見出し画像

内部監査の在り方 Part. 02 - 三様監査での内部監査の役割 -

今回は三様監査での内部監査の役割を見ながら内部監査の在り方についてご紹介したいと考えております。
 三様監査(会計監査人/監査法人・監査役・内部監査)においての内部監査の立ち位置は?現場での状況は?役割を通して考えることは?などをお話しします。。



三様監査での内部監査の立ち位置と役割の変化

 内部監査の皆さんは、「三様監査」をよくご存知かと思います。「会計監査人監査、監査役監査、内部監査の総称である」とか、「それぞれが実施する監査の監査対象・項目やその手続きについて重複することをなるべく回避して、効率的かつ効果的な監査を行うことを目的とする」との説明がなされることが多いです。
 三様監査の目的は、三者ぞれぞれが当社を効率的かつ効果的に監査を行い、報告(財務・非財務情報)の信頼性と正確性を証明すること。監査を実施するそれぞれの目的と役割を明確にして、監査対象等が重複すること無く監査するために連携することです。

 さて、その監査を実施するそれぞれの目的と役割を明確にする点と連携する点ですが、皆さんの会社ではどのようにしていらっしゃいますか?
 大抵の場合、監査法人は会社経営者へのヒアリング、経営と監査に関するディスカッションを実施します。また監査役会とは定期的にミーティングを実施します。これらは監査法人がイニシアチブをとって会社に対して要請します。監査役(会)は監査法人や取締役、部門長に対してディスカッション、ヒアリング等を実施します。

 では内部監査はどうでしょうか。

 内部監査は監査法人と監査役会との定期ミーティングに監査役の陪席というかたちで同席することが多いですが、このようなかたちで内部監査が三様監査の目的を達成しているかは疑問です。

 先般の記事「J-SOX2023年改訂で内部統制がやるべきこと Part.05 - 内部監査の専門性が重要 - 」でご紹介しましたが、内部監査の立ち位置と役割は内部統制の点で大幅に変化しました。今回のJ-SOX改訂のタイミングで皆さんの会社での「三様監査の在り方」を見直す必要があるかもしれません。監査法人、監査役と同様、内部監査の立ち位置と役割は大きく変わったのです。


 では、上場会社はどのようにしたらその内部監査の立ち位置と役割の変化に対応できるでしょうか。その対応のひとつとして、まずは皆さんの会社の三様監査を見直して連携強化を図ることをお勧めします。。



まずは三様監査の在り方を見直してみる

 この2023年のタイミングで、三様監査として監査法人、監査役、内部監査の連携強化とそれぞれの立ち位置と役割を相互に理解し合い、監査計画も策定に関する方針を協議して策定することをお勧めします。これによって、まずは会社全体に網を張ること(網羅性)を考えます。
 つぎに会社の当期事業計画を参照してこれに適した監査テーマ、監査対象、監査項目等を挙げてみましょう。ここで実在性、妥当性等を念頭に置いたうえでこれらを挙げていくことを忘れないでください。監査法人による会計監査では、監査要点(アサーション)として6つの要素を挙げています。それは①実在性、②網羅性、③権利と義務の帰属、④評価の妥当性、⑤期間帰属の適切性、⑥表示の妥当性です。これらは会計監査だけに有効なものではなく、監査役監査、内部監査において流用/準用することは可能ですし有効です。この点は監査法人にアドバイスをいただきつつ、監査計画に盛り込むのが良策です。

 連携強化の手段として、定期ミーティングの開催は必須です。回数を今より増やすというよりは、事業年度内のいつのタイミングで開催するかがポイントです。例えば、四半期決算の前か後に定期ミーティングを開催するのは最良です。四半期決算の前であれば、監査法人は会計監査にあたるうえで必要な情報を監査役、内部監査から得られます。また監査対象の会社の内部監査の結果を確認することで、その結果が適切で信頼性があるかどうかを確認することができます。
 一方、内部監査は自らが実施した内部監査結果に対して監査法人による会計監査人目線からのコメント・アドバイスをもらう(*あくまでコメントであり、監査結果に対する評価ではありません)ことができたり、監査法人から会計監査や内部統制評価監査に関する昨今の情報等を享受することができますので、監査スキルを向上したい内部監査の皆さんにとっては最高の収穫を得ることも期待できます。

 つまりこの三様監査の連携を強化することは、内部監査としては大変大きな利点と価値を持ち、内部監査業務の充実と内部監査スキル向上することが可能に成る、最高の切り札になりうるのです。

 ただしこの三様監査の連携強化は、一朝一夕に成るものではありません。
 監査法人は会社と締結する監査契約にある契約条件でその会社に掛ける時間を決めていますし、また会社としても今よりも会社に掛けてもらう時間を増やそうとすれば監査報酬に影響があります。これらの点を相互に協議・検討したうえでどのようなかたちの連携強化が可能なのかを考える必要があります。その相互に協議・検討する時間と回数が増えることも「ここが三様監査の連携強化の第一歩」とお考えいただけたら、決して無駄な時間ではないのです。監査契約の締結前、また監査契約の更新のタイミングで協議の場を複数回持つことも大切な時間ですのでお勧めします。



