TEAM SHACHI『笑う門には服着る』の感想

2024年2月14日にTEAM SHACHI『笑う門には服着る』がリリースされた。2022年2月にリリースされた改名後の1stアルバムである『TEAM』からジャスト2年後のことだ。

前作『TEAM』はコロナ禍にリリースされたシングル曲を中心にまとめ上げたシングルコレクションの様な作品だったのに対し、プライベートレーベル「ワクワクレコーズ」の最初のアルバムである本作は“服を着せ替えるように多様な曲を楽しむ”というコンセプトが通底した作品となった。

購入〜開封

このアルバムを、僕はいささか重苦しい気持ち抱えながら購入した。そしてアルバムが届いた2月13日には「不安と期待 割合は 9対1」の状態でパッケージを開けた。なぜならアルバムに収録された新曲(「おとなりさん」以降の曲)に僕の好きな曲は一つもないかもしれないと心配していたからだ。

『笑う門には服着る』のコンセプトを最初に聞いたとき「それはコンセプトがないことの言い換えでは?」と思った。「服着る」で「ふくきたる」と読ませるのにも無理があると思った。アルバム詳細が発表になり「舞頂破」が収録されると知ったときは「新曲のロック枠がひとつ消えて残念だ」と思った。(舞頂破が嫌いなわけではないが)

アルバム発売に先駆けて行われているツアーではこれまで(ファイナル東京公演前の時点)2箇所3公演に参加し「おとなりさん」「愛のニルバーナ」「縁爛」「誰かのために生きる今日を」を聴いた。最初の感想は「良い曲だと思うけどどこか入り込めない or そもそも好きじゃない」だった。(ライブ自体は良かった。特に横浜2部は最高だった。)

アルバム発売前にメンバーから「だれでも好きになれる曲がある」という趣旨の発言があった。「本当かよ、自分にはまだないけど。」と思った。

そういうわけで不安たっぷりに開封したわけではあるが、まずはパッケージのデカさに心躍った。

デカい。比較対象は文庫本。

FC版には「シャチサマ2023」のBlu-rayが同梱されており、これがFC盤購入理由の90%だったのだが、まずはアルバムを聴いてみることにした。CDをプレイヤーに入れて再生ボタンを押す。微かに回転音が聞こえて最初の曲が始まるまでドキドキしながら待つ。

この時点で僕がまだ聞いたことがない曲はM1「Voyage」とM5「FANTASTIC MIRAI」。「Voyage」は皆さんのツイートとタイトルからある程度どんな曲か予想できていたので、実質「FANTASTIC MIRAI」に全てを賭けるような気持ちだった。

M1M2と順番に聴いていき、M5「FANTASTIC MIRAI」に辿り着く。最初の感想はだいたい以下。

冒頭のベースかっこ良い!どっかで聞いたことありそうなイントロのリフ!ハルの歌い出し良すぎ!!!え、はなおん曲??(違った)大黒さんクセのない歌い方良い!ドゥッドゥドゥドゥードゥドゥ(ギター)いいね!そう、高鳴るハートですいま僕!Anymoreの発音良すぎ!!!ウォーオーオッオー叫びたい!!!Bメロのナオのボーカル最高!!!転調下がっとる!?と思ったら上がった!大サビ三段階!?秋本さんイケボ!!!最後のシャウト誰!?歌詞のリズム感が良い!好き!!!

