「”あの花”で見た街の名前を僕はまだ知らない。」”ソロの細道”Vol.11「埼玉」~47都道府県一人旅エッセイ~
「聖地巡礼」。
アニメや漫画などの舞台を巡る、映画の「ロケ地巡り」のことを指す言葉は、今や一般的な言葉になっている。
アニメ聖地巡礼発祥の地として長野県の田切駅に石碑がある。この石碑によると、1991年にゆうきまさみ「究極超人あ~る」のファンが、この田切駅を訪れたのが最初ということらしい。
そんな聖地巡礼だが、個人的にはそこまで夢中になることはこれまでなくて、もちろん旅の計画の中で近くに立ち寄れる際には見物することもあるけれど、聖地巡礼のためだけにその土地に行く旅をする、ということはしていなかった。
まあ、このエッセイの岩手県の回で書いているように、「ひょっこりひょうたん島」のモチーフとなった島を見るために大槌町を訪れたりはしているけれど、あくまでも一週間の北東北旅の中の一部分なわけで。
あとはよく考えてみれば史跡巡りというのも、ある意味で「ロケ地巡り」みたいなものだよなあと。
さて本題。
埼玉県の秩父市は、名作アニメ「あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない。」の舞台となった街。
「あの花」とファンからは略して呼ばれるこの作品は、ちょうど10年前にフジテレビで放映されたもので、今でも多くのファンから支持されている。
かくいう私も数年前にサブスクで1話から見始めたのだけれど、その当時は毎朝通っていたジムのトレッドミル(ウォーキングマシン)についた液晶画面でアニメを見ていたので、この作品の最終話を朝のジムで見てしまい、ジムで号泣するのを汗だと誤魔化していたことを今でも覚えている。
そんな大好きなアニメ作品の一つの舞台、秩父市に訪れることになったのは、コロナが一段落していた今年のゴールデンウィークの頃だった。
池袋から西武線に乗って秩父へと向かう。
西武線が誇る新型”特急ラビュー”はめちゃくちゃスタイリッシュな座席の車両は、座り心地も最高で、車窓もとても広くて見やすいという最高なのだけれど、いかんせん活かしきれてないという。
というのも西武秩父線は途中で進行方向が逆になってしまうのだけれど、それに合わせて座席を手動で回転させないと、途中から後ろ向きに進むことになってしまうわけ。
かつ、この広い車窓を活かせる景色が楽しめるのは、池袋から向かうとすると後半なわけで。
となると途中で座席を回転させないとその景色を楽しめないわけだ。
にもかかわらず、このご時世ということもあって、乗客が協力して座席を回転させるということが起こりづらく、結局ほとんど座席はそのままで乗ることになるという。
もったいない。
まあコロナが落ち着けば仲間で向かい合わせに座って楽しめるかもしれないけど。
ちなみに帰りは帰りで、しっかり進行方向で景色が楽しめるわけだが、秩父でたっぷり楽しむと帰りは夜になるわけで、暗くて何も見えないという・・・。
あれだけ最高の車両を何とかうまく使ってほしいなと強く思った鉄道旅だった。
さて秩父市。この日帰り旅の目的は、奥秩父にある「三峯神社」への参拝。
行きは西武秩父駅からバスで直接三峯神社へ向かうも、さすがゴールデンウィーク。神社まで一本道になっていることもあって、参拝客の車で大渋滞。
結局、本来の乗車時間である1時間の倍以上の時間がかかって神社へ到着したころにはもうへとへと。さすがにしんどい。
そんなこんなで三峯神社を参拝。さすが関東一のパワースポット。
三峯神社の特徴と言えば、オオカミを守護神(=お犬様)としていて、狛犬の代わりに狼の像が色々なところに飾られていること。
いわゆる御眷属(山犬)信仰というやつで、江戸時代にはかなり信奉されていたのだという。
