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演劇ドラフトグランプリ2023 感想

昨年は配信で見ていて雰囲気が良かったので、今年は現地で見てきました!いろいろと面白かったです。

観客の投票で勝敗がつくイベントなので、自分なりに評価基準を設けて見ていました。評価基準はこんな感じ。

1.革新性
役者にとっても業界にとっても新しいか。
2.空間
観客に360度囲まれたステージ・武道館の空間の広さや天井の高さを生かしているか。
3.観客を巻き込む力
同じ空間にいる没入感を観客に与えられるか。最後列の観客まで届くか。
4.発想力(社会性)
舞台を通じて社会にメッセージを発している意識はあるか。
5.好み
わたしの好み。

一項目5点満点として採点しながら見たけど、さすがに点数をがっつり書いてしまうのは露骨な気がしたので、マイ順位にしたがって感想を書いていきます。現地で一度しか見てないので細部はいろいろ違うかもしれないけどご容赦ください。

日本武道館の外観。イベントの装飾がされている。
@日本武道館 2023.12.05

【第5位】劇団『品行方正』/テーマ:待ち合わせ

  • 面白かった!好みのストーリーじゃなくても最初から最後まで笑いっぱなしになれる。待ち合わせが食い違って集まった人たちに実は共通点があって…という定番のストーリーに予想外さは感じなかったけど、どの場面もずっと笑わされました。マネージャーの小物感も元コーチのキャラも、妙に耳に残るシンクロのメロディも、七海さんのかっこよさすらも面白かった。

  • 3階席で見ていたので、クライマックスは逃げ惑う役者たちをスナイパー視点で見下ろせて面白かったです。これぞ高みの見物である。武道館の広さの生かし方として、下から上へ光を向けて感動的にみせる劇団が多い中で、頭上の遥か上にスナイパーがいる設定で上から下へ照らしてドタバタ逃げ回ってるという使い方が逆にクールなようなひたすら面白おかしいような。採点しながら見てたものの、点数で測れない良さがありました。

  • 審査員の誰かが「次のページに思ってもみなかった面白さがある捲る文化である漫画と、予測がつかない展開の連続は通じるものがある」と言ってたのが印象的。確かに。


【第4位】劇団『びゅー』/テーマ:天気

  • 神様だって完璧じゃないという台詞が響きました。自分ができないことは人にまかせること、これが人を救うことがあるというメッセージ。

  • フィクションで悪役にされがちなスサノオを、少年漫画の元気な主人公的なキャラクターにした意外性が良い。元気な弟役がうまい高野さんを再び見られて嬉しかった!これはキングダムの時にも思ったけど、高野さんは元気な主人公役がうまいと思う。ハマるのではなくうまい。一番たくさんステージを走り回ってて、昨年の優勝作品で年長者が一番走り回っていたのと対比する面白さがあった。

  • 観客を八百万の神々に見立てて、ブロックごとに異なるリズムの手拍子をさせるのも面白かったです。でも、自分が座ってた南東は東と南どちらに属するか分かりにくく、ちょっと疎外感があってさみしかった…周囲の観客も手拍子をする人が少なかったので、これは北東や南北西も同じだったんじゃないかと。でも、トップバッターとして場を暖める役目はばっちりでした。

  • 歴史もので感動のストーリー、昨年の優勝作品に影響されすぎでは…と否定的に見てしまったけど、タブレットや国旗まで利用したり、四方八方の観客を巻き込んだりと、会場の構造を5チームの中で最も有効活用していたと思う。トップバッターの利点は先入観を持たれないことくらいで不利な面の方が多いと思うのだけど、インパクトを残すための試行錯誤がたくさん見られたところはとても良かったです。


【第3位】劇団『一番星』/テーマ:アイドル

  • アイドルが法規制された近未来という設定で、アイドルを否定することでアイドルとは何か?を再定義していく発想が面白い!取り締まるが故にアイドルに詳しくなり、独自の哲学を持ってしまい、ミイラ取りがミイラになるオチ。よくできてる!