大興奮である。本当に不安が強かったので安心して涙が出た笑。

アルバムを通して聴いてみると不思議、前作『TEAM』以上に振れ幅の大きい曲が収録されているにもかかわらず、アルバムとしての『笑う門には服着る』はしっくりくる聴き心地だった。

全体の感想

現在、TEAM SHACHIの曲に音楽的な方向性はないようだ。改名後に掲げた「ラウド・ポップ・ブラス」は独立レーベルの設立をきっかけになりをひそめ、様々なサウンドの曲が作られるようになった。

同じ事務所である私立恵比寿中学ならJ-POP/ROCK、ばってん少女隊ならエレクトロ、AMEFURASSHIならガールクラッシュ的な方向性を持っているのとは正反対だ。

2022年にばってん少女隊が「九祭」AMEFURASSHIが「DROP」をリリースしたとき僕は嫉妬した。アルバムを通じて一貫性のあるコンセプトで曲作りをして届ける。それが多くの人に評価される。TEAM SHACHIもやってくれないものかと…。

ファンが好きな音楽もかなりバラバラな印象だ。『笑う門には服着る』から好きな曲を3つ選べと言われたらどうなるか。アンケートをとったらかなり好みが分かれるのではないだろうか。(ちなみに僕は「FANTASTIC MIRAI」「江戸女」「誰かのために生きる今日を」を選ぶ)

特定の音楽性に振り切ることは、その音楽性に馴染みがない人に強い疎外感を与える。例えば全曲が「江戸女」みたいな曲のアルバムを作ったら多くのファンは悲しんでしまうと思う(僕は喜びますが笑)。TEAM SHACHIはそれを良しとしない。これはファンがTEAM SHACHIを好きな理由のひとつだと思う。(ウィークポイントでもあるが)

そういった意思が表れているのが「Voyage」の「虹をかけてくれたあなたなら」であり「愛のニルバーナ」の「It's 愛」であり「誰かのために生きる今日を」の「愛はいつも〜君がなってくれる」なのだろう。いろんな曲をつくるのは全てのファンに楽しんでもらいたいから。1人も置いてけぼりにはしたくないから。

そのように考えると初めは疑念を持った「服を着せ替える」というコンセプトも僕の中で輝きを帯びてきた。「だれでも好きになれる曲がある」は偽りではなかったし、コンセプトは細部にも宿っていた。

例えば、曲ごとにキャラクターを使い分ける大黒柚姫の歌唱。鉄板のセリフに加え新たな面を見せた秋本帆華の強い歌。曲ごとに語彙のテイストが異なる歌詞。緩やかに繋がった曲順。打ち込みとバンドサウンドの使い分け。地声とファルセットの使い分け。単独の歌唱とユンゾンの歌唱。etc.

余談:とはいえ音楽的にコンセプチュアルな作品が出たら嬉しいというのは変わらない。言うのはタダなので個人的願望を言っておくと、インディーロックかハイパーポップ路線のアルバムを作ってほしい!

ここからは一曲ごとに感想を書いていく。
今回はあまりインタビュー等を参照していないので的外れもあるかもしれない。また好きな曲もそうでない曲もあるため、とても共感できる内容ではないかもしれない。そういう見方もあるのだと容赦してもらえたら嬉しい。

M1. Voyage

作詞作曲:沖 聡次郎 編曲:沖 聡次郎

1曲目は耳馴染みの良い爽やかアニメOPソング。大空に鐘が鳴り響き航海の始まりを祝している情景が浮かんでくる。全体的に高音なのにサビでさらに高音に。ライブで高音ファルセットをキメられたら気持ち良いだろうな。

全人類向け系のサウンドゆえに個人的には少し物足りなさも感じるけれども、音数を最小限にし秋本帆華の声質をストレートに生かした最後のパート「虹をかけてくれた「あなた」となら」のところは胸に響いてくるものがある。「希望の船は今、 帆を上げる」の歌詞も相まって秋本帆華がTEAM SHACHIの不動のセンターであることを強く印象付けられた。

余談:不動のセンターで連想した。キャプテン翼でいえば秋本帆華は大空翼。咲良菜緒は日向小次郎。大黒柚姫は石崎了。坂本遥奈は葵新伍。異論は認める。(ただし石崎くんはすごいやつなので決して見た目で判断してはいけない)

追記:アルバムツアーファイナル東京2部のアンコールで初めて「Voyage」のライブを観た。迫力あるバンドオケと重なった4人の歌声はめちゃくちゃ綺麗で感動的だった。