あと入り口すぐにある三ツ鳥居は日本でも珍しい様式だったりする。
手が異様に大きく見える日本武尊銅像や、色彩豊かな本殿を見物した後、売店で一休み。
さいたまB級グランプリで優勝したという秩父名物の「みそポテト」を美味しくいただきつつ、いよいよ本日のメインとなる三峯神社奥宮を目指す山登り。
その前に訪れた奥宮遥拝殿から眺めるとかなり遠くに感じるが、片道1時間ほどの登山路に挑戦することとしよう。
さて、いよいよ三峯神社奥宮へ。
土産屋さんの横の道を進み、奥宮参道入口の石碑から歩き始めてすぐ、反対側から死ぬほど辛そうな顔のおっちゃんが歩いてきた。
それを見て「えっ、そんなに辛いの?」と若干不安な面持ちに。
とはいえ怯むわけにはいかない。
奥宮までは標高差200m、距離にして3kmほどの道程。
最初の鳥居を過ぎたあたりから、道は舗装されていない山道に。
そして二の鳥居、三の鳥居と通過していよいよ山頂にある奥宮へと辿り着くわけだが、途中に何の目印も無いような場所もあり、歩いててどこに進めばいいのかわからないという状態に陥りそうになったり。
まあ、ほんと山の中を進んでいる感じでした。
そんなこんなで途中息を切らせながらも、ほぼノンストップで山頂まで約1時間ほどで到着。
頂上に着いて素晴らしい展望を眺めた時には、やはり達成感があった。
そして「ここでビール飲みたい~」なんて不謹慎な感想を持ったことはここだけの秘密で・・・。
帰りは下り路ということもあって、40分ほどで降りられたわけだが、ぶっちゃけかなり楽だった。
そうなると「行きにすれ違ったあの苦しそうだったおっちゃんは何だったんだ?」という話になるわけだけれど、その真相は謎。
個人的には「ああやってこれから登ろうとしている人たちに不安を感じさせて喜んでいるのでは?」という”おっちゃん愉快犯説”が濃厚だ。
そんなこんなで楽しめた三峯神社。行き帰りの混雑さえなければとても良い神社なのだけれど。
少なくともゴールデンウィークや盆休みといった長期休暇中は避けた方が良さそうだ。
さて、三峯神社を後にして、これまた大混雑&立ち乗りでしんどいバスに揺られて、帰路へ。いよいよ聖地巡礼だ。
初めて訪れた秩父の街は、至る所に登録有形文化財の古く趣のある建物があって、歴史を感じさせる街並みが楽しめた。
そして秩父神社に秩父麦酒と街歩きを楽しむ。
いよいよ「あの花」をモチーフにしたモニュメントが見えてくる。
この秩父市には、作品内で登場した数々の場所がある。しかもそれらの場所はマップとして駅前の観光案内所で配布されているのだ。
正に街を挙げての「聖地巡礼」である。
写真は街中にあるモニュメントだが、街の至る所に作品のポスターがあったり、駅隣接の売店には作品に関連する名前の商品が売られていたりと、ファンにはたまらないと言える。
「あの花」は、正直笑えるようなアニメじゃないし、見た人それぞれが過去のトラウマをえぐられるような、そしてストーリー展開に涙してしまうような作品。
だからこそ笑っての聖地巡礼は出来ないのだけれど、だからこそ必ずこの作品に触れた人にとっては「思い入れのある場所」があるはずであり、それをここ秩父市で見つけるというのも、素晴らしい体験だと思う。
三峯神社とあの花。
秩父を舞台にその魅力を伝える二つの様子を見に、またいつか訪れたいと思う。
その時には「あの花」を再度一から全部見直して、そこから思い入れが強くなった状態で、この地を再訪したいものだ。
秩父の最後は、駅隣接の温泉や売店がある観光施設で、埼玉県の酒蔵の日本酒を飲み比べたり、帰りの車内用に地ビールを買って、帰路につくのだった。
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