坂元裕二脚本『モザイクジャパン』

「『ゼロ・グラビティ』知ってるか。見たか。見たかどうかは訊いてない。アルフォンソ・キュアロンっていうメキシコ人の監督が撮ったんだ。メキシコはどうでもいい。この監督は『ハリー・ポッター』の3作目も撮ってるんだよ。『ゼロ・グラビティ』はどうでもいいわ。その撮影のときにな、『ハリー・ポッター』のハリー・ポッター君がほうきに乗って城の上を飛んでる場面があって、それ……それを撮影するのに、ヘリで、飛んで、城の上を飛んだわけだよ。そのときアルフォンス・キュアロンは見たんだよ。城にヘリコプターの影が映ってるのを。『あれを撮ろう』って、『あれを撮ろう』ってキュアロンが言った。大反対された。『そんなことをしたら台無しです』。キュアロンは言った。『だったら誰がほうきに乗ったハリー・ポッター君たちを映してるんだ。ヘリが飛んでるんだから影も映るだろ』」

「刑法第175条で性行為を撮影したものは販売することは禁止されている。ところがレンタル屋に行けばアダルトビデオはある。なぜか、わかるか。モザイクがあるからだ。『えっ、モザイクしたからって本番してることに変わりはないじゃないか』『モザイクかけたからって売っていいなんて法律ないじゃないか』。(中略)何でだ、どうしてだっ!? そういう体(てい)でやっておりますよってことなんだよ。ルールじゃない。大事なのは体だ」

「この国は、棒も穴もモザイクの向こうに隠す体がある。わかるか。おれたちはヘリコプターの影だ。棒と穴が交わった場所から生まれたヘリコプターの影なんだよー……的な、な」

 高橋一生の演技が光る第一話のシーンが本作の挑戦的姿勢を物語る。モデルとなったアダルトビデオメーカーはおそらくSODだろう(なにせこの作品を私に勧めた方が元SODだった)。

「眠くなって、読んでた本、枕がわりにしたことないか。子供のころに紙コップで糸電話を作ったことは? 使い方は自分で自由に決めるんだ。食べ物は、食べるためだけにあるとしか考えられない人間は、うちの会社には必要ありません」

 否定をしたい。でも、言い切れない。リーガルハイの古美門に似た感覚を感じた。詭弁……といえばいいのか。それにしては理屈が妙に心に届く。これが自分の頭が悪いからなのか、それとも。ただ一つ言えることは、「このキャラクターが魅力的である」ということだ。

「頭のいいひとが、頭の悪いひと見て、こいつバカだなあって思ってるとき、頭の悪いひとも、頭のいいひとを見て、こいつバカだなあって思ってるんですよ」

 相変わらず、坂元裕二さんの脚本は小気味のいい文句が並ぶ。名言、というとチープに聞こえるが、今の社会に対して漠然と思っていることを「言語化」してくれたもの。それが刺さる言葉になるんだと思う。ある意味、新しい視点を提供しているのではなく、普遍的に思っていることの再確認なのかもしれない。そういった意味で、文筆を生業にする上で、観察と言語化を自分の中で反芻することが求められているのだろう。

「下着泥棒っていうのは、日本にしかいないんだ。外国にはいない。外国に下着泥棒がいるとしたら、それは女なんだ。ネットの検索ワードあるだろ。あれな、もう何年も日本じゃ、検索 第1位は 『巨乳』 なんだよ。(中略) 面白いなあ、オレたちの国は。女教師としたい。ナースとしたい。女子高生としたい。酔いつぶれたOLとしたい。したい、したい、したい・・・。変態的なことがしたくて、したくて、しょうがない。外国の(ポルノ)なんて、ただやってるだけだ。オレたちの国は違う。超変態先進国だ」

 良質な脚本(作品)に必要な視点はリサーチであるということもまた、自明ながらも再確認した。私の好きな古沢良太さんの作品もそうだが、社会への問題や不満を考える上で、しっかりとした土台が必要なのだ。その上で、ある種「視点をあえて落とす」行為はアリだ。ターゲットに対してわかりやすく噛み砕くためのスキルの一つといえる。

「だいたいの子は芸能事務所にスカウトされたら、スターになれると思ってますけど、たいていの子はアシスタントとか、 『いらっしゃいませ』 で台詞を終わる役しかなくて、気がついたら毎晩、お笑い芸人の飲み会に呼ばれてる、みたいな・・・。そういう子 狙って、ぼく、2年育てます。AVの話はしません。とにかく ほめて、自己評価 高めて、 『もったいないよ。きみなら大丈夫だよ』 つって、言い続けて。でも、売れるわけないから、ギャップ大きくなって、そのギャップが大きければ大きいほど、AVに落ちやすいんですよ」

 いいドラマを見るといつも思う。「こんなにおもしろい作品の中で、自分の叫びをキャラクターに代弁させることができる」こんな素晴らしいスキルを、力を、僕は手に入れられるんだろうか、と。

「利用されたことを知りながら利用されたやつは、あとになって、いつも利用されたって言って怒り出すんだよ。でもさ、利用されたやつは、利用してるんだよ。この町の連中もみんなそうだ。わたしは被害者ですって言いながら、悪人を利用して、自分たちの目的を果たしてきたんだ。曖昧で、平凡な悪人たちだよ」


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