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「酒とグルメとお寺と神社」”ソロの細道”Vol.15「新潟」~47都道府県一人旅エッセイ~

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

あまりにも有名すぎるこの書き出しで始まる小説と言えば、川端康成の「雪国」。学生の頃に誰もが一度でも目にしたのではないだろうか。

私が大学の文学部で専攻していたのは近現代日本文学であり、そういった意味ではこの「雪国」という小説は、メジャーすぎる研究対象とも言えたかもしれない。

残念ながら私自身が選ぶことはなかったものの、ゼミ仲間の中にはこの小説を選んだ人も居た。

さて、じゃあこれはどのことを指しているのか。これもまた有名であるが、新潟県の湯沢温泉でこの小説を書いたことから、この冒頭に出てくるトンネルも、水上から湯沢に抜ける上越線の清水トンネルがモデルであるとされている。

それを知っていた大学生の頃の私は、ちょうど部活の合宿が越後湯沢の合宿所で行われたタイミングで、ドキドキしながらトンネル通過を待ったものだ。

こうしてトンネルを抜けて「おお、ここがあのトンネルか」と感動していたのだけれど、その後更なる知識を得てしまって、実は清水トンネルは現在では上りのみ、つまり東京行きでしか使用されておらず、下りでは新清水トンネルという別のトンネルが使用されているのだ。

つまり、実際に川端康成が見たトンネルからの光景は、今では見ることが出来ないということになる。

うーむ、なんとも悲しい。そして大学生時代に喜んでいた自分自身が少し恥ずかしい。

しかしこの新清水トンネルも捨てたものではなく、そのトンネルの途中駅である「土合駅」は”日本一のもぐら駅”として知られ、トンネル内の下りホームと地上にある上りホームは約500段の階段で繋がっているので、鉄道好きにはたまらないスポットになっている。

(住所としては群馬県みなかみ町になるので、今回詳細は省略する)

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しかしまあ、新潟県も雪がすごい。冬に行くといつも大雪。

だからこそスキーがさかんなのかもしれないけれど。


そんな新潟県には、7~8年前には1年ほど毎月仕事で通っていたこともあり、また佐渡島に渡ったり上越市にお城を見に行ったりと、何度も通っていた地域の一つ。

ただここ最近は、特に新潟市方面にはなかなか行けていなかったので、今回旅をすることにしたのだ。

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旅の目的は、ご当地グルメと寺社仏閣巡り。そんな旅を少し振り返ってみよう。


新潟エリアのご当地グルメとしては、タレかつ丼や新潟五大ラーメン、栃尾揚げにへぎそば、そしてコシヒカリなどがあるが、新潟市で有名なグルメとしてはこの三つだろう。

「バスセンターのカレー」「イタリアン」「半羽揚げ」。三種の神器かの如く、市民に愛されている。

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まずは「バスセンターのカレー」だ。もともと知らない人にはなんだこれ?という名称だが、正にその名前通り。新潟の万代シティバスセンターの中で食べるカレーでしかない。

バスセンターの中には昔から市民に愛されている「万代そば」という立ち食い蕎麦のお店があり、そのお店で出している名物メニューが「カレーライス」。

正直、見た目は学食などで出てくるレトロなカレー。黄色っぽいルーの上には真っ赤な福神漬けが鎮座している。

「どうせ観光地のグルメみたいなものでしょ?」と軽くあしらうなかれ。

これが本当に美味しいのだ。ちょっとびっくりするくらいに。

私も出張で新潟を訪れていた際には、たまに食べたくなって食べに来ていたくらいなのだから、地元民にとってはついつい食べてしまうことだろう。

そんなバスセンターのカレーをまずは食べようと、意気揚々とバスセンターに向かったのだけれど、結果は惨敗。閉店ギリギリに訪れたので、もうカレーメニューは完売してしまっていた。

7年ぶりのカレーを楽しみにしていたのだが、落胆を隠せない。

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とはいえここで試合終了にするわけにはいかない。

同じバスセンタービルの中には「イタリアン」発祥のお店である「みかづき」があるのだ。

この「イタリアン」は、もちろん単なるイタリア料理ではない。というよりもそもそも”イタリア料理”ではない。

ナポリタンがナポリの料理でもイタリア料理でもないのと同じこと。

新潟の「イタリアン」とは、「イタリアン焼きそば」のことを指す。

もっとわかりやすく言えば、「焼きそばの上にミートソースをかけた料理」だ。

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見よ、このビジュアルを!