M2. おとなりさん

作詞作曲:ヤマモトショウ 編曲:ヤマモトショウ

個人的に一番の問題作。紆余曲折を経てだんだん好きな部分も見つかってきたが、複雑に思うところもある。

配信が始まったときの率直な感想は「困った」。かわいい系の曲に慣れていない僕はこの曲をどう頑張っても好きになれなかった。まさに「わたしは無理」。好きなグループのとっておきの曲を好きになれない。こういうことって時々あるけど辛いよね。

それでも、ライブで何回か聴くうちに、だんだん聴けるようになってきた。計算されているかの如く的確に鳴るギターのカッティングやピアノが心地よいし、この時代にギターソロがしっかりあるのも嬉しい。近年のシャチの曲の中では最もおしゃれでかっこ良いサウンドだと思うようになった。

惜しむらくはライブが撮影可能のため、曲自体を楽しむという要素がどうしても薄れてしまったことだけれども、耳が慣れてきてだんだん苦手意識が薄れてきた。

しかし、大晦日の「ももいろ歌合戦」の配信でこの曲の元ネタとなったFRUITS ZIPPER「わたしの一番かわいいところ」を初めてみて愕然とした。「あまりにも2番煎じ、というかn番煎じだろ。これTEAM SHACHI側のオーダーなんだろうな…。」と残念に思った。

そういうわけで好きな要素はあるけど自分には合わない曲だと思っていたのだが…。この記事を書いている途中で、ヒトカラに行く機会があり、試しに歌ってみると、意外にもめちゃくちゃ楽しい笑(あとめちゃくちゃ難しい。これを踊りながら歌うのは凄い。)

歌ってみて初めて「おとなりさん」は音程があるラップなんだと思った。そういえば、シャチのカラオケ曲の中では「わたしフィーバー」が好きでよく歌う。とはいえ別に乙女な歌詞に共感しているわけではない。どうやら早口言葉が好みのようだ。

余談:バンド民としてシャチのライブでドラムサポートをすることがあるTATSUYAが所属するCrossfaithのライブに行ったときにO.A.でTohjiというラッパーのパフォーマンスを見た。トラックにのせて自身のストーリーを歌う姿を見て、アイドルとラッパーって同じなのかもしれないと感じた。

M3. 愛のニルバーナ

作詞作曲:浅野尚志 編曲:浅野尚志

初めて聴いたのはツアーの横浜公演。最初の印象は既存ファンに向けたコール曲。シャチサマを通じてコールの楽しさを知ったものの、相変わらずコールに慣れない僕はまたもや戸惑った。

タフ民(TEAM SHACHIのファンネーム)のコールがあって初めて完成する曲があるということは理解しているつもりだ。だけど声を出すということは演者と観客の双方向な作用であって、素晴らしいパフォーマンスに対して声を出さざるを得なくなってしまうというものだと思う。「はい、ここ声出せるようにしといたからいつものテンプレよろしく」は初心者にはキツイ。

歌詞の「シャチっていったらライブだね」「一福去ってまた一福」は、僕を含めたタフ民こそ共感してしまう内容だけど、そこまで熱心ではないファンからしたら??となってしまうのではないかとも思った。

とはいえメジャーデビュー前からの頼れるパートナーである浅野尚志とTEAM SHACHIの蜜月を物語る愛に溢れた楽しい曲になっていると思う。複雑怪奇なメロから超絶キャッチーなサビへ移行する瞬間は世界がパッと明るくなるような開放感がある。個人的なお気に入りは大黒柚姫の「単純明快」の「カイ」のキレが良いところ。

僕はまだこの曲を上手にキャッチできていない。多分あと100回くらい聴いた方が良いのだろう。その頃には涅槃に達し、自然とコールするようになっているかもしれない。

余談:この曲のコールがあまり好きではないということを書いたが、タフ民のみなさんの「コールしてええ!」という熱い気持ちは好きなので、仮に僕が隣にいたとしても気兼ねせずコールしてください。ライブは好きに楽しんだらいいんです。改めていうことじゃないかもしれないけど。

