224BGM発注編:物語に必要な音楽を考え、仕様を作ろう【美しょゲを作ろう】
タルコフ始めました、恒石涼平です。難しいけどオフラインで練習できるのでちまちま遊んでいきます。
美少女ゲーム制作日誌、 #美しょゲを作ろう の続きをやっていきます。今回は「BGM発注」の為の準備をして、仕様書を作成していくよ!
《BGMはどうやって考える?》
そもそも「BGM」とはバック・グラウンド・ミュージックの略です。後ろで鳴ってる音楽という感じの意味合いだ。
以前作ってもらったテーマ曲はどちらかというと「音楽が主役」という感じなんだけど、BGMは「主役を陰で支える助役」です。
ゲームやアニメに限らず、リアルのお店や施設にもよくBGMは用いられてますよね。このBGMの役割は主に「物語の雰囲気を作ること」にあります。
楽しませたい場面では明るく盛り上がる曲を、泣かせたい場面では寂しく悲しげな曲を。ゲームの場合だと「シナリオや世界観などの雰囲気をより強化すること」が出来る、重要な舞台装置です。
そのBGMを今作でも3~4曲用意しようと思ってるんですが……
「そもそも、用意するBGMはどう考えればいいのか」という点から今日は話していこうかなと思います。
基本的にBGMは、シナリオの土台である「プロット」作成の後に仕様書が作られることがほとんどです。物語に味付けをする要素なので、物語が決まる前に作ったらチグハグになる可能性が高いんだ。
つまりは「物語に沿って、味付けとして欲しいBGMを考える」という流れが、チグハグにならない為にも必要になってきます。
今作は最大でも60クリックで物語が終わる。そして世界観はポストアポカリプスで、背景は荒廃した電車だ。そんな悲しげな物語に、明るいジャズなんて流した日にはもうそりゃ世界も崩壊よ。
なのでBGMを決めるにあたって念頭に置いておくことは、チグハグにならないこと。
まとめると「物語を読み、より物語と世界観を演出するにはどうすればいいかを考え、その手段としてBGMを用いる」といった考えでBGMをリストアップするのがいいかと思います。
《必要なBGMを導きだそう》
では早速、今作の物語と世界観から使いたいBGMを考える訳ですが……ここで「短編ゲーム」という点も重要になってきます。
BGMは雰囲気を作るもの、だからこそコロコロと変えてしまうと雰囲気は混ざり合ってぐちゃぐちゃになってしまう。なので今回の60クリックの制限を考えると、本編中には1回程度しかBGMを変更できません。
なのであれもこれもと考えず、物語を前後に分ける感じで捉え、1~2曲で上手く演出できるかを意識しながら考えていきます。
では久しぶりにシナリオを読む……のは面倒なので、軽く目を通しまして。
物語を前後半に分けてみると、
荒廃した世界でヒロインと出会う
叶わぬ願いの告白、想いを伝える
こんな感じになってます。そこからより内容を深めるように、それぞれの物語の雰囲気を言語化していくと……
前半は「落ち着いていて、すぐに別れが来ると知っていることの切なさを感じさせたい」
後半は「綺麗でドラマチックに、しかし叶わないことの悲しさ・切なさを前半よりも多く伝えたい」
といった雰囲気をイメージしました。しかし物語のトゥルーエンドでは悲しさ・切なさよりも幸せ感を出したいと考えたので、後半の曲を2種類に変えます。
更にタイトル画面では別のBGMを掛けたいなと思い始め、雰囲気を重視するために環境音(アンビエンス)を軸にしたタイトルBGMも入れて……
落ち着いた、別れの切なさを少し感じるBGM
綺麗でドラマチックに、願いが叶わない悲しさを感じるBGM
より綺麗でドラマチックに、恋を叶えた幸せさを感じるBGM
タイトル画面で流れる荒廃した世界の環境音を軸にしたBGM
よし、これで始まりのシーンからバッドエンド・トゥルーエンドを余すことなく演出できるはず。こちらを叩き台に仕様書を作成していこう!
