【論文要約】山本淳一 (2002) 自閉症児のコミュニケーション支援 ‐ 応用行動分析学から ‐ ([特集]自閉症児とコミュニケーション). 発達, 92(23), 38-46.

 ① 応用行動分析学から自閉症児のコミュニケーションを支援する : ABAは、ヒューマンサービスの科学です。 この基本は、最新のデータにもとづいた効果的な支援ならびにその情報をフェアなかたちで提供することです。 より再現性のある支援方法を確立し、説明責任の確保を目指します。 サービス提供者の支援の力量をあげていくことといえるでしょう。 またABAは、技法も含んだ包括的で系統的な支援システムといえます。 「個人と環境との相互作用」という観点から支援方法を構築していきます。 ひとつは個人のコミュニケーションのレパートリー拡大を支援すること、もうひとつは個人が持っているコミュニケーションのレパートリーが出現するよう環境整備することといえます。

 ② 応用行動分析学の進め方 : ABAは、これまでの先行研究をふまえ、支援目標と支援方法を立てます。 1)獲得が容易で、その時点でもっとも機能すると考えられるコミュニケーション手段を支援目標とします。 楽しく従事でき効果のある支援方法を考えます。 2)環境整備を行ったプレイルーム、園、学校、家庭などで支援を実施します。 3) 支援の各段階での結果を含めて、評価します。 前言語的な行動、微弱な音声反応、視覚シンボルを用いた言語などのコミュニケーションのレパートリーは、聞き手が応答し難いことがあり、般化しにくく(ひろがりにくく)、より環境整備が求められます。 コミュニケーションが成立する機会を日常環境に設定したり、コミュニケーションのレパートリーやその機能にもとづいた共通した対応にするなど働きかけを行います。

 ③ 対人関係や遊びを促進する : 自閉症児は、外界の新奇な刺激に対して過敏傾向をもっており、とりまく環境のさまざまな側面が嫌悪刺激となり得ます。 そのため不安、緊張、回避を生みだしてしまいがちです。 人が生みだす刺激が過敏反応を引き起こすということです。 覚醒水準の不安定さによる、過緊張や興奮もあります。 初期には、対人が嫌悪刺激でなく、強化刺激(好きまたは緊張が和らぐ関係)になるようにし対人相互作用をつくり、安定させます。 強い音声指示をせず、自発的な反応に対して、笑顔や柔らかい音声、接触刺激で関係づくりをします。 いろいろな支援方法がありますが、どの支援方法が有効であるかは、現在や将来おかれる環境にかかってきます。 総合的に判断し評価し、系統的な支援計画を組み立て、ツールとして使いこなしていくことが重要でしょう。

 ④ 無発語自閉症児への音声指導 : 緊張した運動を含む音は、音声言語につながりません。 リラックスした場面、対人相互作用が安定した場面で、喃語様の音声反応を生じさせることが重要です。 全身緊張が強い場合は、自身で運動を制御するのような指導法が有効です。 はじめはさまざまな強化刺激(好きなこと喜ぶこと)を音声反応に伴わせ、音声反応の出現頻度を高めます。 そして、音声によって、環境を動かす体験を十分に支えます。 すでに持っている音声反応レパートリーを用います。その頻度が高まり、音声を用いるようになったら、模倣の成立に移行します。 逆模倣(おとなが子どものマネする)、拡張逆模倣(おとなは子どもの発した音より単語音に近づけマネをする)、逆模倣から拡張逆模倣が十分進んだら、子どものレパートリーを用いて模倣をモデルつきで成立させる等を行います。

 ⑤ 前要求的コミュニケーションから要求言語への支援 : すでに持っている行動をコミュニケーションの手段として用い、徐々に伝達性の高いものにします。 「話し手」、「対象物」、「聞き手」との三者関係で考えて見ます。 相手の手を対象物にもっていく等があれば、その物を渡し笑顔や身体接触で答えます。 こうした直後のかかわりは、以後そうした行動を高めます。 これは正の強化といい、発達をささえる上で重要な働きをしています。 子どもの満足げな笑顔は、おとなにとってかげがえのない正の強化となります。 自閉症児は、多くの多様な刺激が同時に存在する場面では、緊張、不安、興奮の水準が高くなる傾向があるので、明確で機能的な場面をつくる方略もあります。 モデルをみせる、ヒントをだす(段階的にヒントを減らす)、間をおいてヒントをだす等を行います。