M4. 沸き曲 

作詞作曲:藤田卓也 編曲:藤田卓也

2023年の10月にリリースされた「沸き曲」。早くもシャチの新しいアンセムとして君臨しつつある。初めて聴いたのは横浜アリーナで行われた「スタプラアイドルフェスティバル ~秋の新曲収穫祭~」だった。

元々スタプラフェスに行く予定はなかったのだけど、開場時に配られた「沸き曲」のチラシをTwitterで見かけて気になってしまい、開演30分前に急遽参加すること決めた。チラシを作ってくれたスタッフさん、写真を撮ってツイートしてくれたみなさん。本当にありがとう。

初披露にもかかわらず会場の多くのスタプラファンを即座に沸かせた。まだこのときはワワワイのコールもなかったというのに。個人的には歌ものでなくビートが強調された曲を出してくれたのが嬉しくてめちゃくちゃ沸いたし、その日最も会場を沸かせたTEAM SHACHIを誇らしく思った。その後の横浜や埼玉のライブでも「沸き曲」は大いに盛り上がった。

「沸き曲」の良いところの一つとして歌詞にストーリーがないことが挙げられる。

「抱きしめてアンセム」しかり「DREAMER」しかり「番狂わせてGODDESS」しかり「勲章」しかり、TEAM SHACHIのエポックメイキングとなる曲の多くがグループの過去を未来へのエネルギーに転化するような歌詞だった。例えば冒頭の歌詞を見てみよう。全て過去形 or 過去に言及している。

取らせやしないと言ったのに

「抱きしめてアンセム」より

昔からこうなんです

「DREAMER」より

覚悟はもう決めた

「番狂わせてGODDESS」より

がむしゃらに突っ走ってた

「勲章」より

一方「沸き曲」の歌詞は今この瞬間にフォーカスしている。

破裂音は耳に残る

リフレインは脳に残る

この曲だいたい三分間

両手を合わせたら
リズムが巻き起こる
心を一つに盛り上がれ

この景色がここに残る

これが沸き曲だ

「沸き曲」より

現在形で、断定的に書かれた言葉だからこそライブ会場にいる人を巻き込んでいく力がある。

それを助けるサウンド面。スピード感があるイントロで一気に盛り上げた後、0:04~05のブレーキかかった3音が冒頭のサビに入る前の心の準備を整える合図になってくれる。

サビやクイズパートで流れる3音のアルペジオ(あってる?)はタイムリミットまでのカウントダウンのBGMのように感じられ「この曲だいたい三分間」という歌詞と連動して「今すぐ沸かないと曲が終わってしまう」という焦燥感を引き出す。

そうやって最速でライブ会場を暖めた後、命令形で「心を一つに盛り上がれ」といわれたら「そりゃ沸くしかないでしょ」となるのが必然だ。

秋本帆華の「これが沸き曲だァぁぁぁぁ↑↑!!」に煽られた最後のWAWAWAI WAWAWAI HA HA HAなんかはこの世で一番声出てるんじゃないかっていう空間がつくられる。(個人的には「手を上げろ」「声を上げろ」はライブ会場だと音程外してok、映像で見ると音程キープのままで煽ってほしいと感じる。難しい。)

このように大盛り上がりの「沸き曲」だけど、あと半年もすれば必然的に飽きがやってくる。TikTokのバズの勢いもあり、僕がシャチを見てきた2020年以降としては最も早いペースで浸透しているが「抱きしめてアンセム」はリリースから10年間近く走ってたわけで、まだまだひよっこの「沸き曲」がとって変われるかどうかは未知数だと思う。

クラシック曲が多くの人に演奏されているように「沸き曲」も「フロアを沸かせる曲というジャンル」のクラシックとして他のグループにたくさんカバーしてくれもらえると嬉しい。

