優しい葛藤の描き方

 人は選択を強いられています。
 だからこそ、主人公に迫られる選択は読者にとって他人事ではありません。その葛藤は読者を容易に感情移入へと導くでしょう。


 ただし。
 感情移入するからこそ、葛藤は負荷が高いです。
 答えの見えない状況は「ストレス展開」と呼ばれ、現代の疲れた読者は「せめて読書の間くらい快刀乱麻を断つ明朗快活な人生の時間をくれよ」と叫びブラウザバックを選択します。
(注)そうでない人もいます。

 葛藤は物語を面白くするスパイスです。
 美味しいところを上手に取って、臭いところには蓋をしましょう。

人は損をしたくない


 苦しい葛藤の果てに何かを選んだ結果、何かを失う──というのはドラマチックですが、あまり望ましい流れではありません。

 人は何かを失うと、得る場合の気分に対して2倍大きい苦痛を受けることがわかっています。

損失回避性とは−コトバンクhttps://kotobank.jp/word/%E6%90%8D%E5%A4%B1%E5%9B%9E%E9%81%BF%E6%80%A7-23103


 主人公に感情移入していた読者も、少なからず代償を払った気分にさせてしまいます。
 気分の落ち込みを目的とした悲劇小説であるか、積み上げの果てに辿り着くクライマックスでない限りは避けたほうが無難でしょう。
 失うとしても、それ以上のものを手に入れたと強調するのが親切だと思います。

第三の選択肢」や「状況の変化による前提の崩壊」などによる葛藤の解消は、葛藤と爽快感のいいとこ取りになる優れた手法です。
 ハリウッド映画でも好んで用いられていますね。人気作のキャラクターにも「トロッコ問題」で全員助ける答えを返すものが多いです。

苦しい時間は求めてない


 苦しみたくて余暇の時間を使う人はそんなにいません。
 深く重たい葛藤を描くときは、心情的な部分を担保すると読みやすくなります。結果の仄めかし、充分な伏線、並行して別の葛藤を解決する、など苦痛を和らげるシーンを挿入することです。
 もちろん、葛藤に注力して太く短く解決まで一気に描き切る、という道も存在します。
 いずれにせよ、苦しいだけのシーンを作らないようにすると読みやすくなります。

「わからない」はストレス


「このあとどうなるんだ……!?」という展開を引きと呼んでいた時代もありましたが、今はそこまででもありません。
 というか、読む人読まない人の二極化が進んだ今、読者は死ぬほど多彩なストーリーパターンを網羅してきたエリートたちです。
 よほど巧みに展開しない限り、「引き」は「迂遠・冗長」に変わってしまうのでしょう。
 テンポよく謎を開示していきましょう。

「わからない」はストレスですが、逆に言えば「わかっちゃったぁ……(ねっとり)」は快感です。予想=期待させてくれる展開は好まれます。
 体感ですが「結果は見えているけど、過程は何択か絞り切れない」くらいが理想バランスなのかな。

考えていたら走れない

 葛藤を克明に丁寧に描いていると、新しい展開──ストーリーを描くことができません。
「同じような状況がいつまでも続く」と言い換えるといかにもな悪手です。

 葛藤は必要な箇所を見極めて、ここぞと効かせるのが良いのではないかと存じます。

 あるいは、葛藤があることを示しつつ棚上げして、次の展開に走っていく。果断即決で葛藤を解決する。というような処理方法でも良いかもしれません。

 どの手法であれ、ストーリーの「進んでる感」を途切れさせないようにするのが肝要かと思います。

まとめ

 まとめます。

 葛藤は感情移入を招きやすいですが、同時に苦しいものでもあります。
 考えるポイントは四つ。

・損をしたくない
・苦しみたくない
・「わからない」は楽しくない
・ストーリーを途切れさせない

 この辺りを意識すると、読み口が柔らかな読みやすい形にできると思います。

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