 ⑥ 前叙述的コミュニケーションから叙述言語への支援 : 自閉症児には叙述言語が成立しにくいといわれますが、成立する必要条件を満たしようにして、子どもの力を引き出します。 子ども(話し手)が対象物を見た後、おとな(聞き手)を見る、おとなに指さしをする、おとなの腕をさわる等の注意喚起は共同注意と呼ばれます。 こうした体験の共有は叙述行動の基盤となります。 「話し手」と「対象物」という関係では、子どもの興味関心を利用し、拡大させていきます。 「話し手」と「聞き手」という関係では、自閉症児にとって適切な量と質をもった刺激で応えていくことが必要です。 大好きな家族や友人に、楽しかった出来事を話すことが普通であるとの同じです。 興味関心のある事物で、聞き手に報告することを重ねます。 いろいろな人、いろいろな場面、いろいろな時にもできるように進めます。

 ⑦ 言語理解への支援 : 子どもに人の音声や継次的に与えられる音に対する「注意」が不安定であれば、子どもと向き合った場面で子どもの注意をひき、大人が明瞭で強い音をだし、子どもに興味関心のある物を選択してもらいます。 着席し学習することが正の強化で維持され、無誤学習で進められるようにします。 こうすることで、系列的な音声に関して注意をむけるようにし、徐々に通常の音、文脈や場面を日常的なものに変えていきます。

 ⑧ 会話の支援 : 興味関心のあるゲーム等を利用して、相互的な役割に応じた、交互交替行動を定着させます。 そして、さまざまな言語機能の幅を広げます。 文字によって示したり脚本を通して、相互的な反応つくり徐々に自然なやりとりに移行していきます。 テレビゲームを用いて応答、注意喚起、教示要求、教示、願望表出、感嘆、困惑などの表出ができたとの報告があります。

 ⑨ 日常場面でのコミュニケーション支援 : 日常場面にひろげるために、獲得したコミュニケーション行動を指導場面以外で、実際に使う機会を並行して設けると効果的です。 家庭(おやつ、食事、片づけ、学校の準備など)や学校(学業、生活、遊びなど)等で設定しておくといいでしょう。 そうして、コミュニケーションのレパートリーを拡張し、機能化させ般化させます。

 ⑩ コミュニケーション手段の拡張 : コミュニケーション手段の反応型(トポグラフィー)としての特徴を考えると、「話しことば」では各音素を構成する複雑な舌などの運動反応が要求されます。 「書きことば」では各文字を構成する複雑な肩などの運動反応と視覚運動協応が求められます。 「サイン言語」も微細な身体運動反応が必要となります。 身体緊張が高く、音声、書字、サインなどの獲得が困難な場合は、絵やシンボル、単語や文字を選ぶ選択反応によるコミュニケーションを成立させます。 もし単語がわからなければ記号、記号がわからなければ線画、線画がわからなければ絵を用います。 代替手段は補助として用い、音声や書字などのコミュニケーションが成立するようにします。 環境の側の働きかけ、環境整備を行っていきます。

 ⑪ 問題行動とコミュニケーション : ABAでは、奇声、唾はき、パニック、手噛み等といった問題行動はなくすのではなく、適切なコミュニケーション手段を教えることで、結果として問題行動を減らしていきます。 奇声等といった行動の中には、コミュニケーション機能を含むものが多くあります。 物の要求、教示の要求、注目の要求、場面(課題や人)からの回避などです。 問題行動を、その「形」でなく、環境からの影響ならびに環境に対する働き(機能)をみます。 条件を明らかにするよう、記録をとり、原因と解決方法を究明します/直前の出来事(時刻、場面、相手、状況) → 行動(頻度、規模、反応型) → 直後の出来事(結果。手応え。周囲の対応)。 そして、環境整備を行い、本人ができる機能的なコミュニケーションの定着をはかります。

 ⑫ まとめ ‐ 感想から科学へ ‐ : どのような支援方法が、どのような条件の時に、どのような効果を上げるかを、データにもとづいて明確にする必要があります。 

ブログ「生活と人間行動」の記事(2005年1月31日)再記。

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