余談:「破裂音は耳に残る」の歌詞でパシフィコ横浜公演の「HORIZON」曲終わりのどデカい音を思い出した人は僕だけではないはず。

M5. FANTASTIC MIRAI

作詞:永井葉子(SCRAMBLES)作曲:松隈ケンタ 編曲:SCRAMBLES

曲名や製作陣は明らかにされていたもののツアーで披露せず隠し球となっていたのが「FANTASTIC MIRAI」だ。全体としてはかっこよさと青臭さのバランスが絶妙なバトル系アニソンのOPに使われてそうな曲。

冒頭から重ためのベースで惹きつける。続いて耳馴染みがあるリフ。Creamの名曲「Sunshine of Your Love」のオマージュだろうか。ここのシンセ、カッコ良くしようと思えばできるところで、あえて避けてちょっとダサい雰囲気にしているところがTEAM SHACHIらしいと思う。

↓Cream「Sunshine of Your Love」の冒頭とめちゃ似てる

冒頭の坂本遥奈の歌唱が素晴らしい。「番狂わせてGODDESS」でも同様に感じるが、マイナー調の中音域を歌わせると右に出るものはいない。続く大黒柚姫の他曲でみせるハロプロ感のある歌唱を封印しストレートに歯切れ良く歌うのもまた良い。咲良菜緒の声質が「FANTASTIC MIRAI」にぴったりなのはいうでもないが、特にBメロの強さとハスキーさを強調した歌い方がたまらない。マイナー調ながらも疾走感のあるサビはSUM41(カナダのバンド)の3rdアルバム期を連想させる。秋本帆華の強いモードの声がバチバチにハマりシャウトまでキメる。

↓連想した曲。雰囲気は似てるかな!?

落サビの特徴は、まず半音下がり再び上がることだが、初めて聴いたときは2段階でなく3段階に転調したのではないかと錯覚させられた。理由は秋本帆華(半音下げ)→坂本遥奈(半音下げ)→咲良菜緒(原キー)と3人が順番に歌っているということだけなのだが、ボーカルの声質が異なるため展開がドラマティックに感じられる。(もっというと改名前→改名後→独立レーベルの三段階の表現だと感じた。)これはメインボーカルが4人いて全員が地声を活かした歌唱を志向しているからできることだと思う。

歌詞もまたTEAM SHACHIらしい強めの言葉が並んでいるが、内容よりもメロディにのったときのグルーヴ感に注目したい。

無問題「もうまんたい」、人生すべてをの「じ・ん・せい」、FANTASTIC「ふぁ・ん・た・すてぃっく」後悔「こうかい」などなど1つの音に複数の文字を詰め込むことで、独特のリズム感が生まれている。

また「な・・め・る・e・very・day」や「ま・・ず・っぎ・い・でー」や「あ・っ・て・く・・け・て」のように単語の2音目につくアクセントが気持ちいい。

最後の「創造なさい」が「想像」ではなく「創造」であることでファンを含めたTEAMに向けての煽り度合いが増しているところも好き。

「FANTASTIC MIRAI」はかっこいい曲ではあるが、良い意味でかっこよすぎない曲だと思う。かっこよさと青臭さ/ダサさを絶妙にバランスしているこの曲はシャチが歌うことに実に意味があるように感じる。まさに「きみにぴったりな歌」。

余談:上記で挙げたSUM41が3月に行う解散前最後の日本ツアーに参加予定で今から楽しみだ。推しは推せるときに推そう。

M.6 舞頂破

作詞作曲:永澤和真 編曲:永澤和真

プライベートレーベルになってからの最初のシングルであり最初のEP『舞頂破』の1曲目。初めて聴いたのは2022年8月のnobodyknows+との2マンライブ「ライブナタリー」だった。

独立後最初のシングルにしては癖強曲すぎて、好き嫌いが分かれるところだと思う。「沸き曲」が瞬時に頭のネジ外せるのに対して「舞頂破」はちょっとハードルが高いイメージ。アルバムでは浮いた曲になることを心配していたが、前曲「FANTASTIC MIRAI」からの流れが非常にスムーズに感じられた。

