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短編官能小説

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2023年8月の記事一覧

【官能小説】いい女【短編】

 十二月の風が頬を撫でた。すり切れるように冷たい風は、朝よりもだいぶ鋭さを増している。白井由香里は買い物袋を持ち直し、歩き出した。  スーパーから自宅までは五分とかからない。雨の日でも買い物へ行くには非常に便利だ。考え事をする暇もなく、もう由香里の住むアパートが目の前に見えはじめた。  彼女の自宅は同棲者向けのアパートで、間取りは3LDKもある。元々は婚約者と共に住むために借りた部屋だが、今ではその婚約者の姿はどこにもない。同棲の一週間前に彼の浮気が発覚し、別れたからだ。  

【官能小説】虎穴に入らず虎児を得る

 笠原陽子は戸惑った。目線が目の前に座る男と手に持った履歴書を何度も往復した。履歴書には二十三歳と記載されている。これが事実なら、この男は自分よりも七歳年下ということになる。しかし目の前に座っている人物が、陽子の目にはどう頑張っても中学生ぐらいの男の子にしか見えなかった。 「あの、大変失礼なのですが、身分証を拝見させていただいてもよろしいですか?」 「あ、はい。どうぞ」  そういって、彼が財布の中から車の免許証を出してきた。陽子はそれを受け取り、履歴書と照らし合わせた。名