見出し画像

新旧台詞・歌詞対比 『オペラ座の怪人』 2020.11.22(日)ソワレ&11.23(月祝)マチネ

2020年10月24日(日)にオープンした新しい四季劇場秋で、こけら落とし公演となる『オペラ座の怪人』を観た。私の大好きな作品であるが、それ以上に四季の新しい劇場に胸が躍る。一足先に観劇を済ませた人たちから、過去よりもグレードアップした公演であるかのような声が聞こえており、一層期待が高まった。

一方で、11/20(金)にファントムデビューを果たしたばかりの岩城さんの2回目、3回目の公演を観ることになってしまった。正直に言えば、岩城さんがどうこうではなく、オープニングキャストの佐野ファントムを一度は観たかったが、これも運なので仕方ない。新怪人を楽しみに劇場へ向かった。

この『オペラ座の怪人』は、前回の横浜公演の時点でかなり大きな演出変更があった。そして今回の東京公演では、さらに変更が加わった感じだ(一部以前に戻ったと感じる部分もある)。
特に、セリフや歌詞の変更はインパクトが大きい。
そこで今回の記事では、作品そのものの感想は控え、どのようにセリフや歌詞が変更になったかを中心にレポしてみたい。ただしそれを紹介してしまうだけの記事は著作権法上問題があるため、あくまでも歌詞の変更を引用しつつ、それがどのような影響を与えたのかを考察していきたい。

以下の記事で「旧」としているのは、劇団四季ロングランキャスト版CDの歌詞をベースに、おそらく25年以上に亘りほとんど変更されてこなかったセリフ・歌詞。「新」としているのは今回の東京公演のものだ。横浜公演での変更は、記憶が定かではないため、今回はスルーする。
なお、引用は浅利慶太先生の『オペラ座の怪人』日本語版台本を旧版の基本とするが、変更後(新版)のセリフを誰が書いたのかは明示されていないため不明である。
では、以下に変更箇所をまとめていく。ご興味のある方はお付き合い願いたい。(なお、引用はCDの歌詞カードを参考にしているが、CDに入っていない部分での変更も多く、その場合は記憶にのみ頼っているため、正確とは限らないことを付記しておく。)

第一幕

●プロローグ

旧:それでは皆様お次は663番に参ります。
新:それでは皆様お次は663番に参ります。

え、何も変わっていないじゃん?
と思われても仕方ない。が、数字の読み方が変わっているのだ。長いこと「ろっぴゃくろくじゅうさんばん」と読まれていた番号が、今回いきなり「ろくろくさんばん」になっていた。出だしからビックリ驚いてしまった。もちろん、664~666番でも同じだ。
これが読み方の変更なのか、それともオークショナー役の志村さん独特の読み方なのかは不明だ。台本に、数字へのふりがなが振っていないこともじゅうぶんに考えられるため、オークショナー役の変更時が楽しみだ。

旧:ちょっと明かりをつければ、昔の亡霊も逃げ出すことでありましょう!
新:ちょっと明かりをつければ、昔の亡霊も逃げ出すことでありましょう。さあ!

これも役者の個性なのかもしれないと思ったが、挙げておく。ワンクッション置いて「さあ!」と入ることで、観客としてはオーバーチュアへの心の準備ができる効果があると思われる。

●ハンニバル

旧:マダム・ジリーはオペラ団のバレエ教師です。正直に申し上げますとね、
新:マダム・ジリーはオペラ団のバレエ教師です。   正直に申し上げますとね、

このふたつのセリフの間に、以前にはなかった間(ま)が設けられるようになった。確かにこのふたつの文の間には関連はないと言ってよく、観客の理解を容易にするためにもここで空白を取るのは正解である気がする。

旧:「貴女の素晴らしい舞台はすべて拝見させていただきましたよシニョーラ」「そしてこちらがシニョール・ウバルト・ピアンジ」「お会いできて光栄ですシニョール」「こちらこそ(ケッ)」
新:「貴女の素晴らしい舞台はすべて拝見させていただきましたよシニョーラ」「ピアチェーレ!♡」「そしてこちらがシニョール・ウバルト・ピアンジ」「光栄ですシニョール」「ピアチェーレ(フンッ)」