重ねられたボーカルのメインではない方に注目して聴くのも面白い。個人的に好きなのは坂本遥奈「置いてかれるぞ」と咲良菜緒の「皆騒ゲ 宴ノ始マリジャ」のところ。

サウンドは懐かしい雰囲気もあり、サビのギターが2000年前後のロックを感じさせる。個人的にはRIZE「WHY I'M ME」を思い出した。

↓ギターが似てる

余談:シングル版のジャケット(坂本遥奈の手)は米メタルバンドSystem Of A Downの1stアルバム「System of a Down」のオマージュになっている。

M.7 勲章

作詞:松隈ケンタ・永井葉子(SCRAMBLES)作曲:松隈ケンタ 編曲:SCRAMBLES

EP『AWAiTING BEAR』に収録され、シャチサマ2023で初披露された曲。

『AWAiTING BEAR』でタッグをくんだ松隈ケンタはBiSHのプロデューサー/ソングライターとして知られている。僕はBiSHに明るくなく「オーケストラ」「プロミスザスター」をそれぞれ数回ずつ聴いたことがある程度だ。特別琴線に触れることはなく、自分はいわゆる松隈サウンドには縁がないと思っていた。

それゆえ『AWAiTING BEAR』から「君にぴったりな歌」「アサガオ」が発表されたときもあまり印象に残らなかった。エモっぽい曲調だけど、そんなんでエモくなってたまるかよと思った。なんて面倒くさい聴き方だ。

だけれども「勲章」を初めて聴いたとき、あまりにもデカい感情が押し寄せてきて涙を流さずにはいられなかった。「勲章」のエモにはとても抗えなかったのだ。

全ては、まっすぐで熱く、憂いを帯びながらも前向きな秋本帆華の落ちサビの歌唱によるものだ。鼓動のようにドコドコと鳴るドラムが聴いている人の胸をも熱くする。

音源も良いけれどライブ映像も是非観てほしい。初披露時の大サビを歌う秋本帆華の緊張感たっぷりの表情がクライマックスを迎えて笑顔に変わる瞬間マジたまんねえなこれ。

ところで、松隈ケンタ提供の「FANTASTIC MIRAI」「勲章」にはこれまでTEAM SHACHIが積極的に使ってこなかった言葉が使われている。それは「後悔」の2文字だ。

NO MORE 後悔

「FANTASTIC MIRAI」より

たとえ何度何度 後悔を繰り返しても

「勲章」より

この箇所がどのような経緯で書かれたのか僕の知るところではないが、ポジティブグループを標榜するゆえに、それまで積極的に使ってこなかったであろう「後悔」が両曲の劇的さを演出していることは間違いない。

松隈ケンタのプロデュース・ソングライティング力、恐るべし。

余談:未聴の方はシャチサマ2015のDVD/Blu-rayに収録されている秋本帆華によるてんかすトリオ「永遠のトリニティ」カバーを聴いてみてほしい。秋本帆華の強い声の素晴らしさの片鱗を感じることができる。

M.8 NEO首都移転計画

作詞:Naoki Takada 作曲:Naoki Takada・Shintaro”Growth”Izutsu 編曲:Shintaro”Growth”Izutsu

2023年のエイプリルフールにリリースされたカウベル曲。TEAM SHACHIの中で音源映えする曲の一つだと思うが、長らくYou Tubeのリリックビデオでしか聴けなかったのがサブスクで聴けるようになったのが嬉しい。

ライブでは安定して楽しい曲だ。「Woh Oh Woh Oh Oh」とか「挙手」とか曲に合わせてノレるところ、くねくねと縦ノリできるところが良い。サビのメロディーは最初はあまり好きではなかったが、だんだん気持ちよく感じるようになった。

それにしても「もう誰もこの街をバカにしねぇ」という歌詞は名古屋人には共感できるものなのだろうか?僕の出身地(福岡)では福岡最高と思っている人が大半(エビデンス無)なので、そういう発想がなかった。

