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サマースクールのあの娘【忘れられないひと、忘れられないもの#6】

渡辺亜衣(会社員)
アメリカ合衆国(コロラド州デンバー)

それははるか昔の小学1年生の夏休み。
その時に出会った名前も知らない彼女のことは今でも忘れない。

デンバーに住む父親の友人を訪ねて、
中学生の姉とランドセルを背負いはじめて間もない私とで、
海外ふたり旅をすることになった。

姉とふたり、
しかもサンフランシスコで乗り継ぐというミッションもあり、
まだまだ幼い私にとってはドキドキが止まらない旅のはじまりとなった。

乗り継ぎの際、予め両親が手配してくれていた現地の地上係員と合流し、
拙すぎる英語で会話にならない会話をしながら搭乗口へと向かった。
乗り継ぎフライトを経て、ようやくデンバーに到着した。

到着後、父親の友人であるおじさんとおばさん、
そして私と同い年のお姉ちゃんとまだ幼い弟くんと無事に合流。
3週間程、彼らの家で過ごすことになった。

到着から数日して、
私はお姉ちゃんが日中に通っているサマースクールに一緒に通うことになった。
サマースクールとは学校の夏休みの間に開催される課外活動で、
私が通ったスクールは日本の学童のような雰囲気で、
特定のカリキュラムはほとんどなく、割と自由に好きなことをして遊べる場所だった。

自由に遊べるとはいったものの、
そこにいるのはみな現地に住む子どもたち。
最初は日本から来た私に興味を持って話しかけてくれたものの、
自己紹介以上の英語が出てこない私。
当たり前だけど、会話の通じないちょっと面倒な私を後にして
彼らは彼らで遊び始めていた。
コミュニケーションが取れず、ひとり退屈に過ごすこととなった。

唯一の楽しみでもあった毎日のお昼ご飯も、
人工的な香りのする豆の煮込みばかりで、
とてもじゃないけど美味しいとはいえなかった。
この旅で知ったインスタントのマカロニ&チーズの方がよっぽど美味しかった。

「あぁほんとに退屈だ、はやくおばさん迎えにきてくれないかな。」

そんなことを毎日思いながら過ごしていた。

そうして静かにひとり遊んで過ごす私を
男の子たちがちょっかいを出してくるようになった。
髪をひっぱったり、つついたり。
もちろんちょっとしたいたずら程度のものであったが、
ただでさえ孤独だった私は、泣きたい気持ちでいっぱいだった。
何も言い返せないし、泣くのも悔しいし、
無理やり笑って平気なフリをした。

そんなこともあり、
しゅんとなりながらひとり外庭の遊具で遊んでいた私に、
同い年くらいの女の子が近づいてきて、目を合わせてニコりと笑ってくれた。
「一緒に遊ぼう」
アイコンタクトでそう話しかけてくれたように見えた。

そのあとは彼女とふたり、遊具を登ったり下りたりして遊んだ。
その間も、彼女は私の顔を見て笑ってくれたり身ぶり手ぶりで楽しさを表現してくれた。
それに答えるように私も笑顔で返した。

なんてことない時間だったが、
このサマースクールで過ごした時間で一番楽しい時間だった。
何よりも嬉しかったのは、
私が英語を話せないということを理解し、
アイコンタクトやジェスチャーを使って、配慮をしてくれたことだ。
スクールには普通におしゃべりして楽しく遊ぶ友達もいただろうに、
わざわざ英語を話せない私と一緒に時間を過ごしてくれたその優しさがめちゃくちゃ嬉しかった。

そんなこんなでサマースクールに通う期間は終了して、
彼女ともお別れとなった。
名前も連絡先も交換していなかったが、
サマースクールでの楽しい思い出を作ってくれた彼女の姿が
私の記憶の中で今でも残り続けている。

今、彼女がどこで何をしているのかはわからないが、
あのとき伝えられなかった感謝の気持ちをここに残しておきたい。


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