この先も今の僕を好きでいるために、僕はこの先を進まなきゃ行けない気がした。

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地元でちょっと死にかけた話。

No one can kill free will.

この先も今の僕を好きでいるために、僕はこの先を進まなきゃ行けない気がした。

なんでそれをやるのか?
そのときは面白いと思ったからやった。
それを続けたのは、続けた方がさらに面白くなると思ったからやった。
続けてみたら、自分がゴールだと思った場所はどんどん遠ざかっていって、いつの間にか続ける理由も考えなくなった。
やっぱり、ただ面白いと思うからやっている。
ワクワク・ドキドキしたいから、これからもやる。

雪の状態を見てすぐに走り出せる環境は、波を見てサーフィンに乗り出すのと似ている。
辰野町の商店街を見下ろす大城山が、今日は遊びに来いよと叫んでいる。
僕が名付けた「日本のど真ん中ルート」にアタック。
しかも「“冬の”ど真ん中ルート」だ。
新しくつけたサイクリングマップ看板が頂上へと案内してくれる。
車のトラックはない。
新雪に贅沢にも僕が一番最初の轍をつける。
ふわふわとしたパウダーは美しいが、ファットバイクで上がるのにはリア荷重でダンシングせずにペダルを回せる体幹がいる。
一気に放出する汗は、大城山の頂上へ着いてしばらくすると、シャツの内側から凍りついて体温をぐんぐんと奪っていく。
文字通り頂上でコーヒーブレイクタイムをする。
この場所はいつ来ても、日常の自分の喧騒のちっぽけさを教えてくれる。
自分の本来気質の居場所はこっち側なんだと。

ここからが、冬のど真ん中ルート本番。
町からの標高差550mある、日本の中心の展望台まで上がり続ける。
腕だけでなく、太もも外側までパンプスが上がる。
明らかに普段と違う場所が悲鳴をあげだした。
原因は明らかだ。
トラクションをかけるために、普段使わない場所に負荷をかけている。
筋トレでは見逃していた部分が露出した。
冬のファットバイク走行22km。
peakの1277mから、小刻みにアップダウンを繰り返す。
陽射しが正午を回り、雪質を変える。
粉雪から砂利雪に変わり、そして今度はアイスバーン。
push bikeするシーンも増えてきて、そして転倒回数も多くなる。
パニアをつけて転倒するときのコツもマスターしている。
腕を畳んで、頭を亀のように丸め、バイクの倒れる方向に身を任す。
走り始めて5時間。
満身創痍。
ロケハン&インプレのために、一眼レフを立ててセルフタイマーでの撮影を10回以上重ねた体力ロスのツケが出始めた。
全身パラライズの次の危険信号が出た。
低体温症だ。
原因がわかるようになっただけ、2012年厳冬期の−30℃の東ヨーロッパの経験が役立っている。
水分不足とハンガーノックによる血流不足だ。
このルートへの過信が、食糧不足を生んだ。
水はあるのに冷たすぎて身体が受け付けない。
血流の悪さは凍傷を生む。
末端神経の手先と足先の感覚が鈍ってきた。
油圧ディスクブレーキで良かった。
ハンドルを握る力にまして、ブレーキを引く力もか細くなる。
塩嶺王城の勝弦峠を押しがけで上がり、実家の岡谷まで急勾配を下る。
4分の1くらいは転びながら下り落ちる。
野獣のような咆哮をあげ、重さ40kgあるバイクを凍りついた路面の上に立ち上げる。
低体温初期症状の全身の震えは、第2ステージへ入り、頭痛と目眩と吐き気。
そして呼気が上がり、肺胞が潰され、動悸と呼吸不全。
自分でも血の気が引いて顔が青白くなっていくのがわかる。
低血糖、いやタンパク質、炭水化物、ミネラル、脂質、ビタミン、水分、すべてのエネルギーが足りない。
そして意識が遠のく第3ステージに足を伸ばし始めた。
自分の身体じゃないみたいだ。
地元をなめすぎた。
辰野の家を出て岡谷の実家までのたった22km。
ファットバイクで7時間近く。

なんで続けたのか?
地元なのに、まるで違う場所のような異国に見えるのは、恐怖がそうさせる。
このルートへのエスケープルートは3つ作ってある。
でも一番つらい道を選んだのはなぜなのか?
その道が一番おもしろいっと思って、ワクワク・ドキドキしたから。
この先を進んだ先に、僕が行きたい南極大陸への挑戦権があると思ったから。
この先も今の僕を好きでいるために、僕はこの先を進まなきゃ行けない気がした。

地元でこんな遠征感覚でトレーニングできる場所があって、僕は幸せだ。
今回の経験は“万事過信するな”だ。
ラインホルト・メスナーさんの言葉が好きだ。
「限界到達者がその者でいられるのは、自分の限界到達点を知っているからだ。それを見誤ってラインを越えた者は、命知らずなのでもなく、向こう見ずな愚者なだけだ」
僕も過去の経験値から1cm上の限界到達点、前に進むチャレンジを続けている。
今回も命があったのは、過去の自分の限界到達点を知っているからだ。
一流冒険家こそ、誰よりも臆病者だ。
“冬のど真ん中ライド”は、夏の4.2倍しんどい。
失敗の連続の上でしか、成功は築けない。

次に向けて、僕はまた学んだ。
社会に価値のあるものではなく、自分に意味のあるものを。
これからもやるんだろうな〜、今まで通り。
99%が恐怖だったり、意味がないと思ったことでも、1%でもドキドキ・ワクワクしたら。
No one can kill free will.

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