ひょっとしたら「この街」というのはTEAM SHACHIの隠喩なのかもしれない。事実として動員が下がったことに対する反抗の言葉。首都を移転するというのは、武道館が最終目標でなく名古屋ドーム(現:バンテリンドーム)をその先に見ているということかと思った。

余談:以前にも同じことを書いたのだが、リリースからずっと「文化、大使」の「文化」が「文官」に聞こえるせいで、毎回キングダムの昌文君を脳裏に浮かべている。

M.9 江戸女

作詞作曲:川谷絵音 編曲:川谷絵音

プログレ歌謡ロック。初めて聴いたのは2022年のシャチサマ@大阪野音。艶のある曲調、クセのあるセリフ、複雑なリズムとメロディに面くらい、間奏で急にショパンが流れてめちゃくちゃ興奮したことを覚えている。

たくさんの要素が詰め込まれているが尺は2:59。ダイジェストのように目まぐるしい場面が移り変わり、たった3分間の中で一つの短編映画を見たような気分にさせられる。

「江戸女」はブラスが実に効果的に使われている。冒頭の妖艶なメロディで曲の世界観にグッと惹きつける。「ちょっと セクシー」後の連続音は刺激的だ。

極め付けは「恋に 落ちた」から始まる間奏。ショパン「エチュード第4番 嬰ハ短調 作品10-4」(『のだめカンタービレ』『四月は君の嘘』の作中にも登場する曲だ)の引用の合間にブラスの小刻みで不規則な音が加わることで時空が歪んでタイムスリップしているような感覚に襲われる。

アウトロではギターのメロディが曲の世界を走馬灯のように駆け巡るような想像を掻き立てる。最後はピアノを中心に各楽器の音を段階的に重ねることで、時が加速して現世に戻ってくるように感じられる。

「舞頂破」と同様に好き嫌いが別れそうだが僕にとってはTEAM SHACHIの中で上位10曲に入るくらい大好きな曲だ。

余談:「渋谷と銀座の間」が何か気になりヒントになればと思って『都市のドラマトゥルギー』という本を買ったが、1年以上経ったけどまだ読み終わっていない…。今年中には読み終えたい。

M.10 縁爛

作詞:MIMiNARI 作曲:本間昭光 編曲:本間昭光

お祭りソング。これもまた初めてライブで聴いたときはあまりしっくりこなかった。お祭りソングではあるが馬鹿騒ぎするような曲調ではなく、気持ち良いノリ方がわからなかったからだ。連想したのはYOSAKOI(よさこい)で、TEAM SHACHIはどまつり(8月末に名古屋市を中心に行われる踊りのイベント。にっぽんど真ん中祭り。)にエントリーしようとしているのか!?と思った。

↓どまつりの様子

しかし、リリース後に歌詞を読んで大きく印象が変わった。「縁爛」の歌詞はいわば祝詞、祭りの儀式的な面が強調された曲だったのだ。

歌詞は古文調で「可惜夜(あたらよ:明けてしまうのが惜しい夜)」といった難解な語彙も使われている。一方でメッセージは非常にシンプルで「コロナ禍が終わり人が集まって声を出すことができる世界を願い祝福する」という内容で「縁爛」とは要するにライブのことだ。メンバーが観客に「ソイヤ!」と声を出して欲しいといっていたのは、皆で祈り/祝福の声をあげようという意味だったのだ。

夜を迎えど 憚る祭り

聲を願った朝

漸う 刻は満ち

さぁいざ開宴
ソイヤ!