《仕様書を作ろう!》
さて、では発注の際に必要となる「仕様書」を作成していきましょう。
どういう仕様書を作ればいいのかは会社や人によって違いますが、自分なりの「この要素はあるべき!」という8つの点をまずご紹介。
曲の長さ
楽器構成
音量・納品形式
想定箇所
曲のイメージ
参考曲
◆曲の長さ
まずは楽曲の長さを決めておきましょう。これがないと1分の短い曲が送られてきたり、10分の超長尺が送られてくる可能性が生まれます。
基本的には「ループ楽曲で1周2分前後」の長さがあればゲーム内でも違和感なく活用できるでしょう。
短いと「なんかずっと同じところ聴いてるな」と、長いと逆に「ずっと音楽が変わっててそっちが気になる」と意識が物語から逸れてしまうことも。なので最大でも4~5分程度にしておく方がいいんじゃないかな。
なおゲームBGMとしては「ループ楽曲」であることが割と重要です。
ループ楽曲とは一定の範囲をループし続けることで、永遠に終わらない楽曲にできるというもの。これじゃないと毎回曲が終わるたびに無音が生まれて、BGMが作り出した雰囲気が消えてしまいます。
更に「あれ、BGM終わった?」と意識を逸らす要因にもなるので、基本はループ楽曲がオススメだぞ!
ということで、今回の仕様書では「1:30~2:00辺りで1ループする、ループ楽曲」と記載しておきます。
◆楽器構成
BGMにどんな楽器を使ってもらうのか、それを指定しておくことも大事です。
まぁ「1つの作品でこの楽器構成しか鳴らない!」なんてことはほぼ無いので、楽器のイメージが湧かない場合は指定しなくてもヨシ。ただメインの楽器 or 音楽ジャンルくらいは決めておくといいかも。BGM全体で特定の楽器が鳴ってるだけでもまとまりが生まれるので。
オーケストラ系で統一してもらったり、バンドサウンドのみで構成してもらったり、全部の楽曲でソロのヴァイオリンを鳴らしてもらったり。この辺りの工夫をしてもらうだけでも、ゲーム全体の雰囲気は変わってきます。
今回では、全体的にはシネマティック(映画に用いられるような音楽)にしてもらいつつ、されど映画のような壮大さは抑えめに。
静かさや切なさを主軸にしてもらいながら、共通の楽器として「ピアノ」を入れてもらう。
……という感じでまとめておきます。
◆音量・納品形式
この点はちょっと専門的な要素強めになるんだけど、音声ファイルって色々種類があるんだよね。
耳にしたことある人が多いのは「mp3」、ゲームによく組み込まれるのは「ogg」とか、拡張子と呼ばれるファイルの形式がいっぱいあります。解説すると長くなるので割愛して……ずばり納品でよくある形式は「wav」になります。
読みは何でもいいと思いますが、私は「ワブ」派です。
mp3やoggは圧縮というファイル容量を少なくしたものですが、wavはそれをしてないので容量が大きいんだよね。圧縮すると音が劣化するんだけど、それをしてないから高音質で聴けるんです。
なので納品はwavで貰って、ゲームに組み込む前に音量などを調整して違う形式へと書き出す……というのが一般的だと思います。
そして、音量。これがまたややこしい。
音声編集の出来ない方は何も考えずとりあえず「-1dbでミックスしてください」と記載しておけばいいと思うんだけど……
実は音楽って楽器の音量を整えて聴きやすくする「ミックス」と、楽曲ごとの音量などを揃える「マスタリング」という2つの作業があるんよね。
基本的にBGM発注ではミックスまでやってくれるんだけど、本来であればゲーム上で音量のばらつきが出ないようにこちら側でマスタリングをしなきゃいけない。
まあゲームエンジン側で音ごとに音量を変更できる場合が多いので、マスタリングうんぬんが分からない場合はそっちでやるのが簡単でオススメ。
でもこの企画では一応自分が音声編集とかもできる人間なので、BGMのマスタリングはやってみようと思います。それに関してもまた記事でお見せできれば。
……んで、こちらでマスタリングをしたいので、今回は音量に余裕のある「-5dbでミックス」という感じで指定しておきます。
そしてファイル形式は「wav(4.8kHz 24bit)」に。カッコの中は気にしないでください、ややこしい部分なので。
◆想定場面
ここでは作曲家側がイメージしやすくなるように、ゲームのどの辺りで使用するのかを記載しておきます。
例えば「作中の落ち着いた日常の中で流します。昼の時間帯で流すイメージです」とか、「バトルシーンが始まった際に流れます。こちらは一対一の戦闘時で、複数絡む際はまた別のBGMに切り替えます」とか。