正直この見た目だけ見ると敬遠してしまう人が居るかもしれない。

しかしながらこの「みかづき」のイタリアンは、しっかりとウマい。単なる焼きそばに単なるミートソースをかけているわけではなく、それぞれがしっかりと合うように味付けされているのだ。

沖縄のタコライスが「タコスの具をライスの上に乗せただけ」ではないのと同じく、様々な工夫が凝らされているのが「イタリアン」なのだ。

しかも、みかづきには多種多様な「イタリアン」が揃っている。

正に多種多様なハンバーガーが揃っているファーストフード店のように、新潟のファーストフード店と言えば、イタリアンなのだろう。

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新潟市の三大グルメの最後は、”半羽揚げ”だ。これはシンプルに説明すれば、半分に切った鶏をまるごと揚げた唐揚げで、味付けはカレーパウダーなのが特徴だろう。

そしてこれがまたウマい。今回いただいたのは発祥のお店である「せきとり」だったが、カレーのスパイシーさが鶏肉のジューシーさを引き立て、かなりのサイズだがあっという間に食べられてしまう。

店内を見ると、なんと女性客が一人でふらっと訪れては、ビールなどを飲みながら、または白米と共に、大きな半羽揚げにかぶりついていた。

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ファーストフード店ならではの明るい内装の「みかづき」にはおっちゃんが一人で食べに来ていて、そして酒場の雰囲気である「せきとり」のカウンターでは、若い女性が一人で鶏肉にかぶりつく。

このお店と客のミスマッチに見える光景こそ、新潟市民に愛されているソウルフードだということの証明なのだろう。


さて、お次は寺社仏閣巡りである。

今回は越後一宮である弥彦神社と、稀代の名工・石川雲蝶の作品を巡って六日町の寺院を巡った。


弥彦神社(彌彦神社)は、弥彦山をご神体としている歴史ある神社で、古くから越後の人々に崇拝されていた神社。

JR弥彦線の終点である弥彦駅から歩いて15分ほどで到着すると、想像よりも大きい境内には気が生い茂り、また綺麗に整備されていることもあって非常に良い”気”を感じさせる。

大正5年に再建されて現在でも残っている本殿はじめとした建物など見どころも多く、あいにくの天気だったものの清々しく参拝が出来た。

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そして弥彦神社参拝後のお楽しみ。参道にある酒屋さんで飲めるのがYAHIKO Brewingのビール。

弥彦ブリューイングは、その酒屋さん自身が醸造しているビールで、開業は令和元年。まだ二年という出来立てほやほやのビールだ。

島根県の石見麦酒が開発した、冷蔵庫で作るビールの製造方法で作られるビールは、「ジュースのようなビールを目指す」という目的通り、いちごミルクやラフランスといった、ビールではあまり見ない原料を使って、少量を提供している。

飲み比べセットを頼むと、ご当地グルメの一つである「イカメンチ」もサービスされるので、三種類のビールとつまみを参拝後に楽しめるのだから、酒好きにはたまらなかった。

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さて、最後に石川雲蝶の作品巡りだ。

この石川雲蝶、知る人ぞ知る江戸末期から明治時代にかけての名工で、あの中島誠之助に「越後(日本)のミケランジェロ」と言わしめるような素晴らしい作品を残している。

元々は江戸に生まれて幕府に仕え、そこから新潟へと拠点を移した石川雲蝶は、新潟県内のいたるところの寺院で作品があり、こうした作品を巡るバスツアーも催行されているのだ。

この石川雲蝶について、この中で詳しく書くつもりはない。

ただ、少なくともあまり全国では知られていない名工の作品がこうして新潟に存在し、そしてその作品を実際に見て魅せられたわけで。

それを踏まえると日本はまだまだ捨てたもんじゃないし、他にもこうした発見があるとすれば、生きる楽しみを得た気がした。

ちなみにバスツアーで巡ったのは、”天女像”などがある永林寺に、雲蝶最大の作品である天井彫刻”道元禅師猛虎調伏の図”がある西福寺などを巡った。

なかなかメインの作品は撮影できないのだけれど、天井彫刻のある西福寺の開山堂は外からであれば撮影できるので、それを収めさせてもらった。

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石川雲蝶作品の特徴と言えば、岩絵具を使った色鮮やかな彩色と、優雅さすら感じさせる彫りの緻密さ&躍動感なのだけれど、上の写真では躍動感と緻密さだけでも伝われば嬉しい。

こうした緻密な彫刻が色鮮やかに色付けされているのだから、迫力がすごいのだ。


こうした作品はなかなか東京の美術館で見ることも出来ず、それもあって知名度は上がり辛いのだけれど、こうした「知る人ぞ知る」名工が存在する新潟県への旅で、堪能するのがオススメだ。

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