家によると、それは難しい。​​​​​​​

オランダにあるワーゲニンゲン大学の教授で、FAOによる報告書の著者の一人でもあるアーノルド・ヴァン・フイスさんは、メールでの取材に「よく聞かれるんだけど」と前置きしつつ、こう答えた。「食べることを(バッタの)対策にするのは、忘れましょう」

理由は二つある。

第一に、バッタはたいてい汚染されていて、食べるのに不向きだからだ。これまで起きた大発生では、被害を効率よく減らすために殺虫剤が使われてきた。

1990年代にアフリカでバッタの問題に取り組んできた米国農務省のアラン・T・シャウラー博士は、現地の人が殺虫剤で殺した大量のバッタをシャベルで拾い集めて袋に詰め、その殺虫剤でひどく汚染されたトラックに載せて、市場に運んで売るのを見たという。

「だから私たちはこうした国々の政府に言ったんです。『何とかしないといけない、これは危険ですよ』って」とシャウラーさん。「多くの国では、大発生のときにサバクトビバッタを市場で売るのは違法になりました」

第二に、バッタの大群はあまりにも巨大だからだ。ケニアで見られたある群れは、長さ60キロ、幅40キロに及んだと、FAOは報告している。「そんな大群を捕まえようなんて、ナンセンスです」と、フイスさんは指摘する。
食べてもあまり意味はないと、シャウラーさんも話す。農薬の使用を避けるような余裕もないという。

「もしバッタの大群が農地に現れたら、政府は直ちに薬を散布するでしょうね。農家の人が食べるためにバッタをとるのを、待ってはくれませんよ」

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動画:市場で売られているバッタ


食べて被害を減らそうとの考えは「新しいものではありません」と、バッタ問題に取り組んでいるCILSSサヘル機構(西アフリカ・マリ)事務局長のモハメド・アブデラヒ・エベ博士は話す。巨大な機械でバッタを吸い上げるといったアイデアが検討されてきたという。

でもエベさんは、これは現実的ではないという。

サバクトビバッタは幼虫のときに仲間が多い環境で過ごすと、通常より長い羽根を持つ成虫に育つ。群れをなして遠くまで飛べるようになり、大きな被害をもたらす。

「問題は、バッタを捕らえるために、いつ、どれくらい早く介入できるかということです」とエベさん。「プロではない人は、虫を料理したり捕まえたりすることはできても、国内のどこに繁殖地が分布しているのかについて知識がありませんし、繁殖地は一般的に、とても遠くて辺鄙な地域にあるのです」

とはいえ、バッタは優れた食材だ。バッタを食べれば栄養不足を補える。​​​​​​​
アラブ系米国人であるシャウラーさんは、子どものころに祖父に促されて、干したバッタを食べたことがある。現地では焼いたり炙ったり、様々なやり方で調理されているという。北アフリカのフランス語圏では、味が似ていることから"Crevettes du Sahara"つまり「砂漠のエビ」と呼ばれている。FAOの報告書によると、バッタやコオロギを食べる習慣があったネイティブアメリカンが初めてエビを食べたとき、「海のコオロギ」と名付けたと言われているという。

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動画:鍋で茹でられるバッタ

バッタを食べるのは、アフリカの人やネイティブアメリカンだけではない。
旧約聖書のレビ記には、人々はバッタを食べることが許されているとの記述がある。FAOの報告書によると、ここで言及されているのは、いま大きな被害をもたらしているサバクトビバッタである可能性が高い。いまイスラエルがある「肥沃な三日月地帯」でバッタが実際に食べられていた記録もある。西洋の人が虫を食べなくなったのは、農業によって食糧生産が安定したためらしい。

バッタを食べるときには、気をつけたほうがいいこともある。

トゲの生えた後ろ脚をもぎ取らずに食べると、便秘になってしまうのだという。FAOの報告書は、コンゴ民主共和国での事例を記した1945年の論文を引用して、注意を促している。治すには、腸に詰まった脚を手術で取り除くしかない。バッタが大発生した地域で見つかったサルの死体を解剖したら、消化できなかったバッタが腸にぎっしり詰まっていたという事例もあるという。

食べやすくしようという研究もある。​​​​​​​

ケニアにあるエガートン大学のジョン・ンドゥコ博士らのグループは、干して粉砕したサバクトビバッタを加えたキビの粉は、タンパク質の含有量が高く消化にも良いと、2019年の論文で報告した。「バッタを既存の主食に取り入れることで、栄養失調と戦うために推奨できる栄養価の高い食品を作ることができる」と、彼らは記している。​​​​​​​


動画は前野ウルド浩太郎さんから紹介していただいたものです。感謝!
(初掲載: 2020/2/17)

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