ピム三十三

書籍編集者(お休み中)。本読み。映画鑑賞者。二重に露光しながら暮れ逢いたい。

ピム三十三

書籍編集者(お休み中)。本読み。映画鑑賞者。二重に露光しながら暮れ逢いたい。

最近の記事

『長い読書』のこと

 朝起きてコインランドリーで洗濯物を済ませたあと、隣町の〈珈琲館〉まで歩いた。昨晩、職場からの帰りに丸善日本橋で買った『長い読書』をわたしは読みはじめた。  1頁読む毎に何かをおもいだす、不思議なエッセイ集だ。  ハイパーリンクの張り巡らされたコスモス(宇宙)へと連れ去られる。 そこでは万物が照らし合っている。 万物照応。 ひとつの想起が別の想起を生んでは著者自身も予想のつかない衝突をくりかえしている。  感化の力はつよい。読み手であるわたしの意識の底にある鍵穴に鍵が差し込ま

    • 『自殺帳』(春日武彦)のこと

       精神科医の著者が、正直に認識を吐露しながら偽りのない記述を志向した跡が随所に見られる、テーマはラディカルで危険を冒して書いたその態度が真摯な本。  クンデラの「画家の乱暴な手つき——フランシス・ベーコンについて」の「かぎりやすく壊れやすく、身体のなかで震えている「自我」という、「あの秘宝、あの金塊、深みに隠されたダイヤ」を隠している顔」という表現が思い出された。  煽ってはいないが人畜無害でもない。醒めた視点を保ちながら、海にダイヴするように自死した者らの内面に肉薄し理

      • デニス・ボック『オリンピア』を読んで

         1936年のベルリン・オリンピックから92年のバルセロナ・オリンピックまでを後景として、三代にわたるアスリート一家のフラジリティ溢れる苦悩と救済のファミリーヒストリーが描かれている。アスリートの物語といっても「友情・努力・勝利」の『週刊少年ジャンプ』系スポ根派書物ではない。ふたつの世界大戦が濃い影を落とすドイツ系カナダ人一家の、誰も望んでいないのに段々と内側から破れていくよう定められた「水と風の運命」に静かに抗う日々を、詩情豊かで静謐な彫琢された文体によって細部まで浮かび上

        • 『自分思い上がってました日記』を読んで

          6月13日  有隣堂書店たまプラーザ店で北尾氏に話を聞いてもらう。同じ目線でこちらの話を聞いて、礼節をもって応答してもらえた。勇気がふつふつと沸いてきて、元気になって帰路に就いた。「言語のかかりつけ医」のカウンセリングセッションのような不思議な場だった。 9月17日  Titleで『自分思い上がってました日記』を購入。紫煙がゆらゆら漂っている新宿・珈琲タイムズで一気に読了。  本をつくることを生業としているひとりの人間の暮らし。その偽らざる記録がここにある。何が好きで何が嫌

        『長い読書』のこと

          『京都・六曜社三代記 喫茶の一族』を読んで

          樺山聡 京都・六曜社三代記 喫茶の一族 京阪神エルマガジン社 2020 六曜社珈琲店——旧満州の路上で出会った二人の男女が1950年に京都で始めた喫茶店は、京都で半世紀以上も愛される名店となった。 家族史・店の歴史・時代の変化が二重露光みたいに重なって、心地よい眩暈を感じさせる書きっぷりだった。

          『京都・六曜社三代記 喫茶の一族』を読んで

          Aftersun

          "This is our dance"

          感想|『冬の旅』

          『冬の旅』(Sans Toit ni Loi, The Vagabond)を菊川の映画館Strangerで見た。 アニエス・ヴァルダ監督・脚本作品(1985年製作/91年公開)。サンドリーヌ・ボネール主演。 冬のある日の早朝。南仏の寂しい畑で、18歳の少女が孤独な旅の果てに野垂れ死んだ。彼女の名前はモナ。海から野原へ。彼女の孤独な旅の様子が、旅路で出会った人々のドキュメンタリー風の証言映像を挟みながら語られる。 「私にはモナが海から来たように思える。」  ヴァルダによ

          感想|『冬の旅』

          紹介|ふたりのベロニカ

          同じ日にポーランドとフランスで生まれた瓜二つの2人。第二の『第七官界彷徨』とも言うべき霊的交流を描いたラブストーリー。 監督はクシシュトフ・キェシロフスキ、主演はイレーネ・ジャコブ(一人二役)。91年製作。  ポーランドのベロニカは、「特別な歌声を持っている」と才能が認められ、合唱団に入団。指揮者の家で課題曲の楽譜を貰ったその帰り、デモが行われている広場を通ったとき、デモ隊と警察隊の衝突から逃げようとこちらに向かってくる群衆とぶつかって、楽譜を落とす。楽譜を拾い上げて歩き

          紹介|ふたりのベロニカ

          感想|EUPHORIA

           HBO制作のアメリカのドラマ『EUPHORIA』を見て、アメリカの人たちは逞しいと思った。ドラッグと銃がこれだけ身近に溢れていて、暴力を介してしか他者と繋がれない人たちに囲まれていても、正面から事態を受け止めて物語る力があることが眩しい。だからタイトルはサラ・ポーリー監督作の『物語る私たち』(Stories We Tell)でもよかったと思う。  白昼夢の無菌状態の冷凍都市で寄る辺ない闇に落っこち続けている90年以降のニッポンの30年を「物語る私たち」する作品が出現したら、

          感想|EUPHORIA

          ドローイング_220518

              山口小夜子に似ているなアと思った。

          ドローイング_220518

          感想|『魂のゆくえ』

          2022年4月に配信サイトで映画『魂のゆくえ』(出演:イーサン・ホーク、アマンダ・サイフリッド etc.)を見ました。監督は『タクシードライバー』の脚本を担当したことで有名なポール・シュレイダーです。 『魂のゆくえ』では、同じくイーサン・ホーク主演のラブストーリー『Before Sunrise』(1995年)と比べて、主人公が相手と「同じ世界に入る」までに長い時間がかかっています。また、『魂のゆくえ』の主人公は、その代償として大きな受難を引き受けています。この事は分断とde

          感想|『魂のゆくえ』

          ポンヌフの恋人

          ポンヌフの恋人

          リップヴァンウィンクルの花嫁

          リップヴァンウィンクルの花嫁

          花筐(はながたみ)

          花筐(はながたみ)

          悲しみのミルク

          悲しみのミルク