装置産業か、サービス産業か、温泉旅館
今では、当たり前になっている「再生温泉旅館」。
バブル期での過剰投資が足かせになって廃業に追い込まれた温泉旅館が、伊東園ホテルや湯快リゾートなどの新しい新興企業によって、これまで温泉旅館にはほとんどなかったブッフェスタイルの食事を提供し、仲居さんも居ない新しいサービススタイルのいわゆる「再生旅館」で再スタートするというビジネスモデルは、もはや今では当たり前になった印象がします。
大まかではありますが、再生温泉旅館の特徴は、低価格、バイキングスタイルの食事、仲居不在(スタッフが少ない)、館内のフリーコンテンツが多い、冷蔵庫が空、など従来の温泉旅館での「当たり前」を完全に無視しているのが特徴だと思う。
個人的な経験だが、某大手旅行会社に予約して泊まった高級旅館の話。チェックインして客室には入るなり、番頭がやってきて、「ようこそ当館にいらっしゃいました。J〇B様には日頃より大変お世話になっております」と挨拶してきた事にビックリ。そして翌朝早いので、630に朝食大丈夫かと確認して了解されたにも関わらず、朝食に女将が出てきて、板場が来てないのでこんなものになりますが・・、と案内されたお膳には、ローソンのおにぎりとみそ汁だった。仕事で時間もなくすぐに朝食を済ませてチェックアウトしましたが、その宿は、その温泉地でもハイクラスの施設。怒る気にもならずただただ呆れるサービスでしたが、数年後ふと思い出して確認したら、中国資本に売却されていました。
市場が激変しているのに、変わらないサービスをしていた施設のなれの果てでしょうが、そもそもお客を見ずに旅行会社を見ていた旅館の典型かと今では思います。
市場ニーズに応じて、常にイノベーションをする。旅館であれば、サービスオペレーションを変えることでF/L(人件費と食材費)を最適化し、新しいニーズの獲得に成功する、という再生旅館がやはり市場を変えていく事になったのは必然と感じます。
再生旅館で、同じくサービスオペレーションを変更している、星野リゾートや共立メンテナンスなどは、ハイスペックで自社ブランドに見合ったサービスへのリモデルを試みて成功しているケースもあります。温泉旅館業は、そういった再生という新しいフェーズに入ってすでに20年以上が経っています。
温泉旅館を、装置産業としてみた場合、施設のスペックや仕様・品質など箱の価値を上げていくという視点が重要になります。ロケーションに加えて何より非日常を演出していくには相応のレベル感が必要なので、投資回収計画によりますが、高い客単価設定を進めていく事になり、その価格で集客できるターゲティングを進めて行くようになります。
一方で、空間利用としてのサービス商品と考える場合、約20時間程度の空間の「コト」の価値をどう創造していくかが課題になります。
バイキングスタイルの低価格サービスの施設では、オペレーションのコストを抑えて低価格にしていくことで、より多くの新しい顧客開発が可能で、高稼働が期待できます。
新たに温泉旅館を建築して運営して行くためには、数億単位の大きな投資が必要ですが、旅館を再生する場合では、施設改修のコストは大きく低減できるので、投資回収の期間は大幅に短縮でき、サービス商品としての宿泊のトレンドにアジャストしやすいメリットもあります。
今でも全国津々浦々で旅館は再生されて、新しく生まれ変わっていますが、昨今では大手チェーンが席巻しており、中小規模の昔ながらの温泉旅館がなかなか事業承継や人手不足のこともあって立ち行かなくなっている現実もあります。お客様にしてみれば、安い旅館、楽しい旅館、落ち着く旅館、優越感に浸れる旅館など、いろんな旅館があることで選択肢が増えていくのは良いのだが、大規模施設だけが生き残っていく状況は、歓迎したくない思いです。
時代の流行やニーズは、インターネット社会によって、さらにSNSの進化で急激に変化する時代で、なおかつ細分化されている時代です。インバウンドによって観光産業の一角を担う温泉旅館も、大きく様変わりしている時代。お客様は、そこに特別な体験をしに行くので、発想としては、「装置産業」ではなく、「サービス産業」と言う側面で考えることが、ますます重要になるのかと思います。