ここは急に、ピアチェーレというイタリア語が出てきて面食らう。前のままで十分わかりやすかったと思うが、この変更の意図は謎だ。

●スィンク・オブ・ミー

旧:(コーラス)怖いわ ファントムの気配よ~
新:(コーラス)あいつがここに~ そうファントム 化け物だ~

正確に聞き取ったり記憶したりできている自信はないので、何とも言えないが、メグが「怖いわ ファントムの気配よ~」と歌うのに続けるコーラスの歌詞が変わっていると思う。これまでは単なるリピートだったものが新しい味を足しているのはよいのだが、聞き取りが難しく、初見の人に対しては逆にストレスを与えたりハードルを上げたりする恐れがある。

旧:こんなことがまたここで起こるのなら、わたくしこのオペラに出るの、やめますわ(ロングランキャスト版では「この役、降りますわ」)。ウバルド、行きましょう!
新:こんなことがよくあるのなら、わたくしこのオペラに出るの、やめますわ。ウバルド、アンディアーモ!

私の口癖のひとつに「よくある異常なこと」というセリフがあるのだが、今回の変更はこの「よくある」という言葉を反復することで、わかりやすくすると同時に、セリフの簡略化を目指していると邪推される。
一方で、ふたたびイタリア語が登場。「アンディアーモ」=「行きましょう」という意味なのであるが、わざわざイタリア語にした意図は不明だ。

旧:ああは言ってもプリマ・ドンナはじきに戻ってきてくれますよね?
新:ああは言ってもプリマ・ドンナはじきに戻ってきてくれますよ!

微妙な変更ではあるが、ムッシュー・アンドレの不安げな気持ちは影を潜め、自分に言い聞かせるような表現に変わっている。

旧:レイエ「代役はいません。新作ですから。公演は中止になるでしょう」。メグ「クリスティーヌ・ダーエなら歌えるかもしれませんわ」
新:レイエ「代役はいません。新作ですから」。メグ「クリスティーヌ・ダーエなら歌えると思いますわ」

ここも微妙な時間短縮を目指してのことか、「公演は中止になるでしょう」の一文がなくなった。のちほどフィルマンが「もしかして公演を中止しなくちゃならないなんて」と言うことを考えると、ここは残した方がよかったと思うのだが、時短優先か。
また、「歌えるかも」が「歌えると思う」と、自信のある言い方に変わっている。

旧:(何という先生だね?)それが……言えないんです。
新:(何という先生だね?)それが……わからないんです。

ここはわかりやすくなったと思う。クリスティーヌ自身も、音楽の天使の正体を知らずにレッスンを受けているのだから、「わからない」が正しい。「言えない」だと、クリスティーヌが隠しているような印象を与える。

旧:いいでしょう。聴かせていただきましょう。
新:いいでしょう。聴かせてください。

ここも微妙すぎる時短だが、わかりやすくてよいと思う。

旧:「なかなかイケるじゃないか、このコは」「いざとなったらこのコで行こう!」
新:「本当にうまくいくのかね」「まぁやらせてみようじゃないか」

ここはクリスティーヌの歌い出しの変更とセットだ。以前は、出だしからしっかりと歌っていたが、今回は心細そうに弱々しく歌い出す。この歌い方では当然「イケる」とは判断できない。つまりここのセリフの変更は、クリスの歌い方の変更が先にあって、それに合わせたセリフになったと想像される。(ちなみに横浜公演ですでに変更されていたと記憶している。)

●エンジェル・オブ・ミュージック

旧:赤いスカーフ。幼い日の懐かしい思い出。
新:赤いスカーフ。幼い日の懐かしい思い出。可愛いロッテ。

記憶だけで書いているので間違っている可能性もあるが、ラウルからの手紙には「可愛いロッテ」とは書いてなかったと思う。

旧:どうやら幼馴染らしいなぁ
新:どうやら初対面じゃないなぁ

以前は、ラウルとクリスの二人が面識があったことをフィルマンは知っている体であるが、今回は、知識はなく想像を述べる形に変更された。ラウル以外に過去の面識を知っている者がいるとは考えづらく、フィルマンが知っていたとすればラウルから聞いたはずであるが、ラウルはそんなことを言わないだろうという性格付けが明確になったのだと思われる。

