NHKひろしまタイムラインの差別煽動事件は、6月7日の黒人差別事件と同じ、差別禁止ルール不在の問題だ。

多忙ですが、これだけは書かねばならないようだ。NHK広島による「ひろしまタイムライン」が差別煽動をしている事件だ。

実在した市民の日記を基に、本人になりきって75年前の日々をツイッター投稿するNHK広島放送局(広島市中区)の企画「1945ひろしまタイムライン」で、朝鮮半島出身者への差別をあおる記述があったとして批判が広がっている。
 企画では、市民3人をモデルにしたアカウントを運用。参加者11人が日記などを基に、原爆投下に至る日常や被爆後の混乱を連日投稿している。
 問題となったのはこのうち、男子中学生との設定のアカウントによる20日の投稿。列車内で「戦勝国となった朝鮮人の群衆」が暴力的に振る舞ったとの内容だった。ツイッターには「当時の差別感情を再生産する」との批判や、日本の植民地支配など背景の「注釈が必要」との指摘がある。
 広島市立大の金栄鎬(キム・ヨンホ)教授(政治学・国際関係)は「実際の経験だとしても、そこだけ抜き出すのでなく報道機関として歴史認識を併せて示すべきだ」とする。

NHK広島はしかし差別だと認めていない。

 同局広報事業部は「若い世代に当時の混乱ぶりを含めて実感してもらう趣旨で、差別を助長する意図はない」としている。(明知隼二、新山京子)

この事件の問題は多岐にわたる。しかしこの記事では最も重要な問題に絞る。つまり、
①客観的に差別煽動をしていること、それは意図ではなく効果から判断されること、
②NHKは差別煽動防止する義務があること、もし差別が発生した場合最大限その撲滅に努める義務があること、
だ。

つい2か月前、6月7日にNHKはBLM(ブラック・ライブズ・マター)を紹介する番組で黒人差別を引き起した。

この事件で「アメリカ研究者有志」などが要請書を提出したが、NHKは肝心の差別禁止ルールをつくらずに終わった。だから2か月後に同じ差別煽動事件を繰り返したと言う意味で、極めて深刻な事件だといえる。

1.「ひろしまタイムライン」が差別を煽動している(今も現在進行形で)ということ

NHKは差別を煽動している。問題のツイートはたとえば次の通り。問題点はその下のツイートで指摘した。

問題点は上に書いた通りだ。次のようなツイートもある。

これらのツイートは差別煽動にあたる。

それは差別禁止ルールに照らせば簡単にわかる。

最もスタンダードな反差別ルール(反レイシズム)である人種差別撤廃条約を使おう。その定義(第1条)の核心は3要素だ。

①(人種/民族などの)グループに対する、
②不平等な、
③効果

重要なことは意図があるかどうかはどうでもよい、ということだ。グループへの不平等な効果があれば差別だ。念のため条文も一応引用する。

「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先〔①〕であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する〔②〕目的又は効果〔③〕を有するものをいう。(第1条)

上のルールを今回のツイートに適用する。

①人種的グループに対する(「朝鮮人」と明記しているから)

②不平等な(朝鮮人を「日本人の敵」として描いているから。6月16日のツイートだと朝鮮人が敗戦を願う「非国民」として、8月20日のツイートは朝鮮人が敗戦後に日本人を裏切って暴力と犯罪を犯したという「三国人」として)

③効果がある(意図がなくとも①と②は差別の効果がある。しかもNHKが公認しているので、それだけ差別のメッセージが正当性を持つ。しかもツイッターで直接煽動されているので、第二第三…次的に差別ツイートが誘発されている。しかもツイッターはリツイート機能を備え瞬時に数千数万数百万人にも情報を拡散しうるSNSによって差別が煽動されたので、その効果は極めて甚大である。しかもNHKが未だに撤回もせず差別にも反対しないため、その効果は放置されるばかりか、メディアでとりあげられるたび、差別を煽動するコンテンツと化している。これらのツイートは今後もっとひどい極右の差別煽動やヘイトクライム煽動に利用される可能性さえ十分にある…)

つまり、上の人種差別撤廃条約という日本政府も批准する差別禁止ルールに照らせば、ひろしまタイムラインのツイートは、効果からいって、完全に差別煽動なのである

たとえ歴史をよく知らなくとも、①グループに対する②不平等な③効果があるとダメだというルールをモノサシにすれば、今回の差別に関しては極めて簡単に、差別だと判断を下せる。

このことが極めて重要だ。歴史を知りませんでした、という言い訳を許さないと言う意味で重要なのだ。歴史のことを知ろうと知るまいと、上のルールから差別だと判断でき、それで防止ができる、という次元の問題が重要なのである。

