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Fractal Audio Systems Axe-FX III Firmware 25.00 アップデート 概要紹介&レビュー

先日、Fractal Audio Systems Axe-FX IIIのファームウェアバージョン25のアップデートが公開されました。


アップデート内容についての翻訳

今回のアップデート内容は以下の通りです。

  • “Cygnus X-3”アンプモデリングの実装

  • DRIVEブロックに“Sunrise Splendor”モデルを追加。(既存のSunrise Splendorは“Sunrise Splendor Hi-Cut”に名称変更)

  • AMPブロックに”Class-A 30W Brilliant”モデルを追加。

  • DELAY、MULTITAP DELAY、PITCH、PLEX DELAY、REVERBの各ブロックに“Kill Dry”コントロールを追加。

  • INPUTブロックのノイズゲートを改良。

  • GATEブロックの"Classic Expander"、"Modern Expander"を改良。

  • AMPブロックの”Deluxe Verb Vibrato”、"Double Verb Vibrato", "Super Verb Vibrato"および"Vibrato Verb"全モデルのMiller capacitance valueを修正

  • AMPブロックの"Suhr Badger"各モデルのFX loop recovery gainを修正

  • 本体起動時にMIDI InジャックからMIDI信号が入力された場合にGlobal Settingの設定が正しく読み込まれない不具合の修正

  • AMPブロックの”ODS-100 HRM"、"ODS-100 Ford"、"Bludojai Lead"モデルのOverdrive Volumeのテーパーを修正。

  • その他いくつかの不具合修正および機能改善


Cygnus X-3アンプモデリングの正式実装

今回のアップデートの目玉は新たなアンプモデリングアルゴリズム"Cygnus X-3"の実装です。

Cygnus X-3は「新計測技術と分析方法によってほぼ全てのアンプモデリングがリマスターされた」とのことで、プリアンプ、パワーアンプのアルゴリズムと、アウトプットトランスやプリアンプ給電電圧の変化による挙動再現に改良が加えられたようです。
具体的に変更されたパラメーターは以下の通りです。

  • Preamp Low Cut Freq

  • Preamp Hi Cut Freq

  • Triode1/2 Plate Frequency

  • All Cathode Follower parameters

  • Preamp Bias

  • Preamp Bias Excursion

  • PI Bias Excursion

  • Power Tube Bias Excursion

  • Transformer LF/HF

  • Transformer Drive

  • Power Tube Grid Bias

  • Cathode Resistance

  • Cathode Time Constant

  • Negative Feedback

  • Supply Sag

既存のプリセットについては設定パラメーターの数値が自動で置き換わるため、音色が大きくかけ離れてしまうことはありません。
また上記項目以外のToneタブやIdeal/Preampタブ内の数値に関しては変動しません。

実際にFW24.05とFW25で同じパッチを読み込みスクリーンショットを撮って比較してみたところ、Pwr Tubes+CFタブのPOWER TUBES項目において、FW25では"Excursion Time"、"Recovery Time"のパラメーターが削除され、"Grid Bias"の値が変更されており、CATHODE FOLLOWER項目の"Compression"、"Harmonics"の値も変更されていました。
またPower SupplyタブのSupply Sagの値も変動していました。

Recto2 RED Modern(=6L6 GC GE) Pwr Tubes+CFタブの比較
Wrecker Express Bright(=EL34 MULL) Pwr Tubes+CFタブの比較
Class A 30W TB(=EL84) Power Supplyタブの比較

パラメーター値の変動自体は、項目毎にプラス方向にもマイナス方向にも変動していた為、一律にどちらかの方向に寄っているということはなく、単純に0-100%のスケールが変わったと見ることになります。
例として6L6系やEL34系のアンプモデルの場合にはPwr Tubes+CFタブの項目の変動が5-10%ほど、EL84系のアンプモデルの場合にはPower Supplyタブの項目の変動が目立つといった形でした。

アンプの中身の設定値レベルで音色を調整していくというのは、些かマニアックな音作りの仕方ではありますが、音の量感、飽和感といった生々しさや、ピッキングとフィンガリングへのレスポンスといった弾き心地の面での調節においては、アンプの表面にあるツマミやEQで考えるよりもずっと各個人の好みに近づけやすい調整方法だと思います。


Sunrise Splendorの変更について

既存の"Sunrise Splendor Hi-Cut"はHI-CUTスイッチがオンの状態を再現、新たに追加された"Sunrise Splendor"はHI-CUTスイッチがオフの状態を再現しています。

モデリング元であるJHS Morning Glorでは筐体側面にあるHI-CUTスイッチ。
オンオフによる挙動再現を改めて行った形になります

"Kill Dry"機能の追加について

パラレルルーティングの実例。
赤マルの箇所がパラレルルーティングになっています。

空間系エフェクターを通した時に発生する原音の音色変化を避ける使い方として、ドライ音用の回線とエフェクターに送る回線を分岐し、エフェクターからの出力時にドライ音(原音)を0にして、エフェクト音のみを取り出してその後にミックスするパラレルルーティングという手法があります。
Kill Dry機能はこのパラレルルーティングを行う際に有効で、Mixコントロールをエフェクト音の音量調整として使うことができます。
ライブ環境などで複数のプリセットのエフェクト音量をまとめて調整したい場合にはGlobal Reverb/Effects Mixで調節が効くようにもできるので、パラレルルーティングを多用しているユーザーにとっては利便性が高まるでしょう。

セッティングはプレイヤーの好みと感覚で全く変わるのであくまで参考程度ですが
Kill Dry使用時の設定の差を比較してみました。

個人的にはこれまでFXブロックのアウトプットレベルを細かくいじってきていたので全てKill Dryで設定し直すのは少し手間がかかりそうですが、Mixコントロールとブロックレベルの両方を用いたより細かい調整をしやすくなったと考えて諸々見直していこうと思います。


今回のFW25アップデート後に弾いてみて最初に気づいたのは、ピッキングに対しての音の立ち上がりが速く、音の全体像がはっきりしていることです。
また各帯域の量感がよりいっそう豊かになり、設定されたアウトプット音量は変わっていないはずなのに耳に届くボリュームが大きく感じられたほどです。
音の輪郭が明瞭な為、強く歪ませても音の濁りや潰れが少なく、速い刻みや込み入った細かいフレーズなどでももたつくことのない演奏が楽しめます。
クリーントーンでは中低域の量感が増したことにより余裕が生まれ、クランチでは弦鳴りのリアリティや右手左手の運指の妙も更に追求しやすくなったと感じました。
表現としては正しくないかもしれませんが、いわゆるADSRで言うところのAとDの間が長くなったような感触というか、DとSの間が滑らかになったようなイメージというか、とにかくFW24.05とは別の演奏感があります。
この辺りはINPUTブロックのノイズゲートが改良されたことも関係しているのかもしれません。

上述したパラメーターの数値上の変動の傾向のチェックも兼ねてFW24.05にロールバックして何度か弾き比べてみて、これまで十分以上のクオリティだと思っていたCygnus X-2モデリングには戻りたくないと感じてしまうほど、Cygnus X-3モデリングは弾いていて気持ち良い手応えがありました。
なお、CPU使用率についてはCygnus X-3の方が0.3-0.5%ほど高くなりますが誤差レベルと言える範囲なので、複雑なルーティングを組んでいても心配なくアップデートできると思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
ご自身の音楽の役に立つ内容や、機材に対しての興味を持っていただける要素が何かしらあったなら幸いです。


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