”キッチンのゼロ”

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「キッチン」という共通認識を基に会話をするって難しいよねと思っている。

一人暮らしの始めたての時、意気込んでパスタの本を買ったのだが、前提条件が「コンロが二つ以上あること」だった為に絶望したことがある。厄介だったのは初心者にはその違いが判らないということ。作ってみてお店の味と違うのはわかる。けれどその美味しくなさが元々のレシピのせいなのか、作り方のせいなのか、はたまた食材のせいなのかが判断できない。ましてや当時僕が作るパスタの美味しくなさの一番の原因が「コンロが二つ以上ないこと」だなんて思いもしなかった。

結局それがわかったのは、そこそこな数を作ったのに美味しく出来ないことを当時のバイト先で相談してからだった。あらかじめ「このレシピにはコンロが二つ以上必要です」って書いておいてよ。可能であれば表紙に。買う前に気付きたかった。

ということもあって僕はレシピ自体はとてもよく見るけれど、そもそもレシピ通りになんて作れないよなあ、と思いながら料理している。とはいえ科学教の信者でもあるので、条件さえ同じにすれば再現出来るとも思っている。故に料理のことについて書くにあたって、前提条件から詳しく設定していこうと思う。

まずは水道の水質について。東京都新宿区在住であるので当日の水質については東京都水道局のHPのこちらを参照する。こちらは三項目の簡易的なものなので詳細については過去の三ヶ月毎のデータを参照して欲しい。もし当日の詳細の検査項目が気になるのであればパックテストなどを使い、検証すること。
料理自体に使う水は一般的に水道水を直接入れるのではなく浄水器を経由することが多いだろう。したがって家庭によって東京都水道局の計測値と違うものを使ってしまう恐れがあるため、レシピでは市販の水とし、その銘柄も指定しようと思う。今回は一般性を出す為、比較的手に入れやすいであろうAmazonベストセラーのい・ろ・は・すを使用することとする。

次に火口及び火力について。Harman社の三口のガスコンロを使用している。火力表記については左右に移動するツマミで調整するタイプなので、左端を1、右端を5とし、強弱で火力は表記しない。その理由としては実際の火力を左右するのはコンロから出ている火だけでなく、調理器具の材質と火にかけた時間に依存すると考えられるからだ。参考文献として金属の熱伝導率が比較できるを貼っておく。なおこれは単一な金属の場合である為(例えばステンレスとは「鉄に一定以上のクロムを含ませた、腐食に耐性を持つ合金」という定義の為、比率は一意に決まらない)、実際の調理器具を熱した時に、値がどのように関わってくるのかということまでは明記出来ない。

一先ず、どこで料理をするにあたっても絶対に切り離せない二項目を挙げてみた。が、僕が今本当に思っているのは「必要ないだろうことを書き続けることのしんどさったらない」である。再現するのが研究者だったのならギリギリまあよいだろう。でもレシピを再現するのはあくまで一般人である。それは初心者という意味ではなく、前述したような前提条件を整えない人(つまり僕自身も他の人が書いたレシピを読む際には一般人として読むことになる)のことを指している。そんな厳密さは必要ないのでは、とも思うだろうが、適切に塩味をつけた食材の美味しさったらない(初めてスイカに塩をかけた時のような感動が食材それぞれにある)ということと、なのにこの世に「塩少々(適量)」といういい加減な単位が蔓延っていることの矛盾が、人々は思っている以上に細やかな感覚で味を評価していることを表しているのではないかと思う。

そもそもレシピは説明書や手引書のように思われているけど、あくまで実験結果のレポートのようなものであって、自分の為に使う「こうやったらうまくいった(いかなかった)」という記録としてしか本当の意味では作用しないと思う。

閑話休題。前提条件を整える、と先程から言い散らかしてきたが、敢えて前提条件は整えないことにしようと思う。それは書いていくレシピに再現性を求めるのではなく、普遍性を求めたい(料理人初期の頃、意気揚々と友人の家で料理をした時に、キッチンが変わったという理由で惨敗したことがある)からである。僕がレシピを書くことによって出来るのは、僕が仕入れた食材を僕のキッチンで美味しく出来ることである。そんなことより、あなたが最寄りのスーパーで買ってきた食材をあなたのキッチンで美味しく出来る技術の方が、お互いにとって重要だと思っている。

そして一番重要な、味に関してはあなたの感覚に全幅の信頼を置くことにする。だって仮にレシピを完全に再現できたとしても、食べるのはあなたなのだから、塩味の加減、甘さの好みだったりは、絶対に自分の好みの方が良い。なので分量は指定しないが、その分量にするにあたった経緯は、可能な限りわかりやすく記載していきたいと思う。

ただ最後に、キッチンという共通認識だけ整えておきたい。散々作った後に「このパスタを作る為にはコンロを買わなければならないということを知る」なんていう失敗はもう御免だ。
キッチンに対して固有性を限界まで削ぎ落したもの考えていくと「コンロ(ガス、IH問わず)が1つ以上ある」「水道がある」「食材の形、性質などを変えることの出来るもの以外の一般調理器具(菜箸や皿など)がある」ということになると思う。これを基準として、”キッチンのゼロ”と呼ぶことにします。

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