問題はなぜNHKがこれほど簡単な判断を下さなかったのか?ということだ。

結論を先に書いてしまえば、NHKはあるべき差別禁止ルールをつくっていない、からである。ルールがあれば、上のツイートはルール違反か否かを判断できただろう。

いますぐにでもNHKは、上の人種差別撤廃条約を使った①グループへの②不平等な③効果をもつ言動を禁止するというNHK独自の差別禁止ルールをつくり、徹底すべきである。

記事の最後にも書くが、6月7日の黒人差別事件で、NHKは何も学んでいない。差別禁止ルールを作らなければ、差別の再発防止は絶対に出来ない。今回の事件はその事を証明したのである。

そのためSNSやメールでNHKに抗議する方々は、ぜひ差別禁止ルールをつくれ、というメッセージを発信してほしい。それ以外に、改善の道はおそらくない。

2.NHKは差別の「意図」がないと言っているが言い訳だ。差別の効果があることを認めるべきだ。マスコミも差別の効果があると思うかと質問してほしい。

NHKはしかし差別だとは全く認めず次のように説明している。


8月20日のシュンが発信した、「大阪駅で戦勝国となった朝鮮人の群衆が、列車に乗り込んでくる」と関連のツイートは、シュンのモデルとなった男性が、広島の自宅から両親の故郷である埼玉県に移動する途中に体験したことを伝えています。
当時中学1年生だった男性にとって、道中の壮絶な経験が敗戦を実感する大きな契機になったことに加えて、若い世代の方々にも当時の混乱した状況を実感をもって受け止めてもらいたいと、手記とご本人がインタビューで使用していた実際の表現にならって掲載しました。
また、6月16日に発信した「既に大人たちが大きな穴を掘り進めている。 話す言葉によるとどうやら朝鮮人のようだ」と関連のツイートも、男性が学徒動員でトンネル掘りに従事したときの経験を紹介しました。こちらも手記とご本人がインタビューで使用していた実際の表現にならって掲載しました。

100%開き直っている。

NHKも酷すぎる。

しかし他方で、私はNHKを取材するジャーナリストが、差別についてよくわかっていないのではないか、と疑っている。

NHKに対して、次のように質問してもらえないだろうか?

人種差別撤廃条約に照らして当該ツイートは差別の効果があると思うがどうか?とか、なぜ人種差別撤廃条約というルールに違反するツイートを削除しないのか?とか、ブラック・ライブズ・マター運動に関連して黒人差別事件を引き起したのになぜ差別禁止ルールをつくらなかったのか?ルールを作らなかったから再発防止ができなかったのではないか?などと質問するジャーナリストはいないのだろうか?

いまからでも遅くないので、うえの質問をぜひNHKにぶつけてほしい。

3.NHKは差別に反対する義務がある。自分の差別を認めないにせよ、自分のツイートを使って差別する行為に反対しないなら、差別しているのと同じだ。

NHKの上記の言い訳は酷いのだが、もしその言い訳に立ったとしても、NHKの行動は全く差別的である。

というのは、NHKが自分たちがまいた差別のタネによって、二次的三次的四次的差別がどんどん増殖しているのだが、それに対してNHKは一切何もしていないからである。たとえば次のようなデマを含んだ差別ツイートが、NHKひろしまタイムラインの公式ツイートにメンションする形で増殖している。

NHKはたとえ自分が差別したことを認めなかったにせよ、自分のアカウントをつかって差別する行為に対しては断固として反対する義務はあるはずだ。それもしないということは、どういうことなのか?

あるいは在日朝鮮人のジャーナリスト徐台教氏のコメントに対しても酷い差別が多数寄せられている。

NHKはこれら差別に、早急に反対し、絶対に許さない旨公言すべきである。

それさえしないのなら、確信犯的な差別主義者がNHKのアカウントを運営しているとみなされても仕方ないであろう。

4.今回のNHK朝鮮人差別事件は、差別禁止ルールをNHKがつくらなかったから起きた人災である。

NHKは6月7日にBLMに関連して黒人差別事件を引き起した。この時、差別禁止ルールを作っていたら、今回の事件は防げていたのではなかっただろうか?

