掌編小説「ネズの修行 ハクチョウの湖編」


じゅうぞうはみずうみでただぼんやりとすいっとおよいでいるハクチョウをみていた。ゆうがにおよいでいるハクチョウのすがたをみるとじゅうぞうはいくぶんこころがいやされるきがした。みずうみのまわりをじゅうぞうはぐるっとあるいていると、ふとめのまえにポンとしかくいはこがあらわれた。きゅうになんだろうとじゅうぞうはあやしくかんじたが、とおりすぎることなくそのはこをじっとみていた。するとはこのふたがパカッとあいてまばゆいキラキラした光がとびだしてきた。うわっと、じゅうぞうはうしろにさがったが、キラキラはしだいによわまっていき、めのまえにはくろいとんがりぼうしをつけたおんなのこがたっていた。

「ふわー。やっとついたー。ってあれ?」

「はい」

「あれ、ここトイちゃんのいえじゃない。どうみても。どこだ!まちがえた!」

「あのう」

じゅうぞうの声でやっとおんなのこはきづいた。

「あっ。はい!いや、ちがう。えっとここどこですか?いやいや、ちがう。まずはなまえをつたえないと。わたしはネズちゃん。よろしくー」

ネズの目の前にいるおとこのひとはトイチのような子供ではなく、れっきとしたそうねんのおとこのひとだったので、ネズはおずおずとはなしかけてしまった。まごまごしいのはじゅうぞうもおなじであった。

「は、はあ。わたしはじゅうぞうといいます。ここですか、ハクチョウのいるみずうみですね。せいしきななまえはわたしもよくしらないのです。このじもとでもないし、しらべようとおもってもけいたいでんわのじゅうでんが切れてしまって。あ、でもかんばんをみればわかるかも」

「えっ?ハクチョウさんいるの!?」

ネズはみずうみをみると、およいでいるハクチョウをはっけんした。

「ほんとだーハクチョウさんがいるーきれいだーキラキラー」

「そうなんです。わたしもこころがいやされるきがするから、ここにいるんです」

ネズはとなりにならんでいるじゅうぞうのはなしをきいた。

「じゅうぞうさん、だからじゅうちゃんね。じゅうちゃん、ようくみるとおかおがげんきないきがするけどなにかあったの?」

「じゅうちゃん。。。」

「あっ、いやなら呼び方かえるけど」

「いえいえ。あまりいわれたことないからおどろいただけです。はなすとながくなりますよ」

ネズはじぶんのむねにてを当てた。

「こう見えても、ネズちゃんはまほうつかいのしゅぎょうのみなの。なにかちからになるかもしれない!ねっ!」

とそのとき、ネズのおなかがぐるぐるなりだした。

「ははは!おなかすいた!」

「このじかんまでなにも食べていなかったのですか?」

「だってまじょまじょライブのあとすぐこっちきたからなにもたべるじかんなかったの!」

「ライブ、、まじょのせかいにもいろいろたいへんなのですね」

じゅうぞうはかばんから、じゃがりこをとりだした。

「こんなものしかありませんが」

「あっ!じゃがりこだ!だいすき!ありがとう!」

ネズはじゃがりこのふたをあけてバリボリとたべながらじゅうぞうのはなしをきいていた。しばらくおやのかいごやかんびょうをしていたじゅうぞうだったが、そのおやもいなくなって、はたらくきもなくて、ひきこもりがちになっているとのこと、いきるきりょくまでうしないかけていることまでじゅうぞうはモグモグとじゃがりこをほおぼっているネズにはなした。

「ネズさんはまほうつかいなのですね。まほうでわたしのきりょくを高めたりすることはできるのでしょうか?」

ネズはかなしいひょうじょうをうかべながら、じゃがりこをまだ食べていた。じゅうぞうはネズが食べ終わるのをしずかにまっていた。

「じゅうちゃん、そんなことがあったんだね。ネズちゃんもじゅうちゃんときょうぐうはちがうけど、すべてにつかれちゃうきもちわかるなあ。まほうできりょくを高めることはできるかもしれないけど、いちじてきなものだからさあ、ちゃんとしたかいけつにはならないよ」

ふとネズはじゅうぞうのりょうてを合わせてそのうえからネズのりょうてでにぎった。

「まえになにかのきじでよんだことあるの。いきることにつかれたひとはだれかのいきててもいいんだということばにすくわれることがあるんだって。だからじゅうちゃん、いきているだけでだいじなんだよ!いきてていいの!」

そうネズがまっすぐにじゅうぞうをみつめていたので、じゅうぞうはむねがふとあつくなった。

「いきているだけでいいんですね。でもただいきていることをくりかえすというのはけっこうしんどいものです。でもネズさんのねついがなにかわたしに

げんきをくださったようなきがします。これもいちじてきなものかもしれないですが」

「じゃあさ、じゅうちゃん辛くなったらここにきてよ!」

ネズはかみのチケットをとりだした。

「それ、はんとしごのまじょまじょライブのフェスのチケット。そのときまではいきてたらいいことあるよ、きっと。すこしずつでいいじゃん!」

じゅうぞうはかみのチケットをうけとった。

「ありがとう、すこしでもなにかたのしみにまっていることがあるのはいいかもしれません」

ネズはにこっとして、じゃあね!とてをふった。ネズがてをふると、またキラキラがネズのまわりにあふれて光をはなって、ふっとネズは消えてしまった。じゅうぞうのみぎてにはかみのチケットがにぎられていた。



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