伝説を超えるとき 羽生結弦の ICE STORY 2nd ”RE_PRAY” 贅沢すぎるアンコールと美味しすぎるデザート
ICE STORY 2nd ”RE_PRAY”本編終了後に、惜し気もなく技と体力を注ぎ込んだアンコールを見せてくれた羽生選手。贅を尽くしたコース料理の後に、メインディッシュをしのぐ勢いで手間も材料も惜しまないゴージャスなデザートを2品3品続けて出してくる感じというか。
しかし、このデザート重視のスタイルは、ちょっと近年のフランス料理のトレンドに似ているかも…。
ミシュランの星がつくような店はコースの流れを美しく完成させるデザートに心血を注ぐ。ストーリィ性を盛り込んだ個性的なもの、サプライズのあるもの、その店のスペシャリテ的な一品を出してくる。
メインディッシュ以上に変化や個性を出しやすいということもあり、最後の一皿として店を強く印象づける効果が望めるからだという。
友人たちとの女子会で一番人気の和食屋さんは懐石コースの最後にスイーツが2回出てくる。季節の果物などを使った繊細で創作的なもののあとに麩饅頭やわらび餅が来たりする。すべて主である板長が自ら作るそうで、これがめっぽう評判がいい。どなたをお連れしても喜ばれる。
そういえばフランス料理でもアーティスティックなデザートの後に可愛いマカロンみたいな小菓子が出てきたりする。
日本人パティシエ・杉山あゆみさんがパリで経営するレストラン「アクソン・ターブル・ブルス」もデザートが評判。他の店にパティシエとして勤めていた彼女のデザートにほれ込んだ某食通氏が共同経営を申し出たことからスタートした店だ。「スイーツの店を」というオファーに対し、コース料理を完成させるデザートの面白さ、全体の印象を左右する支配力に魅力を感じていた杉山さんはあえてシェフ・キュイジニエを別に迎えて自分はシェフ・パティシエとしてデザートを担当するスタイルのレストランを企画。ドラマチックなデザートが印象的なコースで見事にミシュランの星をとってみせた。
ヘビーでゴージャスな宮廷晩餐会のための料理から始まったフランス料理は、時代とともにどんどん変化しながらオフィシャルな晩餐のグローバルスタンダードとして地位を築いてきた。そして今は豪華さで驚かすというより、物語性や全体の調和、洗練されたヴィジュアル、アミューズからデザートまでの流れに配慮し、「最後にお客の心に何を残すのか」を重視するスタイルがトレンドであるようだ。
羽生もまた受け手の心に何が刻まれるかに重きを置いて創作しているように見える。心のうちの思いを届けるためにアンテナを高く、鋭く張り巡らし、より多くの人に伝わるよう新たな手段を求め、表現を磨き続けている。だから国境もジャンルも超えて共鳴するファンが増え続けるのだ。
羽生結弦が創り出すフィギュアスケートがトレンドとなり、アートとなり、競技者時代に打ち立てた伝説を超えていく、その過程を目の当たりにできるのはなんと贅沢なことだろうか。
PS:
羽生選手の最後の公式試合は北京オリンピック。ソチ、平昌と二度の五輪を連覇し、平昌後に「あともうちょっとだけ滑る」と言ったとき、周りは2~3年後の競技引退を覚悟したと思います。しかし、見えざる力に導かれるようにして4年後の北京に出場し、最後の成績は4位。横綱が負け越さないうちに引退することを良しとするような、従来の日本的感覚からみれば「出ない方がよかった」と言われかねない状況だったかもしれません。
でも世界はそうは見ませんでした。
選手生命を賭けて4Aに挑み、敗れて「報われない努力だった」と涙した彼の後ろ姿にたくさんの人が心を震わされたのです。
北京後に世界中で爆発的にファンが増えたことはご存じのとおりです。企まざる成り行きから生まれたことですが、平昌後の4年間の苦闘と、北京での4A挑戦が無ければ、ソロ・コンサートが何度も世界配信されるようなグローバルな名声にはまだ到達していなかったかもしれません。
2つの五輪金メダルは最高の名誉に違いありませんが、北京の4A挑戦と悔し涙もまた「羽生結弦」にしか成しえない唯一無二の結果でした。
羽生選手のお誕生祭としてメタバースで公開された”RE_PRAY”の中の「メガロヴァニア」はゲーマーの皆様に熱く受け止められているようです。名声が高まると雑音も大きくなったりしますが、ジャンルも世代も超越して「羽生結弦」に喝采を送る人が増え続けている世界は、やっぱり素敵だなと思います。
今年も残りわずかになりました。ご愛読いただいてありがとうございます。
新しい年が皆様に幸せをたくさん運んできますように!
・伝説を超えるとき 羽生結弦の ICE STORY 2nd ”RE_PRAY” Vol.1
・伝説を超えるとき 羽生結弦の ICE STORY 2nd ”RE_PRAY” Vol.2
・伝説を超えるとき 羽生結弦の ICE STORY 2nd ”RE_PRAY” Vol.3