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【働き方実験コラム】 旅という実験 『Googleにエロの何がわかるのか』

旅に出よう、と思った。すべてはGoogleのせいだ。

先日のGoogleアップデートで、アダルト系サイトやエロい記事が検索画面に表示されにくくなったのだ。エロい記事を書くのが主な仕事であるアダルトライターの俺にとっては死活問題、まじで商売あがったりである。
Googleがエロを規制するたびに青少年の純潔は守られるのかもしれないが、俺の懐は壊滅的ダメージを受けてふにゃふにゃに萎えていく。

しかもよりにもよって、各クライアントたちに単価交渉を持ちかけていたタイミングでそんな仕打ちを受けたので、彼らにこちらのギャラアップを断るいい口実を与えてしまった。
俺は自分の書いたものを常々、イケてる・面白い、と思っているが、世間からその文才が正当な評価を受けているかというとかなり微妙で、よって時折クライアントには賃上げ交渉を持ちかけなければ、メシを食っていけないというのに。

まさに踏んだり蹴ったり。何もかもが嫌になった俺は、突発的に旅に出ることにした。
この残酷な現実を乗り越えるにはうまい飯と、うまい酒、広々とした温泉、そしてエロいことが必要だ。
じゃらんで適当に選んだ宿の風呂はもちろん源泉掛け流しで、俺の欲求は垂れ流し。


初めての男とは初めての土地へ行くに限る

これまで何人もの男と旅をしてきた。
素敵な思い出になった旅もあれば、その反対もある。
最低な思い出をひとつ紹介すると、真冬の山奥に置き去りにされたことがあるが、その話はまあまた今度。

そんなフィールドワークの結果、温泉旅行に連れていくなら、力持ちで、いつも機嫌が良くて、運転がうまくて、昼から酒を飲んでも文句言わなくて、浴衣が似合う平日休みの男に限る。
その条件にピッタリな男と向かったのは、山梨県、石和温泉。

葡萄とワインの里・勝沼の少し先、笛吹川そばにある小さく静かな温泉街。
古いホテルが多く少し寂れた印象もあるが、富士山も見えるし、何より近くにワイナリーがいくつもある。

ホテル近くのワイナリーの無料試飲で昼から酔っ払い、ワイン樽の前でイチャイチャしながら写真を撮ったりした。
これぞ旅の醍醐味。旅行先に俺たちを知っている人は誰もいないので、人前でどれだけ馬鹿なことをしても構わない。男同士がチュッチュしていようが、幸せになれる鐘みたいなのを鳴らしていようが、法外な値段のダサいお土産物を衝動買いしていようが。

旅の恥はかき捨て。旅のエロもかき捨て。

旅は馬鹿になれるから好きだ。東京でこんなことをしていたらネットやSNSで笑い物にされてしまう。おのれ憎きGoogleめ。

トルティーヤとはタコス包む皮のことです

俺にとって旅といえば、食、酒、風呂、そして何より情事である。

宿についてひとっ風呂浴びたあと、浴衣に着替えた男を見てそう確信した。色白で八頭身の彼は、宿のダサい浴衣を着ていても超エレガント。
男の浴衣の帯というのは、布団の上で解いて、手を縛ったりするためにある。スーツのネクタイと同じだ。

温泉は源泉掛け流しで、ぬめりのある湯が全身をスベスベにしてくれた。
こんな肌で抱き合ったらとても気持ちがいいだろうな、と思った。

だけどその前に、一杯やらなくては。

夕食である。もちろん、酒はケチらない。
すき焼きやお造りなどのゴージャスな懐石をつつきながら、赤ワインのボトルを開けてガンガン飲んだ。
我々はみんな親や先生から「相手の目を見て話しなさい」と教わるが、色恋の場に限って言うならそれは間違いだ。
正しい目線はもう少し下。相手の口元を見ましょう。これが人間にできる1番エロい表情だ。
「あなたが好き、あるいは今夜寝たい」
チャッカマンを帯に差した女将(?)がやってきて、そんな2人の雰囲気を察してか、無言で固形燃料に火をつけて帰っていく。