  • うちわが目に入ると導かれるようにファンサしてしまうとか、あだ名で呼び合うとか、アイドルの定義一個一個がトンチキで笑ってしまう。役名と役者名が同じで全員が本人役だったのも、アイドルは自分自身がコンテンツであるという定義を語らずに示していたと思う。

  • コンサートの場面は、武道館をライブ空間にする演出はもちろん、武道館が持つ“アーティストの憧れの場所”という意味も生かしていた。

  • メンバー4人の場面で、歓声が一番大きいのが福澤さんだったのに驚きました。すっかり人気アイドルだ…!

  • 真顔で両手にうちわを持ち小刻みにふりふり振る荒牧刑事はGIF動画にしたい。LINEスタンプでもいい。

  • 5チーム中で唯一、最後に座長が音頭を取るお礼をやっていました。本日は誠に!ありがとうございました!のやつ。これがアイドルらしさに含まれるかというと微妙だけど、「感謝」がアイドルのベースにあることが詰まった瞬間だった気がする。


【第2位】劇団『恋のぼり』/テーマ:初恋

  • 記憶にある沖縄戦の戦況と重ねながら見ました。5月の戦況や老人の語り口からして、仲間や初恋の相手はおそらく…と簡単に想像がつくが、死が描かれない友情物語になっていた。エンタメならば気持ちよく帰ってもらいたいという意図もあったと思う。戦況が悪化していくと、服部さん演じる(すみませんが役名失念しました)愛国心が強く態度も大きかった友達が小さくうずくまって黙って震えてるのがなんともつらい。死ぬことが名誉であり生き残ることは恥だった時代に、この4人がしたこととその覚悟を言い表せる言葉を、戦後の教育を受けた世代は持っていないだろうし、私は持っていない。2023年にも世界のあちこちで同じことが起きている現実を忘れてはいけないと思う。

  • これは国士無双の宝箱でも思ったのですが、戦争の原因や恐ろしさを20分で扱うには難しいから感動する結末にしたようにも思えてしまう。20分で伝えきるって難しい。

  • 武道館のあの大きな空間の中で一人がたたずむ力だけを使ってどこまで伝えることができるかに挑戦していたように思う。芝居の説得力でみせていて、大きな演出がなくても武道館で演劇ができることを証明していたのが優勝に繋がったと思います。実際、3階席の最後列の私が没入することができたので。優勝おめでとう!


【第1位】劇団『国士無双』/テーマ:宝箱

  • 受賞しても特に映えないマイ優勝は国士無双。始まって間もなく染様の演じる白サンタが「今はいい子の基準が違うんだ」とこぼした時点で、私が普段から考えていることを舞台の上で表してくれる作品になるかもしれないと期待が膨らみました。

  • 子供にとってサンタクロースとは、親以外の無償の愛をくれる存在だと何かで読みました。戦禍の孤児にとって、染谷サンタはまさに親以外に無償の愛をくれる存在だった。けれど真に欲しいものはサンタに言える物ではない。これは私が本当に欲しい物を親に言えない子供だったからかもしれないけど、一年を良い子で過ごした子供が真に望む物を出す宝箱と、戦禍の子供が“真に望んだ物”によって繰り広げられる展開、本当に好きでした。詰まるところ、自分事に捉えられないと感情移入できないし好きになれないのかも。

  • 糸川さんのお芝居は素晴らしかった。最後の望みに掛ける子供の懸命さと健気さがすごくて。登場した時はその出で立ちに「あの役なに?(笑)」みたいな雰囲気が客席にあったけど、展開が進むにつれてその空気を変えていたと思う。