旧:ラウル「僕が濡れ鼠になって取ってきてあげたんだもの。14歳のときに」 ~ クリス「あなたラウルなのね!」
新:ラウル「僕が14歳のときに取ってきてあげたんだもの。濡れ鼠になって」 ~ クリス「ラウル、あなたなのね!」

ここでの語順の変更は、何を観客に強く訴えたいか、が大きな理由と思う。が、ここに限らずであるが、あまり意味のない変更と思われる部分は、オリジナル日本語訳である浅利先生ご遺族へのロイヤリティの支払いを少しでも少なくする、という目的もあると邪推される。
今後も、少しずつ、少しずつ、浅利先生の訳を脱却していく方針なのは間違いないと思う。

●リトル・ロッテ

旧:ダメ、ラウル。私の音楽の先生はそれは厳しいの。
新:ダメ、ラウル。エンジェル・オブ・ミュージックはそれは厳しいの。

確かにそれまで「エンジェル・オブ・ミュージック」という単語で会話していることを考えると、変更後の方がしっくりくる。

●オペラ座の怪人

旧:(コーラス無し)
新:(コーラス)闇に潜みて迫る~。彼はファントム・オブ・ジ・オペラ~

特にコーラスが入ってなかった部分に、新しいコーラスが入った。「今二人はとけあい ザ・ファントム・オブ・ジ・オペラ ああ ひとつに」に続けての部分である。このコーラスはいったい誰の声として意味があるのだろうか。この二人が地下へと行ったことは誰も知らないはずなので、ちょっとだけ違和感がある。

●舞台裏

旧:隙を見せるなよ 奴の手を逃れたいなら 醜い顔色 鼻は崩れ落ちて こうだ
新:醜い顔色 鼻は崩れ落ちて こうだ 隙を見せるなよ 奴の手を逃れたいなら

ここも文の入れ替えが行われた。状況を認識するためにはその方がわかりやすいのかもしれない、とは思う。

●支配人のオフィス

旧:カルロッタ「あの子は~」
新:カルロッタ「あの人は~」

カルロッタがクリスティーヌを探していたのだが、今回はラウルを探している設定に変わったようだ。確かにクリスには何の権限もなく、クリスに詰め寄るよりはラウルに詰め寄った方が合理的だ。
だが、ひとつの音に「こ」一音でちょうどよかったのに、「ひと」という二音を当ててしまうことになったのは大きな減点ポイントだと思う。

旧:フィルマン「今までどこにいたんだい」
新:フィルマン「それならすぐに呼びなさい」

これは、次に続くアンドレの「どこにいたんだ」との重複を避けたものと考えられる。

●イル・ムート

旧:ファントム「このまま歌わせておくとシャンデリアが落ちてくるぞ!」⇒ カルロッタ「ノンポッソピュウ、もう歌えない」
新:ファントム「このまま歌わせておくとシャンデリアが落ちてくるぞ!」=同時=カルロッタ「ノンポッソピュウ、もう歌えない」

以前はファントムがセリフを言い終わってから「ノンポッソピュウ」と言っていたのだが、今回は怪人のセリフに完全に被せて「ノンポッソピュウ」が入ってきた。極めて聞き取りづらく、間違えたのかと思うほどだが、私が観た2回ともがそんな感じだったので、おそらくは変更か?

屋上以降、第一幕ではセリフや歌詞の変更は気づかなかった(基本的に、これまでの観劇経験で定着した記憶に対して違和感を感じたセリフや歌詞をピックアップしている。)

大変恐縮であるが、第二幕の対比考察は、有料記事とさせていただく。価値を見出される方のみ、先へ進んでいただければ幸甚である。

第二幕

ここから先は

2,127字

¥ 390

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?