この件については当時書いた記事があるので、そちらを参照してほしい。

2か月前の記事から結論を再論すると、NHKはこちらの立派な放送ガイドラインを、以下のように改訂し、実質的に差別と区別をスタッフが簡単に判別しうる実用的なモノサシとして作り直すべきである。というのも現行のNHKの放送ガイドラインには「差別」という語が16か所も出てくるのに、どこにも差別の定義が存在せず、スタッフが差別とそうでないものを区別しようにも全く使い物にならない役立たずだからだ。

上に述べた人種差別撤廃条約を引用し、第一条の人種差別の定義をつかって①グループへの②不平等な③効果のある差別を禁止する、という条項を加えて、実際にスタッフが何が差別で何がそうでないのかを判別できるモノサシとして、マニュアルとして使えるようにすればいいでしょう(もちろん世界人権宣言や女性差別撤廃条約など他の国際人権法もですが)。

5.差別と闘う知識人としての責任。「アメリカ研究者有志」や藤代裕之氏に関して。

時間がなくなったので、この項については最低限言っておくべきことを書いておく。

「アメリカ研究者有志」の方々が6月にNHKにアクションを起こされたことに、私も心から賛同し、署名した。

しかしその要求項目に、差別禁止ルールの制定はなかった。これは入れておいてほしかった。

米国の公民権法のような差別禁止法が、日本にはない。だからこそ日本で差別と闘うには独特の困難があるのであって、だからこそ日本では市民社会内での自主的な差別禁止ルール制定が先行し、その徹底によって社会規範をつくるべきなのだ。

それはおなじ日本の市民(シティズン)としての義務ではなかろうか?

「アメリカ研究者有志」がアクションを起こされたとき、賛意を示しつつ、僭越ながらルール制定の重要性を訴えたのは、そのためである。だから上記記事で書いた通り、「残念ながら、既に述べた通り、日本社会にも差別禁止ルールがなく、NHKにも差別禁止ルールがないため、NHKはこの要請を実行しようにも、差別の判別基準さえもたない」という日本独自の問題を考慮しないと、たとえ良心から行動しても実効的な反差別アクションにはつながらないのである。

差別禁止ルールがないまま、教育や啓蒙に過度に期待すること自体ワナだと考えている。それは一橋大学の百田尚樹事件やマンキューソ准教授の差別事件で私は散々な目に遭って思い知った(し、一橋の教員はこれを痛みとともに知っていなければならないはずではなかろうか)。

本事件がけっして単発で起きた差別事件ではなく、たった2か月前の6月7日のNHK黒人差別から何の反省も得なかったために起きた人災であるということは強調しておきたい。6月の黒人差別事件もそうだが、8月の朝鮮人差別事件も、NHKが防ごうとすれば防げた差別煽動事件なのである。

それができなかったのは差別禁止ルールがないためである。

さいごに、法政大教員の藤代裕之氏の、非常に問題のある下記の記事について書こうと思ったが、もうだいぶ長くなってしまった。

この記事は、「朝鮮人」が「差別的な言葉」だとする驚愕の主張を行うなど、極めて深刻な問題が多い(だとするなら在日朝鮮人を名乗る私は差別主義者だということになろう)のだが、問題はそこではない。

藤代氏の記事は、日本型リベラルの悪いところを典型的に代表しているので、ある意味重要なのである。つまり差別を決して差別としては扱わず、フェイクやコミュニケーションや言論の自由の問題として理解しようとする傾向を、彼は代表しているからだ。

藤代氏は次のようにいう。

この批判を取り上げているメディアにも問題があります。ソーシャルメディアで盛り上がっているときは持ち上げ、炎上すれば批判されていると叩くだけでは、戦争や原爆の伝え方がより良くなることはありません。新しい挑戦には批判や失敗はつきもので、その要因にも目を向けてもらいたいです。そして、反射的な批判をした人は、「朝鮮人」という言葉を広島の10代が使った理由を考え、思いを馳せても良かったのではないでしょうか

藤代氏に言わせれば私などは「反射的な批判をした人」で、せっかく新しい試みをはじめた「広島の10代」の言論を圧殺する「シュタージ」(百田尚樹)なのかもしれない。

しかし藤代氏には失礼ながら、差別と区別に区別をつけられるようになってから、モノを言うべきだと言っておきたい。問題は上記のように半世紀以上前に欧米がつくった差別禁止法でさえ存在しない日本で、誰も差別と区別に区別をつける社会的基準を作らないまま、それに言論の自由やコミュニケーションを語っていると言う滑稽極まりない状況なのである。

実際NHKにもし差別禁止ルールがあれば、「広島の10代」に対して、何が差別で何がそうでないのかを判断する基準を人種差別撤廃条約を使って提示したうえで、安心して自由に創意工夫をすることができたであろう(そのうえで歴史的事実をどう扱うかという問題は残るが)。

藤代氏は差別禁止こそが言論の自由を生むのだという欧米型の言論の自由を学び直した方がよい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?