漫画家がKDPオンデマンド出版で連載・続刊中の漫画単行本を3巻から出した話
こんにちは、氷堂です。
7/18にストーリアダッシュ(竹書房)連載中の作品「虫の皇女マユの旅」3巻紙版を、出版社の許可をもらいつつKDPオンデマンド出版しました。ここでは、発売までの過程と学んだことをシェアしたいと思います。
この記事は、「沢山刷る規模の作品じゃないけど紙の本を待っていてくれる読者さんが確実にいる」クラスの漫画家さんに特に参考になるかもしれません。ただし、どの出版社でもOKを出せるような事じゃないと思うので、「紙が出ない」状況だけは突破できる、ぐらいのイメージで今はどうかひとつ。
1. 出版社との交渉
当時の状況
出版社:連載中の著者によるKDPオンデマンド出版の前例→なし
竹書房さんは「前例ないけどオッケーですよ」と快諾してくれました
色んなレーベル渡り歩いてきた私から見ても、わりと特殊だと思います
快諾してもらった手前、あとから「この権利どうする」「あの使用権どうする」って問題が出てきて、その都度編集部の手間を取らせてしまうのが嫌だったので事前に問題になりそうなことを全部リストアップして送りました。
提示&事前にクリアした要件
個人出版の許可を得る(まずはこれ)
個人出版は紙版のみという約束(今後も電子版が出版社から出るなら)
KDPはデータを作ってしまえば著者のワンクリックで電子書籍を出せるので、出版社から電子版が続刊中ならばこれを「やらない」約束をすることが必要かと
個人出版時の出版社側からの条件や制約に了承
各社条件が違うと思います
カバーデザイン、ロゴデザインを自前のものに差し替え
デザイナーさんに既存デザインに寄せていいかも確認しました
セリフ写植は全て自前で打ち直し
写植は出版社の財産なので流用は基本できません(いいよって会社やタイトルもたまにあります)
✅ 上記をクリアしてから、月間連載と同時進行で出版準備を開始しました(ひー)。
✅ 3巻以降が電子オンリーになる&紙版は自分で出すnote告知文も事前にチェックしてもらいました。
2. KDP出版の準備作業
作業環境
iMac + ClipStudio
原稿仕様:220×310mm(商業誌用)350dpiグレー
KDPアカウント:数年前に取得済み
工程①:ClipStudioでの作業(160ページ単行本の場合)
カバー作成
KDPサイトで仕様を入力してテンプレートをダウンロード
ClipStudioに配置してカバーイラストをぴったり合わせる
保存して終わり
本文原稿作成
160ページデータを作成
1ページ目(中扉)から全ページにノンブルを付ける(隠しノンブルでもOK)
5話分のデータを1ページずつコピペで貼り付け
セリフは自前で打ち直し
クリスタで原稿描いているなら既にセリフ入ってますよね。このまま使います
少し変えたかったり、可愛くしたい文字はBOOTHなどでフォントを買いました
書き出し設定
サイズ:13.54×18.84cm
形式:PNG(JPGでもいいかもしれない)
その他:ノンブル付き、出力範囲はトンボ裁ち落としまで
テンプレートから版面が少しズレますが許容範囲としてこのサイズにしました
PDF作成
160枚のPNGを1つのPDFにまとめて本文提出
注意点:
約90線のデジタル印刷が文字(セリフ)にもかかるため、PDFにした時にガビってしまうのを避けたいなら普段から600dpiで原稿作っておいたほうがいいと思いました
作業環境的に高解像度厳しいなら、350dpi原稿を160ページぶん作ったあとで一括600dpiに変換するのも手
KDPの著者ページでの出版プロセスは、詳細を書いてくれてるハウツーサイトがいっぱいあるので省きます。カバー画像と本文と本文の紙を選んでプレビュアーで最終チェックして提出すると、KDP側が内容をチェックしてくれます。
工程②:リジェクト(やり直し)対応
約6~8時間間隔で審査結果が来ました。
やけくそレベルでノンブルを全ページに入れたおかげか幸い本文は問題なかったようで、今回リジェクトされたのはカバーだけでした。
主な問題点:
カバーの塗り足しが断ち切りまで作られていない
背表紙のタイトル文字がセーフエリアに収まっていない
はい、同人誌入稿でもしょっちゅうやらかすやつです。背表紙に至っては7回くらいリジェクト来て…KDPチームの皆さまほんとお手数おかけしました…
工程③:著者校正と発売日設定
著者校正版のチェック
最初に届いたのはうっすら黄ばんだカバーイラスト…
そう、4色+特色が当たり前の商業印刷に甘えていて長らく忘れていました。これCMYKだわーー!!
蛍光色なんて贅沢なもの使えなかった頃の同人誌制作の知識を総動員してどうにかしました
発売日の設定
発売日近くなるとファイルが修正できなくなるので、ここは余裕をもって8/17に設定
実は審査が1カ月くらい難航するだろうと踏んで、奥付の発売日を8/17にしたまま発売しています。これはただのやらかしです。
一連の作業が苦じゃなかったのは、間違いなく長年やってきた同人活動のおかげです。一冊一冊、タコ糸で綴じた時もあったもんなぁ…。やってて良かった同人。
3. 発売後の感想と学び
価格設定について
990円は正直、採算度外視です
新規の方は1500円以上での設定を推奨
価格設定の理由:続刊している連載中の作品の途中からということで、価格を現行の電子価格帯に極力合わせることが最優先だったから
1巻からだったら1500円くらいにしてました
メリット
紙の本で続きを待っていた読者さんに届けられた
注文して最速翌日に届く仕組みに作者も読者も驚いた!w
ペーパーバックの感触を楽しんでいただけた
存在しなかったはずの物理版3巻を手にできて嬉しいというお声も届く
デメリット
本文印刷のクオリティは商業誌に劣る(カラーは十分な気がする)
出版社の管轄を外れるので紙版は自分で宣伝して売っていく必要がある
日ごろSNSで宣伝してるからいつもどおりですね
総評
「大変だった!」よりも今は「やってよかった!」がとても大きいです。完結まではこの感じで出版していこうと思いますのでよろしくお願いします。
まとめ
KDPオンデマンド出版は、同人活動の経験が活きる作業でした。出版社の許可と協力が得られれば、読者に紙の本を届ける新しい選択肢となりえると思います。今はこの一連の作業を代行してくれて、色んな書店に配本してくれる会社もあるので予算や体力と相談で色んな選択肢がありますね。
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