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【働き方実験コラム】 音楽という実験 『いつも心にダンスフロアを』

※いつもまじめな気持ちで書いていますが、アダルトライターの働き方について書いたコラムですので、ほんの少し下品な表現があるかもしれません。苦手な方はご注意ください。


俺の1日は、その日のBGMを決めることから始まる。

ここまで書いてから、(80年代のインスタントコーヒーのCMのような)キザすぎる書き出しだな、と思ってやめることにした。
いや、正直に言うとそのテンションのまま少しばかりコラムを書いてしまった。少しばかりというか、正確に言うと4000文字程書いてしまった。そして消した。暇か。

どんな内容だったかというと、記事全体に洋楽の名曲を散りばめて、それぞれの曲に紐付く過去の恋愛の小話を語るというもので、酔った勢いで書いたとはいえ翌朝シラフで読み返したら死ぬほど恥ずかしかったので即座に全消したのだった。
女性を平気で殴ったり借金を踏み倒したりアル中で喀血しながらも秀作を書くような無頼派小説家を除いて、基本的に人は酒を飲みながら文章を書くべきではない。

でもせっかくなので、今日はフリーランスと音楽について、改めて考察してみようと思う。特に役に立つことは書いてないので、役立つ情報を求めている人や忙しい人は読まなくていいと思う。


俺も本当は小鳥の囀りの中で仕事したい

これを読んでいるのは、在宅勤務のフリーランスという働き方をしている人が多いだろうと思う。俺もそんなフリーランスのライターだ。(エロ担当)
さて在宅勤務の諸君は、作業中どんな「音」を聴いているだろうか?俺は在宅仲間に会うと毎回それを聞いてしまう。

オシャレなあたらぼメンバーには、地方在住やワーケーションで、小鳥の囀りや川のせせらぎ、あるいは波の音などのネイチャー音を聴きながら仕事をしているという人もいるだろう。実に羨ましい。俺だってできることなら、毎日イルカに乗って波乗りしながらモヒート片手に仕事をしたい。

しかしこの世には、近所の子供の嬌声や、酔っ払いと警察官の揉める声、若い男女の痴話喧嘩、どういうわけか何年も終わらない道路工事の音、女子高生たちの露骨な下ネタ、カラスがゴミ袋をついばむ音…エトセトラエトセトラ…そんな都会の不快な音にまみれて日々生活している者も少なからずいるのだ。俺である。

せめてもう少し壁の厚い部屋に住めるようになりたい。もしこれを読んでいるクライアントがいれば、一刻も早く俺のような優秀なライターの文字単価を、現在の3倍に上げるべきだ。よろしくお願いします。

いくらなんでもエンヤは違うだろう

そんな都会の喧騒から逃げるため、毎日ヘッドフォンから音楽を流しながら仕事をしている。
だから俺の1日は、その日のBGMを選ぶことから始まるのである。
しかしどうも最近、選曲がうまく決まらないのである。

いっときはよく、エンヤとかを聞いていた。邦楽だと日本語が思考を邪魔する気がしたので、洋楽ジャンルから適当に選んだら、これがよかった。
終始何を言っているのかわからないがウィスパーなエンヤの優しい歌声に包まれていると、そこはまさにアイルランドの森の中。目を閉じれば優しい風が頬をなぞる。木々の精霊が手招きする。本場のサウナでととのっていく。

しかし冷静になってみよう。俺が書いている記事は、アダルト記事である。
一体この世界のどこに、アイルランドの森の中で木々の精霊に手招きされながら、ピンサロやデリヘルや倒錯者向けAVの紹介記事を書いている奴がいるだろうか。いや、もしかしたらいるのかもしれないが、そんな物好きなやつは指折り数える程度だろう。

ある日、痴女ものAVの記事を書きながら、俺はそう気がついてしまった。「エンヤじゃないだろ」と思わず口にしてしまったほどだ。
こんなことを言うと本人や関係者やファンに怒られそうだが、どちらかといえばブリトニー・スピアーズとか、マドンナとか、パリス・ヒルトンとか、そういうアッパーなものを聴くべきだと思った。そしてそういう音楽はやはり俺の書くエロティックな記事と世界観がよく合い、より仕事が捗ることが判明。エンヤは遠く、アイルランドの幻と消えていった。

そんなBGM探しが、最近どうもうまくいかない。
昔はApple Musicを適当に漁って、とりあえず露出度の高い美女がジャケットのアルバムを流せば、ちょうどいい一曲が決まったと言うのに。
曲が決まらないと、どうも記事の執筆が捗らない。
そう、俺は猛烈なスランプに陥っていた。

これは最新の音楽シーンに触れていないということが原因に違いない、と思った俺は、少しばかりおしゃれをして、夜の街へと飛び込んでいった。
「クラブ」である。

ダンスフロアは鳴り止まない?

