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【感想エッセイ】お互いを追いかけ合う浅倉透とPの独特な距離感にもだえる

 浅倉透という存在が、この世に公開されたのは2020年3月22日の2周年生放送のこと。
 シャニマスの6組目のユニットである「noctchill」のアイドルとして、その透明感あるビジュアルから、ひと際目を引いていたのを記憶しています。

 実際プロデュースしてみると、浅倉透コミュが持つ不思議な雰囲気から、一昔前のギャルゲー・美少女ゲーを遊んでいるような気分になりました。
 哀愁のあるSEと共に表示される意味ありげなセピア調のバス停やジャングルジム、全てを語らず読者に考察を促すようなセリアの数々。芹沢あさひのコミュも、それなりに読み応えがある内容でしたが、それと同等か超えるようなシナリオを用意してくれたものだと、関心したものです。
 浅倉とプロデューサーとのストーリーを要約するなら、自身の人生観を形成するきっかけとなった男性と再会し、彼に勧められたアイドルという存在になることで退屈な今を変えていく、でしょうか?


wing編冒頭に流れる、セピア調のバス停風景

 さて、wing編冒頭だけを振り返ると、このストーリーは、バスに乗り遅れるプロデューサーに、浅倉が声をかけるところから始まります。見知らぬ男であるプロデューサーに物怖じすることなく話しかける浅倉の度胸もさることながら、初対面の女の子に部活動やっていないのか尋ねるプロデューサーの不審さには、どこかコミカルな印象を感じさせますね笑

 彼女をスカウトしようとしたプロデューサーでしたが、露骨に拒否されてしまったため、浅倉をこれ以上嫌な気分にさせないため、その場を去ろうとします。
 浅倉は去り際の台詞にデジャヴを感じたようです。唐突に表示される色褪せたバス停の風景、そしてジャングルジム。プロデューサーを呼び止めると、服にセロハンテープが付いていることを指摘します。
 よくセロハンテープが付いているのに気付いたなと思いますが、これは過去にバス停で出会った男性がプロデューサーなのではないかと、浅倉が持つ彼への印象が「無関心⇒関心」に変化した表れなのではないでしょうか。普段の登下校ルートですれ違う人間なんて結局モブでしかなく、身なりなんて注目したりしません。特に浅倉は外界への関心が薄いようですので、なおさらでしょう。セロハンテープという小道具を通して、プロデューサーへの解像度が変化したことを演出したのではないかと、私は考察します。

 浅倉とは名刺だけ渡してその場で別れたのですが、場面が変わると既に283プロのアイドルとして契約しているではありませんか。いったい、何が浅倉透をアイドルにするきっかけだったのか…(すっとぼけ)。
 このように、意味深な演出が多々あるのが浅倉シナリオの特徴ですが、それら演出のなかでどのような気持ちの変化があったのかなどを解釈するのが、浅倉透をプロデュースする面白さなのです。


追いかけて、追いかけられる、浅倉とプロデューサーの関係性

 私が特に好きな演出は【まわるものについて】におけるメリーゴーランドのシーンです。

 少し脱線しますが、小説や映画では、花や動物をシンボルとして扱い、それに含まれる意味を通して登場人物の関係性や感情などをよく表現したります。シャニマスは、とくに演出をシンボルとして多用する傾向にあります。
 例えば、一番星。ひと際輝くその様から、文字通りトップスターやアイドルなどを意味し、業界内でもカリスマ性を輝かせる浅倉の比喩として書かれたりします。【10個、光】というコミュでは、昼にも星が輝いているというシナリオとして、ノクチルカ=夜光虫の輝きではなく、プライベートの輝きを見てほしいという、浅倉のいじらしさを感じることができます。切ないことに、プロデューサーはそれに気づくことができていないのも、浅倉コミュにおける2人の関係性を表していて、良いんですよ。

 他にも、【途方もない午後】では、純潔を意味する白い百合も使われています。芸能界という汚い大人達溢れる世界を、浅倉は水が入ったペットボトルを通して、歪んでいると表現します。その後、プロデューサーは浅倉の真似をして浅倉のことをペットボトル越しに見ますが、彼女の姿は一切歪んでいません。そして、撮影直後ということで、手に百合を持たせ、彼女の純潔さを強調しています。
 バンナムって、こんなに素晴らしいシナリオライターを何人も抱えていて凄いですよね。どこから雇ってくるんだよ、こんな天才。

ボトルを通しても歪まない浅倉、手に持っている白い百合


 さて、話を戻しますが、メリーゴーランドとはご存知の通り、乗り物の馬が回転する円盤の足場に取り付けられた遊園地の遊具。後ろの馬は前方にいる馬に決して追いつくことはなく、追いつかれることはありません。

 【まわるものについて】のなかで、プロデューサーは浅倉がいつか離れたところにいなくなってしまうのではないかという不安に駆られています。モノローグで語られるプロデューサーの想い。浅倉を追いかけなかったらどうなってしまうのか。そのなかで交わされるのが以下の会話です。

 あえて、メリーゴーランドという小道具を持ってくることで、浅倉とプロデューサーの関係性を表現する、粋なシナリオです。シナリオライターも、このプロットを思いついた時は絶対興奮しただろうなぁ。
 この後に、ラジカセで音源を聞くプロデューサーを見つめる浅倉が描写されますが、先ほどの場面と対比して、プロデューサー⇒浅倉ではなく、浅倉⇒プロデューサーという関係性も描くことで、彼女らがメリーゴーランドの関係であることをまとめています。

 この度は、私の拙い考察や文章をお読みいただきありがとうございました。
 皆さんも、ぜひシャニマスをプレイして、浅倉とプロデューサーとの不思議な世界観を楽しんでください。それでは!

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