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畑から庭へ

大阪のとある場所の造園依頼があって、その打ち合わせのために数日帰阪していた。ひとりで成せる規模でもなければ、普段は福岡に居るということもあって先輩庭師のsuzumeこと西田さんに応援を頼み、その打ち合わせに共に伺った後、もうすこし滞在するならこっちの仕事も手伝ってほしい、と彼があるときからDMのデザインを請け負っている「Dtree gallery」という、堺にあるギャラリーの裏庭制作に参加した。


そこは元々畑で、Dtree 店主の林さんのお母さんが生前に様々な野菜を育てていたという。そのお母さんが亡くなった後、今後この畑をどうしていくか、そのまま畑として使うには手に余るが、かといって何も手をかけないのも偲びないといったことから、庭師のsuzumeに声が掛かったのだという。

そこを私が訪れたときには、畑一面に畝が立てられていたところに、一本の蛇行する道が付けられていた。これを基準にいくつかの島をつくって初日を終え、翌日は朝から木を仕入れに、勤めの頃からお世話になっている古川庭樹園に行って、林さんが好きだというカツラをはじめ、ヒトツバタゴ、ヤブデマリ、オガタマ、ビワ、カゴノキ、サンショウを軽トラに満載し、ギャラリー横の庭の細道を何度も往復しながら搬入、それからはひたすら島をつくっては植栽するということを繰り返した。


島をつくるのは畑でいうところの畝のようなもので、地形に高低差を設けると空気と水の流れが良くなる。この流れは植物の健康にとって大切な条件で、ひいてはここに棲まう様々ないきものの健康にも繋がっている。
その島は、畑のように一本調子の畝に単一の野菜を育てるのとは違って、庭には様々な植物が観賞用、食用、飲用等々目的も様々に植えられるので、形もまた自然と様々になる。その形は頭で考えてもうまくいかず、島をつくって木を一本植えると、途端にその島と木がつぎの島と木を要請するかのようにこちらに働きかけてくるので、それに応じているうちに、いつの間にか庭が出来ている。本当にこれを自分達でやったのか、と手をとめて眺めるたびに不思議な気持になる。

オガタマとサンショウの裏にニンニク


そうして時間は矢のように過ぎていった。私が手伝った一日半で、ここの庭の骨格となる植栽と、大方の地形が決まった。これからsuzumeは島ごとに溝を掘ってそこに有機物を絡ませたり、地形のさらなる調整に入るという。しかしそれで庭が完成するのではなく、そもそも庭には完成がない。あるのは過程の連続で、庭がどうなっていくかは施主次第である。この庭は果たしてどうなっていくのか。施主の林さんが話されたところでは、親から引き継いだ畑を、そのまま使うのではなく別の仕方で引き継いでいくにはどうしたらいいかという問題は、きっと私だけの問題ではないから、この庭がそのひとつの参考になれば嬉しいとのことだった。

具体的には、たとえば上の写真にはオガタマとサンショウの裏に横一列に植えられたニンニクが映っているが、地下のニンニクが美味しいのはもちろんのこと、地上の葉の形がいいから、これを灌木のように植えて木の根締めとしてもいいというような話を、ひとしきり作業を終えてから、私とsuzumeは強炭酸水を頂いて、林さんはビールを飲みながら、暗くなるまでずっと話していた。こうした庭の話ほど楽しい話もないものだ。

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