「クラブ」という言葉は広くさまざまなシーンで使われており、小学生ならクラブ活動、おっさんならゴルフクラブ、食通ならソフトシェルクラブ、映画オタクなら台風クラブ、性に潔癖な女性ならプラトニックラブ、を連想するだろうが、俺のような軽薄な遊び人にとってクラブといえば音楽に合わせて踊ったり酒を飲んだりナンパをしたりする方のクラブである。

新宿2丁目には、ゲイが多く集まるクラブがいくつかある。流行に敏感なゲイたちの盛場に繰り出せば、まだ俺の知らないクールなサウンドが見つかるはずだ。そしてこのスランプ状態を脱することができるに違いない。

ついでに何かエッチなアクシデントも起きればなおいい。もちろんこれは、記事のネタとして、という意味だ。アダルトライターにとって、最新の音楽シーンと同じくらい、最新のナンパ・ワンナイトラブに触れることも重要だ。そうだこれは仕事である。

扉を開けた瞬間、男たちの熱気、ミラーボールの光、テキーラとニコチンの匂いを感じた。
そして音楽。爆音の音楽を俺は全身に浴びた。ああ、クラブに来たのは久しぶりだ。なんで最近来てなかったんだっけ。朝まで立ってるのがしんどい年齢になったからだ。ああ本当に年は取りたくない。まあそんなことはどうでもいい。音楽を、音楽を浴びよう。

音楽を浴びる、といえば昭和の作家・海野十三に『十八時の音楽浴』という小説があった。
なぜ今突然この小説の名前を出したかといえば、ちょっとアカデミックな自分を演出したかったからである。深い意味はない。(もちろん海野十三は面白いのでおすすめだ)

誰とでもハモれるようなライターになりたいものです

翌朝。自宅玄関で靴を履いたまま目が覚めた。靴は履いていたのになぜかズボンは履いていなかった。頭が割れるほど痛くて、記憶はなかった。息が猛烈にウォッカ臭かった。
陽気なタイ人ゲイと、レッドブルウォッカで乾杯したところまではなんとなく憶えている。

結局最新の音楽は何ひとつ仕入れることはできなかった。やはり人は仕事中に酒を飲むべきではない。
しかしスランプだろうとBGMが決まらなかろうと二日酔いだろうと、仕事の納期は待ってくれない。

この日はSMもののアダルトビデオを6本観て、レビューを書かねばいけなかった。
俺は投げやりな気持ちでApple Musicをランダム再生にして、仕事に取り掛かった。
最近の若いミュージシャンの音楽はかっこいいけど、一体どこがサビなのかわからない、みたいな年寄りくさいことを考えながら、キーをタイプした。

音楽を一時停止して、アダルトビデオ6本を倍速再生で見終えた俺は、再び音楽を流し始めた。するとヘッドフォンから、原由子の歌声が流れ始めた。
昔、サザン狂いの友人から聞いた「原由子はどんな歌手ともハモれる」という逸話を思い出した。
それから20代の頃の俺が「あの尻軽はどんな男ともハメてる」と陰口を叩かれていたことも思い出した。

語感が似ているだけでその2つのエピソードは特に関連しないし、原由子は素晴らしいアーティストだし、俺は別に尻軽ではないが、しかしなんとなく面白くて、気分が良くなった。
すると原由子の歌声やサウンドが、すっと俺の中に入り込んでくるのを感じた。そして記事を書く指先がどんどん軽やかになっていった。

誰とでもハモれるという原由子の歌声は、俺のような場末のアダルトライターの心とも、メロディアスな関係を築いてくれるようだ。
誤解しないでほしいが俺は自分が場末のアダルトライターであることを気に入っている。ただもう少し、静かで集中できる環境で働きたいと足掻いている、一介のフリーランス・在宅勤務者なのである。

原由子の歌声はそんな俺の心ともハモってくれた。在宅ワーク中のBGM選びに悩んでいるフリーランスはぜひ一度原由子の優しい歌声の中で仕事をしてみてほしい。
俺も原由子のように、どんなクライアントや依頼とも、見事にハモれるライターになろうと思う。

おまけ

おすすめは『MOTHER』というアルバムだが、MOTHERといえばうちの母が「ライターやってるって、どんな記事?読めないの?」としつこく迫ってくるのを、のらりくらりかわさねばならないというのは、場末のアダルトライターの辛いところではある。

執筆中BGM:原由子「ハート切なく」

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