穢れも憂いも どうぞどうぞ通りゃんせ

満身創痍 祓う世の祭典

祈りと誓いを どうかどうか幸あられ

「縁爛」より

「縁爛」歌詞全文

歌詞を読みながら曲を聴くと、まるで現実と幻想世界の間にいるような光景が浮かんでくる。teamLab「花と屍」のような、自然と神々と人間が共生する世界のイメージだ。

また、どことなくコロナ禍の不安を歌ったばってん少女隊「OiSa」との繋がりも感じられる。

サウンド面ではとにかくベースが格好良い。ブラスは主メロと重ねる音が多めで特に「咲かせてみようか この縁爛」のパートが印象的だ。このパート、観客も一緒に歌ったら気持ちよさそうだと思うがどうだろうか。

余談:teamLabには「秩序がなくともピースは成り立つ」という作品もある。この作品のテキストは、個人的にライブのノリ方の理想だと思っている。興味がある人はぜひ読んでみてほしい。

M.11 だれかのために生きる今日を

作詞作曲:浦小雪 編曲:浦小雪・清水哲平

TEAM SHACHIには珍しい音数少めのミディアムギターロックナンバー。作詞作曲の浦小雪はSundae May Clubのギターボーカル。

初めて聴いたのはツアー横浜公演。暖かい雰囲気で、日常生活のBGMとして聞きたい曲だと感じた一方で、振り付けをうるさく感じてしまい、歌だけの方がいいなという印象だった。

振り付けは言葉と比べて具体的な表現になることがある。例えば、「ハート」の振り付けと「愛」という言葉が表象するものを比べると、前者の方が狭く、後者の方が広く感じられる。このギャップがうるさく感じられた理由だと思う。

アイドルにとって振り付けはアイデンティティで、歌と振り付けがセットで初めて完成するというのが正しい認識だと思う。でもときどき、TEAM SHACHIくらい歌えるグループであれば、振り付けの有無は単なるバージョン違いくらいの扱いで構わないのではないかと思うことがある。(「かなた」の振り付けとか大好きですが。)

みなさんの感想でもよく目にしたが、アルバムの最後に「だれかのために生きる今日を」を置いたのが実に素晴らしい。振り幅の大きい曲たちをここまで聴き終えたあとだけに耳心地が最高だ。

ドラムだけで始まるイントロはほっとして、メロディは暖かみがあり、ギターは寄り添うように鳴る。どこかで聞いたことがあるような懐かしさも感じられ、僕は以下の曲を連想した。(「だれかのために生きる今日を」のBメロ→「はじめてのチュウ」のサビは違和感なさすぎるので誰かマッシュアップしてほしい。)

歌詞はタフ民へ向けられたものだと聞いているが、より多くの人に共感される普遍的な内容だと思う。

だれかのために生きる今日は
わたしのための今日だったの

「だれかのために生きる今日を」より

この「情けは人の為ならず」的な詩がとても好きだ。「わたしのための今日だった」と過去形になっていることから、振り返ってはじめて「わたしのため」だと気づいたのだと理解できる。過去の認識を訂正する可能性を示すことで、忙しない日々を必死に生きている人々に今日を乗り越える勇気を与える。(ファンとしては咲良菜緒の「青春かけてるんで」発言を思い出して泣かざるを得ない。)

聞き終わったあとの静かな余韻も素晴らしく、まわりの空気が少し澄んだような晴れやかな気持ちになった。

余談:「安い自転車」というフレーズはどうしてもモンスターエンジン西森の「鉄工所ラップ」を思い出してしまう。この曲を聴いているときは忘れたい。

終わりに

今のところ、このアルバムには僕にとって好きな曲とそうではない曲が混在している。しかしそれこそがTEAM SHACHIが『笑う門には服着る』で狙った「だれでも好きになれる曲がある」ことが達成された証拠だと思う。

これほどの多様な曲が詰まったアルバムがあれば、TEAM SHACHIのことを気になっている人に「これを聴いて好きな曲が一曲でもあればライブに行ってみない?」と声をかけることができる。それでいてアルバムとしてのまとまりをもった素晴らしい作品になっている。

優れたデザイナーと素敵なモデル達によって作られた歌のファッションショーをぜひ一度ご覧あれ。あなたの好きな曲もきっと見つかるはずだ。

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