三様監査にとって内部監査は重要なファクターです

 「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(企業会計審議会・金融庁)(*以下「J-SOX2023改訂版」といいます)において、内部監査には次の役割と責任を明示しています。

内部監査人は、内部統制の目的をより効果的に達成するために、内部統制の基本的要素の一つであるモニタリングの一環として、内部統制の整備及び運用状況を検討、評価し、必要に応じて、その改善を促す職務を担っている。

(出典:2023J-SOX改訂版16ページ「4.内部統制に関係を有する者の役割と責任」)

 また内部監査基準(一般社団法人日本内部監査協会・2016(平成26)年改訂版)において「継続的モニタリング」とあります。

 この継続的モニタリングを行うことができるといえば、内部監査が適任でしょう。このモニタリングは、例えば社内で流通する社内書類のすべてを把握しているうえで、どのように回付されているのか、必要な部門・上司・責任者に回付されているのかを確認できる状態のことです。ここで、もし会社の事情で常に確認する必要がある場合は、プロセスマイニングツールを活用すると良いでしょう。これなら社内の内部監査担当、また内部監査業務を業務委託しているのであれば受託している会社にこれの確認を委託するのも良い方法です。この方法はアメリカではGRC(Governance, Risk, Compliance)ツールを用いて行われています。このGRCツールは内部監査だけでなく、システム管理、リスク管理等様々な管理業務を全社横断的に効率化する目的のツールです。日本でもこれを導入している会社がありますので、皆さんの会社でも検討してみる価値はあります。

 このモニタリングですが、社内業務のすべてを常に監視するというものではありません。例えば以下の方法があります。

  1. 定点観測としてのモニタリング 【例1】特定の業務を定点観測する(取引上現金を扱う拠点・店舗の現金出納帳をモニタリングする。現金実査は期中1〜2回程度実施する。) 【例2】特定の商材・サービスを定点観測する(商材・サービスがあらかじめ決めた業務フローのとおりに業務遂行されていることをモニタリングする。特に新規事業及びその商材・サービスに対して行う。)

  2. 一気通貫のモニタリング 【例1】販売プロセスを一気通貫でモニタリングする(新規顧客のうち1〜2件の契約から入金までのプロセスをモニタリングする。) 【例2】原価・購買プロセスを一気通貫でモニタリングする(新規/既存取引先のうち1〜2件の発注から納品・検品、支払までのプロセスをモニタリングする。)

 1の定点観測は、特に不正な処理が発生しうるリスクの高い業務を Pick up してこれに対して行うことが多いです。これは不正だけを目的としているわけではなく、例1に挙げましたように、現金を扱う業務であれば現金出納帳に記載されている金額と実際の現金金額に差額が生じることは日常的に発生するもので、お客様への釣り銭を間違えるとかがその例です。ただし、その間違ったままの現金出納帳の記載金額で経理処理されてしまうリスクがありますので、これを拠点・店舗でいち早く気付いてその間違いを正してもらうこと、されにその間違いをいち早く気付くことができる業務プロセスに改善してもらうことが目的です。例2はリスクの観点ではなく特に新規事業等であれば新しい業務フローに早く慣れてもらい、遅延・停滞の無い業務遂行をしてもらうことが目的です。

 2の一気通貫は、内部統制評価監査で行う評価方法と同様です。ただし内部統制では監査対象期間中のすべての取引を母集団としますが、内部監査の業務監査として実施する場合は、不正を検出する、または不正リスクを低減させる効果を期待するものです。新規顧客のケースでは、取引開始のプロセスで与信管理や反社チェックがルールどおりに行われているか。また契約プロセスで誤った業務が行われていないかなどを確認したりします。新規/既存取引先のケースは、取引開始プロセスや契約プロセスに加えて接待交際等の業務状況などを並行して確認することが多いです。

 モニタリングの大きな目的は、社内業務のすべてを常に監視することではなく、内部監査の実務としては先の2つの方法を実施して不正等の未然防止とそのリスク低減するためのものです。「常に監視する/見る」かどうかはあくまで方法論です。モニタリングの大きな目的をキチンと捉えれば、限られている内部監査のマンパワーで最大効果を発揮することがきますし、押さえるべきポイントを絞ることで不正リスクの低減や的確な業務改善のコンサルティングも可能になります。もちろんこの方法を用いれば、外部委託に内部監査業務を委託することも可能です。モニタリングは内部監査だからこそできる業務であり、2023J-SOX改訂版で明示され、内部監査基準で定められている、内部監査を業務として行う者に求めらている重要な業務なのです。

 こうしてみると、内部監査は三様監査の登場人物の中で重要なファクターであり、これからの内部監査の役割の範囲はさらに広がり、その専門性もどんどん深まります。これと並行して責任が重くなっていくことでしょう。内部監査の仕事自体も様変わりすることは間違いありません。これからもさらに内部監査の業務技術の研鑽を重ね、内部監査の在り方を深く考えていきましょう。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?