  • 「スーパーで缶詰を盗んだから“良い子”ではない」「たった一回だけだ、しかもスーパーなんて名ばかりの屋根もない廃墟」というサンタ同士の問答に加えて、プレゼントがない子供の言い分は「そんなのみんなやってる」。戦禍であってもなくても現実でも同じことが起きているよなと、一言ひと言にハッとさせられる。それだけでも意義はあると思うけど、このテーマを掘り下げるには20分では足りないというか、脚本家が確固たる結論を出していないと制限時間内に伝えきるのは難しいなとも思いました。3時間の舞台で見てみたい。

  • 性善説の白サンタと性悪説の黒サンタが登場して、二人は正反対の性格なんだな~と思いながら見てたら、最後に黒サンタが想像以上に白サンタにクソデカ感情を抱いていて3階席でガッツポーズしました。しかも人間やトナカイの攻撃はサンタに効かないなんて、サンタにトドメを刺せるのはサンタしかいないってことじゃないですか。このバディは世界を動かせる。白サンタと黒サンタで世直しする続編を作ろう。

  • 染様のハマり役として「自己犠牲・クソデカ感情を向けられる」と聞いていたので、これが噂の…!と、評判のお店で評判通りの美味しいごはんをいただいた気分になりました。

  • サンタ二人は前述の通りで、トナカイはコミカルでかわいく面白く、その無邪気さが逆に子供の悲惨さを引き立てる。全員のお芝居がよくて、武道館で演劇ができると証明した舞台だった。とにかくテーマが好きなのと、白サンタと黒サンタの関係性がたまらないので優勝です。


そのほかによかったところ

鈴木さんのナビゲーター

ネタバレにならない適度にテーマをざっと把握できたので助かった。これ何の話?と考えずに20分の起承転結を楽しむことができました。世にも奇妙な物語のタモリから毒っ気を抜いた感じのストーリーテラーといった感じもまた絶妙。

山寺さんのルール解説

「推しのいるチームに投票したいだろうけど、一番自分の心に刺さった演目に投票して」と解説したこと、とても良かったです。推しは優勝を目指すけど、推しを勝たせる人気投票ではないんですよね。観客もそれをわかってる演劇好きの人が多くて、毎回(まだ2回目だけど)雰囲気がいいと思う。

結果発表後に悔しがった役者の多さ

イベントの最後のあいさつで開口一番に「悔しい」が出る俳優、成長するだろうな…  自分が一番良いと思う芝居をする、その上で勝敗がつく。正解のないものに評価がつくのって理不尽なこともあるけど、それで自分と向き合って磨かれるものもきっとある。

荒牧さんのあいさつ

イベントを締めくくる荒牧プロデューサーのあいさつは昨年と同じく、2.5をはじめ演劇業界の活性化に向けた言葉。開催の真意は「いろいろな俳優や脚本家を知ってもらうこと」「ここで知った俳優の他の現場に足を運んでもらうこと」。ドラフトグランプリは、入口は「推しを見たい」で構わないが、武道館を出た時には視野が広がっている気持ちよさがあるのが好きです。いろいろ見ることも応援になる(とはいえ、その余裕があまりないのが現状だけど)。

最後に全員がそろって、荒牧さんが「本日は誠に!」と音頭を取って全員で声をそろえてありがとうございましたと叫ぶあいさつをしていて、定番だけどこれに重きを置いてる気がした。俳優同士で切磋琢磨して作ることと感謝の気持ちが、このイベントと荒牧さんの原動力な感じ。


武道館の最後列でも伝わってくるものがあったと同時に、この武道館の広さを生かした感じを配信で伝えるには限界があるだろうなと思いました。昨年は空間を生かせていたのは劇団ズッ友だけだと思ったけど、見えない所でいろいろやってたのかもしれない。
この手のイベントは天井席だからこそ見えるものがあるのですが、同じ地平のアリーナ席だとまた見える景色が違うはず。来年はアリーナで観劇しようかな。

演劇ドラフトグランプリ、やっぱり面白い。