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サックスおじさん【忘れられないひと、忘れられないもの#5】

英国 宮下佳英(会社員)

あの時はロンドンのピカデリーサーカスにいました。

約4年前、ロンドンを一人旅していた僕はピカデリーサーカスを目指して夜のロンドンを歩いていました。19世紀の面影が残る荘厳なリージェントストリートを抜けると、カラフルなLEDのネオンサインが見えて来ました。NYに例えるならタイムズスクエア、東京に例えるなら渋谷スクランブル交差点。朝から街を歩き回った後ですが、これは観光としてマスト!と意気揚々と突入。すると予想外の出来事が・・

これは僕が実際に撮った動画です。(落ち着きの無いカメラワークですね)雑踏の中に響き渡る、美しいサックスの音・・最初はスピーカーのようなもので音楽を流しているのかと思いましたが、サックスの音はストリートミュージシャンの生演奏だったのです。

憧れていたランドマークを突き抜ける鋭く優しいサックスの音色・・・まるで映画の中の世界に入り込んだ気分にトリップしました。いよいよ現実感が消え失せ、何分その場に立ち尽くしていたのでしょうか・・・。

やがて演奏が止まり、現世に引き戻されました。

音の聞こえた方向へ行くと、ラフな格好をしたおじさんがサックスを吹いていた事がわかりました。こんな一等地で演奏しているのだから、さぞ高名なストリートミュージシャンなんだろう・・・と思ったのですが、実際は普通のおじさん。僕はその姿を確認するやいなや、その場を離れました。急に現実に引き戻されるのが嫌だったのでしょう。まだこのポヤポヤした気持ちのままでいたい。僕の中でサックスおじさんは、ストリートミュージシャンというよりは音楽の妖精として認識していたのですから。

しかし帰国後も、あの音色は脳内でヘビーローテーションでした。名前を聞いておけば良かったという悔恨の念が押し寄せる・・・。

まず、何の曲を演奏していたのか調べることにしました。Naughty Boy とSam Smithの「La La La」という2013年の曲でした。当時は知らなかったのですが、普通に有名な曲でした。僕は特定するために動画をPCに移して大音量で流し、その音をスマホの音声検索アプリに聞かせました。洋楽に詳しい人に聞けば一発だったでしょうね。

そして、サックスおじさんの正体。YouTubeで「Sax London」と適当に検索していたらそれっぽいのが見つかりました。インターネット万歳。

どうでしょう?

ロンドンで活動してるし、遠めに見たサックスおじさんとフォルムも一致します。僕は音感ゼロですし、サックスの知識もないので同じ音色かは判断出来ませんが・・・。

Laurentiu Lascaracheという方で、ご自身でチャンネルも持たれています。有名な洋楽を、鋭く優しい音色で奏でていますので是非聞いてみてください。

4年程経った今でも、サックスおじさんの音色とピカデリーの雰囲気は脳の中に鮮明に蘇ります。当時は名前も知らなかったし、向こうも僕のことなんて知らない。でも僕にとっては、忘れられない人となりました。

こんな出会いも旅にはあります。

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