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立ち止まれる力

あるビジネススクールで行われたケーススタディを紹介します。

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登場人物はジェニー、リー、ピート。ジェニーは小さな広告会社の若手社員で、ピートというオランダ人男性と契約間近までこぎつけた。ここで話が決まるかもしないという大事なランチにジェニーは上司であるリーに同席を頼む。リーがピートに会うのは初めてだ。食事中、ピートは何度も「ジェニーみたいな若くてきれいな女性と仕事ができるのは嬉しい」と言った。リーはジェニー同様それを聞き流し、仕事の話に専念した。「彼女をプロジェクト担当にしてもらえるんだろうね?」とピートが念押しすると、リーは「ええ、他の者と何人かで」と答えた。ランチが終わるとピートは、ジェニーを手で指しながらリーに言った「美人との食事はいつだって大歓迎だよ」と。

その後、生徒のディスカッションではまず、ジェニーのジレンマが話題にのぼります。彼女はどう解消すればよかったのか、ピートの発言が性差別的であることを指摘するべきか?クライアントを失うリスクを冒してでも?それとも契約を成立させるため黙っているのが正解だったか?
リーに関する意見もたくさん出たが、批判的なものが中心。上司は部下を守ってやるべきなのに、冷たすぎるといったものです。

そのディスカッションの途中で、教授が忘れていたかのように発言します。
「ああ申し訳ない、うっかり忘れていましたが、リーは女性です」

生徒たちは息を呑み、自らの思い込みに笑うしかなかったそうです。
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このケーススタディの目的は「性差別的な発言に対してどうするか?」ということではなく、教授が最も伝えたかったことは「人は先入観を持って判断してしまいがちだ」ということでした。

この話はWait, What?(ウェイト、ホワット?) ハーバード発、成功を導く「5つの質問」の一節にあります。本の中では、何かを主張する前に「待って、なにそれ?」と自らに問いかける必要があると説きます。私達は分かっていないのに分かったつもりになって話を進めたり、対象を先入観で決めつけています。「待って、なにそれ?」と聞くことは相手の意見や主張をより深く理解することにも繋がります。(好奇心を忘れずにですが)

古い小話に鍵をなくした男の話があります。夜道を歩いていると、街灯の下で1人の男が探しものをしています。話を聞いてみると「鍵を落としたがどこで落としたか思い出せない。夜であたりが見えないので街灯の下を探しているんだ」と答えたそうです。この話はフィクションではあるのですが、少し立ち止まって考えてみることの重要性を示唆しています。

この問いかけが絶妙だなと思うのはよくあるそもそも論を持ち出さないことです。決して議論のちゃぶ台返しではなく、対象を理解しようとしている姿勢があるのです。人は本能的に分からないもの、知らないものを嫌う傾向があります。昔から未知のものは敬遠される運命でした。1865年、イギリスでは車の前を人が歩いて先導し、赤い旗を振って歩行者に警告する赤旗法が制定されていました。現代からするとバカバカしいですが、それくらい理解できないものに対して拒否反応を表してしまうのです。

レッドブルやモンスターなどエナジー系ドリンクよりもリラクゼーション系ドリンクのCHILL OUTやモクテル(アルコールの入っていないカクテル)、娯楽大麻の解禁と成長や前進を求められる世の中に「待って、なにそれ?」と問いかけているのかも知れませんね。

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