部屋への帰り道、ゲームコーナーのレーシングゲームで対決。山梨の温泉地のゲームセンター。浴衣とスリッパで、なぜか中禅寺湖を爆走した。
走っている最中ずっと「トルティーヤー♪トルティーヤー♪」という歌が流れていて、タコスが食べたくなったが、当然温泉宿の売店にタコスなど売っているわけはなく、代わりにふき味噌を買って部屋に戻った。それをアテにしながら、ワイナリーで買った赤ワインのボトルを開けることに。

ちなみに調べたら「トルティーヤ」ではなく「バトルギア」と歌っていたそうだ。
知らない方のために説明すると、トルティーヤとはタコスを包む皮のことである。タコスはなんとなく性のメタファーっぽいが、特に今回の話とは関係ない。

今ここで大事なのは、旅に出て約12時間。お目当ての、食、酒、温泉のタスクを完了したということである。残すはそう、エロだけだ。ついにベッドインの時間がやってくる!
俺は男と腕を組んで、千鳥足のまま部屋に向かった。鼻息も荒く。

エロ業界と北斗の拳は世界観が似ている

山の朝は気持ちがいい。窓を開けると朝日の中で、富士山が輝いていた。
喉がカラカラで、頭が痛かった。浴衣はヨレヨレにはだけていたが、帯は解けていない。
酒を飲みすぎてエロいことをし損ねてしまったようだ。なんということだ。

不覚である。
Googleに締め出されかけているとはいえ、俺は仮にもアダルトライターである。エロいことを書くプロフェッショナルだ。
そして俺の最大の売りは「現役でエロいことをしているクールなライター」であること。ネット調べのご無沙汰系アダルトライターとは違う、俺は現役の、ひりつくようなエロシーン・ナイトシーン・色恋ゲームの最前線にいる。
それだけを武器に世紀末の荒野のような、過酷なエロ業界を生き抜いてきたのだ。まさに下半身叩き上げのスケベライター。

今からやり直す?いやしかし、こんな二日酔いで、しかも寝起きにエロいことができるほど若くない。ああ、俺はもうおしまいだ。このままネット調べの薄っぺらいエロを書くようなアダルトライターに成り下がるのか?嫌だ。そんなの、俺の物書きとしての、そして男としての、ゲイとしてのプライドが許さない。

廃業だ。もう俺は廃業するしかない。

窓の外の富士をそんな絶望的な気分で眺めていると、後ろからそっと男に抱きしめられた。
そして「将来こんなところで暮らすのもいいかもしれないね」と(心にもないであろう)甘い言葉を囁かれてキスをすると、何もかもがどうでも良くなった。
驚いたことに、その時の俺は幸福であったのだ。

ヨレヨレの浴衣で、朝日と富士山に見守られながら、空想の未来を囁き、酒臭い息で男とキスをする。
最高にクールで、最高にエロいではないか。寝ることよりもエロいことがあるということを、この旅で俺は学んだ。
まだまだ俺は、イカしたエロ記事を書ける。そう確信した。

Googleにエロの何がわかるというのか

旅はいい。さまざまな欲求を満たすこともできるし、同時に自分や世界の見え方が変わるから。
それによって殺伐とした都会暮らしの中で枯渇していた、自分の中の大切な何かが露天風呂の源泉のように湧き上がってくる。

Googleアップデートのせいで商売はあがったりだが、まあこの先もなんとかなるだろうという根拠なき自信に、今俺は満ちている。人類はエロなしに生きることはできない、ということを、俺はGoogleよりもよく知っている。
この旅でだいぶ散財もしたが、その事実すら労働意欲に変えていこう。Googleのせいで単価は上がらないが、今日もピンサロの紹介記事を書くという使命が、俺にはある。俄然燃えてきた。

帰り道に寄った勝沼にある「ぶどうの丘」では、偶然新酒ワインの試飲会をしていて、大変な賑わいであった。
乾杯の音頭をなぜか歌手の小林幸子がとっていて、「小林幸子って実在するんだね」「派手だね」と話しながら、手を繋いで仲良くお土産用のワインを選ぶ男2人。

Googleによると小林幸子は現在69歳だそうだ。お前ってほんと、そういうことはよく知ってるよなGoogle。


著者近影である。文豪だ。

こちらラジオでも今回の旅についてお話ししておりますので合わせてどうぞ⭐︎
小林幸子に会った話はこちら限定やで!

作業中BGM:ABBA「Summer Night City」


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