私を異次元に連れて行って ナンバー1

飯島龍太郎29歳。荻野真子20歳。精神科外来診察室でバッタリ。真子はLINEの既読スルーから一切音信不通。11月。ふたりは一年ぶりに再会した。作業所に通う真子。思うように一般就労の壁が立ちはだかる。龍太郎。思わぬ再会。勢いに乗る龍太郎は真子を富士山に連れ出す。次第に息が上がり。持病の躁病が顔を出し始める。真子と侵入した東京の街で!

再会

2020年11月11日。真子が診察にやって来ると。偶然にもかちあいそうになるが、龍太郎は身体が拒否を続けていた。それが。吹っ切れた。彼女に惹かれはするが、魅力は感じない。今ひとつ推さない原因だ。火曜日は真子が診察だと言うのを今日に限って忘れていた。偶然にも、外来へ行った。受付に真子がいた。こちらを振り返る。モカ色のオーバーコートを着ている。今日はいつもより肌寒い。メガネは太めのフレームの黒縁。コーヒー色のキャススケットが似合っている。さっきまで抱いていた、真子の魅力の無さが一掃された。この一年間顔を見なかった間に、だいぶ大人になっていた。
龍太郎は、ジャケットの内ポケットから、小さな小箱を出して真子に渡した。この小箱の中身は、一ヶ月前から。真子と再会した時の為にと、持ち歩いていた。箱の中身は宝石ではない。映画のチケットだ。ハニーレモンソーダ。選んだ理由は秘密と言うキーワード。
真子「いいです。こんな高いもの」
龍太郎「千円の映画チケットだよ」
真子は、てっきり、一年前に、龍太郎がプレゼントしようとした。中身はティファニーかと思いきや、感が、外れた。
真子「一緒にですか」
龍太郎「友達同伴はなし。一日限りのデートだ」
真子は、先を読まれていた。しかし、龍太郎のキャラは心得ている。出逢ってから、真子に、何もかも、度が過ぎるぐらいに、自分の事を語った。龍太郎。心配はしなくて良さそうだ。
龍太郎はここまでは。昨晩、会話をシュミレーションしていたが。この先は台本がない。モジモジしてると。
真子「車ですか」
この質問は困った。愛車は。愛犬の小屋と共有している。女性は鼻が鋭い。
龍太郎「真子ちゃんの車で、ガソリン代は持ちます」
真子はうなづいた。
龍太郎「真子ちゃんお会計」
真子は我に返った。いきなり声をかけられたので、夢中になっていた。
外来で真子とすれ違ったのは、もう五度目の正直だ。
ここまで。龍太郎の思惑通りか。それとも、真子の思惑通りか。
この会話を看護師の鶴田が聞いていた。その奥にいる高本看護師はあっけにとられている。出逢いから、2年半目にやっと、デートの約束にこぎつけた。真子は狙っていた。龍太郎も狙っていた。初めにちょっかいを出したのは真子だった。事あるごとに、誘いに応じぬ。龍太郎に対して、とにかく、アプローチとLINE交換に迫る。成功するが、一向にメッセージが送られてこない。龍太郎の眼中に真子は存在しない。次第にふたりは運命の法則のレールに乗っかった。
ふたりは待合室の椅子に腰掛けた。龍太郎の脳裏に真子は宇宙からやって来たのは本当かもしれない。
真子「どうかしました」
龍太郎「ピポパ」
真子は。首を傾げた。
真子「私、指原莉乃に似てません」
龍太郎は心を読まれた感覚に陥る。すかさず言葉を発しようとすると。
真子「萩田帆風にも似てません」
あんまり、LINEでしつこくふたりの画像を送ったのがいけなかった。しかし、空白の一年間は彼女のお陰で、寂しさから逃れていた。
真子「鈴木ひかるには、似てるとこあります。知的だし」
龍太郎は思わず吹き出した。真子を頭から足の裏まで見渡しても、知的路線からは外れているが、それ以上は沈黙する。
真子の思考に、龍太郎君のペースにはまってはいけない。私から話を切り出さなければならない。
真子「もっと早く、誘えなかったのですか、いつも、私が近寄ると。わけのわからないことになるのですか」
真子とは初めて会った時から、龍太郎の身体にビビッと電流が流れてくる。真子が声を発すると、その顔が、ドアップで迫ってくる。頭の思考が、目から入ってくる。光の媒体をまるで。カメラワークの様な感覚で画面を切り替える。そんな感覚に陥るのには、理由がある。
20歳の頃にテレビカメラマンを目指していた。それも。新宿のスタジオアルタの笑っていいとものカメラケーブルを握っていた。見習いとは言え、学校では、思う存分。カメラマンだった。普段のテレビを見る都度に、スイッチャーになってしまうのだ。
真子「なんで。あと一押ししないのですか」
龍太郎「忘れていた」
龍太郎は缶コーヒーを真子に渡した。


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