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ROBOTという名のカメラ

「ROBOTが欲しいなどと言い出すと、その人のカメラ趣味は終着駅に近い」と書いたのは田中長徳さんだったと思う。久しぶりにフィルムカメラを購入した。ROBOTⅡ軍用ブラックペイント。私のカメラ好きもそろそろ終着駅に着いてしまうのだろうか。

ROBOTにはそれほど関心はなかった。ただ35mmフィルムを使って正方形の写真が撮れるのは良いなと思っていた。それと戦前から戦中にかけてのドイツのカメラ特有の雰囲気があり、「これは触ったらヤバイな」と感じていた。

ライカやローライやハッセルとは異なり、このカメラは資料の類が極端に少ない。紙の資料だけでなく、ネットでの検索もやりにくい。「ロボット カメラ」で調べようとしても、いわゆるロボットばかり出てきて知識が得られないのである。

ひと通りはこのWikipediaで分かる。あとはマニアの方の個人のサイトなどを当たるしかないだろう。ゼンマイ式巻き上げで24×24mmのスクエアサイズに写る、昔のドイツ製小型カメラである。

きっかけはInstagramだった。たまに目にする海外の中古カメラ屋さんのアカウントは、そのカメラ写真が目の保養になるものが多い。日本のカメラ店のような生真面目な撮り方ではなく、ある種ドラマチックに撮るのでインスタで映えるのだ。「おすすめ」にROBOTⅡのブラックペイントが出てきた。ついつい画像検索してしまった。そして日本のカメラ店で販売中の、このカメラが表示された。

初めて利用する店だが信頼できそうだ。即断即決である。ネット決済の直後に店の問い合わせフォームに入力した。カメラを購入したこと。配送先の記入が必須だったが、できれば対面で使い方を教えてほしいこと。すぐに返事が来て次の休日に来店予約をした。

自身もROBOTが好きで、今までの取り扱い数も多いという代表の方が応対してくれた。膝を突き合わせてのレクチャーを受ける。私も長い経験があり大概のカメラは分かるが、これはマガジンの使い方が難しい。配送にしなくて良かった。

ここからはお店の代表の方から聞いたことだ。

ROBOT Ⅱ 軍用ブラックペイント
1941~1942年製造
シリアルナンバーから確実にオリジナル
ドイツ軍もしくは輸出先の軍で使われた
通常Ⅱ型はダブルマガジン方式だが
これはパトローネが入る
後期型の特徴であり改造ではない

軍用ロボットではこのⅡ型を改造した「ROBOT LW」が有名だ。LWはドイツ国防軍空軍 (Luftwaffe) の頭文字(この部分はWikipediaより)。ゼンマイを巻くハンドルが煙突のように高いのが特徴だ。これは普通のⅡ型だが軍用で間違いないそうだ。

軍用カメラといえばライカでもトプコンでも、過酷な環境下で使われてボコボコになっているものが多い。しかしこのボディはデッドストックと言えそうなくらいに美品である。ここからは私の憶測だ。

軍用として製造されて軍に納入された。しかし予備として保管されたか最前線ではない現場で記録撮影に使われた。戦争が終結する。何らかの理由で売りに出されてコレクターの手に渡る。それから80年弱。何人かのコレクターの手を経て、この日本の中古カメラ店に流れ着いたのだ。

1941〜1942年といえば昭和16〜17年だ。まさに日本が真珠湾攻撃をしかけ、ドイツがアメリカに宣戦布告したころ。ナチスドイツの暗黒の時代である。戦争は憎むべきもので人殺しの道具はいらない。しかしたとえ軍用でもカメラに罪はない。私はこのカメラをこの2024年の世の中で平和利用してやろうと思う。

83年前のレンズで若干クモリが出ているので、この2枚のように明るい曇り空がバックに入ると少々厳しい。まあでも良い写りではないだろうか。天気の良い日に絞って撮ってみたい。

2枚目に黒く薄い傷が入っている。おそらく撮影時か現像時のいずれかで、マガジンのテレンプにわずかに異常があったものと思われる。しかし50数枚の中でこのコマと隣のコマだけだ。古いカメラは大らかに楽しむ必要がある。この程度で目を吊り上げて「保証で直せ」などと言っていると修理職人が疲弊してしまう。厳に慎みたい。

ネガを見ると、全体を通して構図が左下がりになっている。慣れないカメラを使うと大概どちらかに傾く。ROBOTⅡは小さい割に重量があり、右手にかかる負担が大きい。そのため支えようとして右が下がるのだろう。カメラの右が下がると構図の左が下がる。おいおい矯正していこう。

ROBOTⅡを持つとズッシリと重い。大きさは同じドイツ製のRollei35より若干大きい。フルサイズでこの小ささを実現したRollei35は偉大だ。しかしROBOTⅡの魅力はまた別物だ。金属の塊を実感する「持ち重りがする」感触。それでいて可愛らしさもある。ゼンマイで「ジャーッ」と巻きあがる軽快さ。

3.75cm f/2.8。なんとレンズ交換もできる。私の常用フィルムはILFORD FP4 135-36だ。しかしカメラ店の代表によれば「できれば24枚撮りを使った方が良い」そうである。なにせ古いカメラなので36枚撮りではテンションがかかりカメラに負担がかかる。「ああ、でももう36枚撮りしかないですよね」と代表は言った。

私もそう思った。しかし駄目でもともとでILFORD FP4 135-24を検索してみると、あった!フィルム専門店として有名な、とある北海道のお店が輸入販売していた。よし!これで安心だ。このカメラが本当に私の「カメラ趣味の終着駅」になるのだろうか?



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