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心の景色

いつも頭の中から消えない景色があって、それは荒涼とした平原を砂埃にまみれながら一人きりで旅するさま。何かを目指して旅するわたしは、もう何日も手入れしてない長い髪を一つお下げにして後ろに垂らし、全身にまとった衣服は擦り切れ、顔は日焼けなのか汚れなのか黄土色になり、荷物もかなり少ない。何かしらの動物の皮で拵えたブーツは、旅の途中で何度も繕ったであろう、つぎはぎだらけで、また新たな綻びを携えている。同じように何かしらの皮で拵えた衣服を全身に纏い、手の甲と手首にまで同じような皮で保護被覆をしている。風に吹かれるおくれ毛を手で払うこともなく、眼(まなこ)だけは鋭く、狙った獲物は逃さんばかりに遠くの目的地に焦点を合わせている。

とにかく行かなくては、という使命感と覚悟と決意だけが、私の歩みを進めている。進むのは天命だから。誰に頼まれたわけでも、自らの喜びのためでもなく、進むことが自分の魂に刻まれていることを知っている。ただそれだけなのだ。圧倒的な孤独と静寂と、そして無心。地図も仲間も他の生き物や音もない。

安らぎの故郷も愛すべき子どもたちからも離れ、わたしは旅を始めた。天命であることを知ってしまったから、行かずにはいられない。そうやって生きることが自分の魂の意図であることを知ってしまった以上、誤魔化すことはできないのだ。

こういう景色を思うとき、たった一筋の涙が音もなく流れる。

これがわたしの心の景色で生き様なのだ。

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