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100日後に年越すオレ 93日目「し:芝浜」

”いろは順”エッセイの四十二日目、本日は”し”です。

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"し”で選んだ題材は、「芝浜」。落語の名作であり、この年の瀬といえば、という噺ですね。僕も大好きな一席です。

「芝浜」のあらすじを少しだけ書いてみましょうか。

魚屋の勝五郎は大の酒好きで、魚の目利きの腕はいいのに怠け者でお酒のせいで仕事でも失敗ばかりでうだつが上がらない。そんな勝五郎を支える奥さんに「いいかげんに仕事をして」と促されて、久しぶりに仕事へ。朝早くから河岸に向かったものの、朝が早すぎてまだ河岸はやっていない。しょうがなく浜(=芝浜)で時間をつぶしているとなんと大金入りの財布が!
大急ぎで自宅に持ち帰って中を見ると五十両の大金。「これだけあればもう好きに生きていける」と大喜びで仲間を集めては昼からどんちゃん騒ぎで、そのまま酔い潰れる勝五郎。
翌日、奥さんにまた同じように起こされる勝五郎。「いいかげんに仕事をして」と言われて昨日の大金があるじゃないかと言うと、何を寝ぼけているのと呆れられる始末。慌てて家中を探すものの財布は見つからず、本当に夢だったのだとショックを受け、もはやここまでかと決意して断酒し懸命に働き始める。
元々腕の良かった勝五郎。三年後にはお店を構えるほどの働きぶり。その大晦日にしみじみ夫婦で話していたところ、奥さんから告白が。奥さんが出してきたのはなんとあの拾った財布。実はあの後、大家さんに相談してちゃんと役所に届け出て、夢ということにしてしまったということ。そのことを詫びつつ、財布の持ち主が現れずに戻ってきたことを伝えた奥さんに、逆に感謝を伝える勝五郎。お前のお陰でこうして暮らせるようになったのだ、と。
そうしてしみじみと大晦日を迎える夫婦。久し振りにお酒はどうかと進める奥さんに喜んでお酒を飲もうとした勝五郎が手を止めて一言。
「よそう、また夢になるといけねえ」

この作品の舞台である”芝浜”は、今の港区芝であり、昔はそこが海岸だったんですね。

「芝浜」については落語の数ある噺の中でも人情噺の名作だとして評価されていて、年の瀬に必ず聞きたい、とされる噺なんですよね。僕も毎年必ず年末に聞いています。

一昨年は芝浜の舞台にある正伝寺の「芝浜落語会」に行くことが出来ました。正伝寺は、”職業噺家”の元祖とも言われている初代の立川談笑の墓があるお寺で、この「芝浜落語会」はその正伝寺で当代の立川談笑師匠が落語をするという素敵なイベント。年の瀬だし場所は芝浜だし、そもそも会のタイトルが芝浜落語会だしで、立川談志直伝の立川流芝浜を聞けると思いきや、さすが立川談笑師匠。思いっきりブラックに改作した”シャブ浜”を聞かせてくれました。(笑)

ちなみに”シャブ浜”は主人公が元ヤン夫婦になっていて、シャブ中の夫がジェラルミンケースを拾ってその金で豪遊、そして留置場へ、というテレビでも放映できないようなぶっ飛んだ改作。
最終盤で奥さんが夫に語りかける姿は談志の芝浜を想起させてちょっとしんみりしましたけど、奥さん、レディースの元総長なんですよね。立派なお寺の講堂で、老人や子供も多い中この話を聞くというのもまた面白くて、今でも記憶に残っている”芝浜”でした。


昨年はというと、翌年(つまり今年)の真打昇進が決まっていた三遊亭歌太郎さん(現・三遊亭志う歌師匠)の落語会にて”芝浜”を堪能しまして。歌太郎さんは直接の面識は無かったものの大学の一年後輩だったりしたので時折落語会には顔を出していたんですが、NHK新人落語大賞も受賞していて満を持しての真打昇進。二ツ目として最後の芝浜は、Instagramの写真でも分かるように真ん前の席でじっくりと十分に聞かせてもらいました。やっぱり「芝浜」は会場中がしんみりをするのを感じるのが好きなので、このくらいの大きさ(数十人)の会場だとより良いなあと。一緒に行った後輩も少し涙ぐんでたし。


今年はというと残念ながらまだ「芝浜」を聞けておらず、今年はもう落語を聞きに行く機会が無いので、これはもうネットで聴くしかないなあと思っていたら、さっき放送していたTBSラジオの「問わず語りの神田伯山」で2007年の談志師匠が独演会でやった「芝浜」が伝説だった、というエピソードを話されていて、それを聞きたいなあと探してます。

芝浜といえば談志師匠、と言われることも多いくらいの談志師匠の芝浜の中でも伝説となった回、果たしてどうなんだろうか、と。もちろん談志師匠の芝浜自体はネットで何パターンも聞いてはいるんですけどね。

今年の年末の楽しみになりそうです。


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いらすとや、「芝浜」のイラストもあるとは、恐るべし!!

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