ただ、「バトルシーンで流れます」だけだと情報が少なすぎるので、例文のようにやや具体的な情報を入れておいた方がいいです。
しかし文量が増えると何が言いたいか分からないぼやけた情報になってしまうので、なるべく短く簡潔的に。次項の「曲のイメージ」もあるので、そっちと情報が上手く組み合わさるようにしていきます。
この項目からは各曲で内容が違う部分になるので、BGM1だけを抜粋して実際の内容を紹介します。ご了承ください。
んで、1曲目の想定場面がこちら。
曲は場所によって効果的な使い方があったりするので、このような感じにまとめました。
◆曲のイメージ
ようやく「どんな曲が欲しいのか?」という内容にやってきました。なお各項目の順番は何でもいいんだけど、自分的には今紹介している流れが一番理解しやすいかと思います。
ここで曲のイメージを言語化していくんだけど……これが結構難しい。
何となく雰囲気は思いついていても音は言語化しづらいし、そもそも音楽って想像しづらいものだったりする。なので私的には次項と一緒に進めるのがオススメです。
まず場面に合った「参考曲」を1~3曲探す、その曲を聴きながら「この曲のどういう部分が欲しいのか」をメモしていく。そこから重要な要素を2~3個だけ出してまとめる……という感じ。
慣れてくると曲を探す前からイメージを言語化できるようになってくるので、最初は上の方法で慣らしていくのがいいと思います。
では、1曲目のイメージを考えて……
このような感じにまとめました。もう2行くらいは文章があっていいかもしれませんが、作曲家さんによって「詳細な方が作りやすい・作りにくい」が違うのでどっちがいいとも言えません。
一番簡単なのは相手に聞くことですね。相手にとってポテンシャルを良く引き出せる方法を使うのがいいと思います。
◆参考曲
さっきの項目でも軽く触れましたが、実はここが仕様書の中で一番重要なポイントだったりします。
だってね、どれだけ言語化してもそれは「言葉」なんだもの。それを音楽に変換する思考過程は人によって違うから、もしかしたら想定と全く違う方向が作られてしまうかもしれない。
なので同じ音楽である参考曲を挙げておくことが、相手との認識の差を縮める一番楽で効果的な方法なんです。言い過ぎかもしれないけども。
ともあれ参考曲は1~3曲挙げておくのがオススメです。なので今回も色んなサントラを聴き漁って探してみよう。
……あ、自分流の「参考曲の探し方」をここにまとめておきます。
簡単なんだけど、Apple Musicとかの音楽サブスクに入って「Soundtrack」「サウンドトラック」「OST」などで検索して、アニメやゲームのサントラをぽちぽち聴いていくだけです。
世界観が近い作品を知っているなら、そのタイトルを調べてサントラを聴くと時短になりやすいです。曲名から場面が想像できる場合は、イメージの場面に似たやつを聴いていくのも時短かな。
あと作品によってオーケストラが中心だったり、色々混ぜて使ってたりするので、その辺りも意識して合うものをいつも探してます。
ちょっと時間は掛かるけど、BGMの知見も広がるのでぜひこの方法で探してみてくださいまし!
そんな感じで1曲目の参考曲を挙げてみまして……
こんな感じで列挙しました。
最後のやつは他と毛色が違うんだけど、こういうのもいいなと思ったので注釈付きで入れてます。何を作ってほしいのか軸がブレるので基本的にはやらない方がいいです。なぜやったし。
あと参考曲を提示する際は、こうして確認ができるURLを添付します。参考音源を送ることもあるけど……まあな、グレーというかアレなので、サブスクで試聴もできる今は共有URLを貼るのが一番いいと思います。サブスクになかったらアレだけどね。
《仕様書が完成!》
はい、何故この文量を1つの記事にぶち込んだのかは私にも分かりませんが、以上の流れで仕様書を作成しました。
記事内で記載した1曲目以外もそれぞれ書いてるので、気になる方はドキュメントの方をご覧下さい。
なお既にテーマ曲を作ってくれたGKにこちらの仕様書を見せて、打ち合わせをしました。報酬の軽い擦り合わせをした結果、4曲全てをお願いしてます。
本当は打ち合わせの内容も記事にしようと思ってたんだけど、会話の9割くらいアニメとゲームの話してたから……仕様書から変わった点とかはないので、その辺りは割愛ということで。許してヒヤシンス。
という所で今日はここまで、また次回お会いしましょう!
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