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晴れ舞台をめぐって──《HOMEVIDEO》のごあいさつ

この文章は、この秋に公開した自主公演「SUANA feat. 前久保諒対絶食三平」企画の《HOMEVIDEO》パンフレット用に書かれたものです。《HOMEVIDEO》映像コンテンツを購入すると、下記のごあいさつを含め、メンバーからのコメントや歌詞の入ったパンフレットを読むことができます。デルタ株とオリンピックで文字通り熱にやられていた2021年夏を振り返る、貴重なドキュメントにもなっています。作品映像とあわせてご覧ください。

 ハレとケ。ハレ舞台があるなら、ケの舞台というのもあるのか?──たぶんそんなことはなく、舞台とはつねにハレの場である。少なくともわたしは舞台をそういう場だと理解している。

 ハレとケが誰にも当てはまる世界観だとしたら、誰もが内なるステージをもっていることになる。人生のうちのハレの時間というものが誰にも必ず訪れる、というわけだ。そこで、今一度、自分に問いかけて欲しい。あなたはあなたのハレ舞台を、これまでしっかりと輝きを放って立つことができただろうか?あるいは、これから訪れるハレ舞台を前にして、そこに立つ準備はどうか。

 人生に節目をつけたいなら、ことは簡単である。あなたは自分のステージに立てばいい。舞台だけがステージではない。抽象的なことを言っているのではない。自宅や職場、趣味の場のどこか、あるいは特定の曜日、特定の季節、特定の年齢に、あなた自身の立つにふさわしいステージがあるはずだ。胸を張って立つべき時間、あるいはのっぴきならない決死の時間、それがステージなるものの相貌だ。今日、眼前のステージ=舞台に立つ演者たちは、そういう意味で堂々と節目を迎える人たちだと言っていい。もちろん、この公演を支えてくれるスタッフたちもまた、演者と同じく、ハレの時間を迎えることとなる。

 舞台を猛烈に信じる人たちが、これから公演をする。全力でやる。あなたはその席で、わたしたちが輝くのを見届けて欲しい。今回のあなたの務めがそれだ。そうしてあなたも、あなたのステージを獲得してほしい。あなたがわたしたちを見届けてくれたように、あなたにも、その輝きを見届けてくれる観客は必ずいる。それを予感してほしい。

* * * * *

 上掲文は、今年の春に走り書きしたテキスト。よく企画初期にこういうアジ文みたいなものを複数書きつけてコンセプトを見極めようとしていて、これはそのひとつ。今回は残念ながら本来俳優の眼前にいるはずだった「あなた」がいなくなってしまったけれど、それでもカメラとスクリーンを通して、なんとかこの公演が成就してほしいと願うばかりです。

 あいかわらずのコロナの猛威で数ヶ月先の予定もまともに立てられないようななか、半ば強行的にこの企画を立ち上げ、なんとか実施までこぎつけました。尽力してくれた絶食と俳優陣、またスタッフ、関係の皆さんには感謝の念に堪えません。  

 手短にひとつだけ。なぜ前久保「対」絶食なのか。ここ数年SUANAで元気に頑張っている友人らに触発されて公演をやろうとしたのですが、なにぶんもう学生ではないので、仕事をしながらの準備には雑念が山のように湧いてくるもの。そういうなかで、なにかワンフレーズで創作の時間に入り込めるようなものがないかなと、あれこれ考えた末に出てきたのが、この「対」です。あたかもわれわれがゲームコートに立ち、これから脚本、演出、音楽などなどをめぐって長いラリーを打ち合うのだ──と、こんなイメージが立ち上がるようで、それがいいなと思ったのでした。それに、伝統の阪神巨人戦みたく、2回戦、3回戦、と続いたりしたら面白いだろうなという下心もあり。

 音楽は自分の最近やりたかったことを自由きままにやっています。準備大変だったので、あたたかい感想をいっぱいください!

2021.09.18(東京の感染者数 260名)
前久保諒

前久保諒対絶食三平HOMEVIDEO_VHS風フライヤー

SUANA feat. 前久保諒対絶食三平『HOMEVIDEO』
*この作品は、2021/09/18(土) 〜 20(月)に東京・アトリエ第Q藝術で上演予定だった演劇公演を、無観客・映像収録に方針転換し、撮影&編集した映像です。

【視聴はこちらから↓】
通常Ver.(本編映像、パンフレット、フライヤー)– 3,000円
特別Ver.(通常Ver.+台本、劇中曲音源、固定カメラ映像)– 4,500円
https://suana.base.shop/

企画・音楽:前久保諒
作・演出:絶食三平
出演:みどり(マロバシ堂)、いとういちまつ(ヨカセイカツ)、藤田葵、
堀ユーヘイ(SUANA)、絶食三平(SUANA)

舞台監督:福岡八雲
照明:石川はるか
音響:古川直幸
映像:絶食三平
制作:TK

ストーリー:
 映像制作会社に勤務する高橋智夏は30歳をむかえ、自身と業務のミスマッチや夫との離婚調停などを抱えて、虚ろな日々を過ごしている。ある日、智夏の元に8ミリビデオのテープと手紙が届く。差出人は高校の同級生である雨並美絵。テープは会社の主力シリーズ『ほんとに怖い心霊動画』への投稿映像であり、手紙には自分が智夏の下を訪れるまでテープを再生しないで欲しい、とある。
 そして、2021年9月16日。智夏の前に現れた美絵は、自らの身に起こった出来事について語り出し、そこから二人の過去と現在が交錯する奇妙な1週間が始まった──
「第二の思春期」直撃に右往左往する30歳の姿を、日本のホラー文化へのリスペクト満載で描く、ホラーだけどホラーじゃない物語。


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