『マツリカ・マハリタ』『マツリカ・マトリョシカ』相沢沙呼

おそらくたぶん、かつて『マツリカ・マジョルカ』は読んでいるはずで、シリーズのつづきが出ているなら読んでおこうと手に取った2冊。

あえて分類すれば「安楽椅子探偵」の推理小説。

探偵役は廃ビルで暮らしている(?)高校生女子のマツリカさん。その言動と美貌から、主人公の男の子は「魔女」とも呼んで(そして憧れて)いる。
マツリカさんは学校に通っていない。廃ビルから望遠鏡で高校を覗いて、そこの高校生たちの暮らしを眺めている。(という設定はマジョルカであったのだろうけれど覚えていない)
怪談に類するいくつもの不思議が高校にはあって、マツリカさんは主人公柴山くんにあれこれ命じて現場の細かな情報を集めさせる。それとともに柴山くんの周りで起きたあれこれをあわせて謎を解く。

大筋はこんな感じ。

いただけないのは、この大枠を動かすための仕組み。男の子が憧れの女の子のために多少の──いや、かなりの無理を聞くのはなぜか。そこで安易に思春期男子の劣情をつかっている。

このためマツリカさんは思わせぶりで扇情的な行動をとる。ただし冷静に観察するような感じだと描かれており、「お前の反応が見ていて楽しいから」などとうそぶく。いかに見た目が美しかろうと(そう設定されていても)、人の自制心をためし弄ぶような人を魅力的とはおもえない。
謎を解く知性が魅力的だというならそちらを押してほしいし、語られなかった言葉を探しているという寂しさを押すのでもいい。どうにも魅力の焦点があわず、不思議な雰囲気の痴女というようにしか感じられなくて残念。

一方の主人公柴山くん。そのマツリカさんに振りまわされるだけあって妄想力がかなり高い。しかし実行に移してしまっては物語が破綻しシリーズが続かなくなってしまうからだろう、行動力はゼロ。
それがために性格は後ろむきで、ことあるごとに「こんな自分はダメだ」などと落ち込み、人の好意に「こんな自分なのになぜ?」と下をむく。
人の輪に入ることのできない暗くて冴えず、自虐的な思考を垂れながす主人公。その割りに女子のパンツが見えそうとか胸が当たったとか、えげつないくらいあけすけに妄想を披露する。
そういうステレオタイプなスクールカースト最底辺の男子事情は、わかるんだけれど、魅力的ではないし読んでいて楽しくもない。

そして、なぜかその柴山くんのまわりにいろんな女の子があつまり、「優しいから」とか「わたしを見つけてくれたから」とか言って、ちやほやするんだ……。かなり厳しいでしょう、その設定。

ミステリーの謎は解けないので探偵役の推理まで読み進めて、へえほおふうんと感心する僕にとって物語が物語らしくあることはかなり大事。物語を運ぶ人物たちの描写に納得がいかず、この2冊はちょっと辛かった。

* * *

『マハリタ』は写真部に入部した女の子「松本」さんとの出会いと、写真部の小西さんのフィルムにまつわる事件、幽霊リカコさんの話と、マツリカさんの正体に迫る(そしていわゆる「さよならマツリカさん」の)話の四篇。

『マトリョシカ』は美術部1年女子「春日」さんと写真部の面々とで、柴山くんにかけられた女子テニス部部室からの窃盗嫌疑を晴らそうと美術準備室の密室の謎を解こうと6つの推理をめぐらせる話。

* * *

ミステリーとしての設定は、たぶんおもしろい。
スクールカーストの底辺で、行き場がなくて苦しんでいる子たちへの救いにしたい、なんてことも考えられているのかもしれない。

返すがえすも、主人公と探偵役の人物造形のちぐはぐさが残念。

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