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2-10.余話として(「沈黙/遠藤周作」)

この国は沼地だ

「沈黙/遠藤周作(新潮文庫)」。実在の人物がモデルとなった歴史小説がある。1633年に密入国した宣教師20名が捕縛され、16名が殺害されているが、捕縛された中の1人がクリストヴァン・フェレイラで、彼はイエズス会の日本管区長代理を務めていた。彼は拷問の末に棄教し、のちに名を沢野忠庵と改めて幕府の役人となる。

小説は、尊敬していたフェレイラが棄教したらしいということを聞かされた若い宣教師が、日本での宣教と、その事実を確かめるために日本に密航してくることから始まる。

物語の終盤、捕えられたままフェレイラと対面を果たしたロドリゴは、かつての師であるフェレイラが棄教したことは事実だと知り、しかも彼から棄教を勧められて愕然とする。フェレイラはロドリゴにこうつぶやく。

「この国は沼地だ。(中略)我々はこの沼地に基督教という苗を植えてしまった。」(「沈黙/遠藤周作」P231)

その後、ロドリゴ(実在の名はジュゼッペ・キアラ)もまた棄教し、フェレイラ同様に日本名岡田三右衛門を与えられ、幕府の役人となっていく物語である。

なお、前述した天正遣欧少年使節の一人中浦ジュリアンが棄教を拒み拷問で殺害されたのはこの時期である。65歳と伝えられている。

マーティン・スコセッシ監督「沈黙」

これを原作とした上記の映画(2016)がある。フェレイラを演じたのはリーアム・ニーソン、ロドリゴをアンドリュー・ガーフィールド、ロドリゴと一緒に密航してくるもう1人の宣教師ガルぺにアダム・ドライバーの顔ぶれ。
小説で描かれた「重さ」がひしひしと伝わってくる。

2016年のタイム誌の企画「今年上映された映画TOP10」の中で第5位に選ばれている。

日本名を与えられて役人(長崎奉行支配下)になった2名は、主にオランダ東インド会社が運んでくるものの中に、キリスト教に関わるものがあるか否かを調べる役目を与えられていた。

「余話」終わり

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