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うつろいゆくもの

毎日通る道すじに、何軒か古い空き家がある。誰も住まなくなってしばらく経つのか、どの家も周囲に生えている植物がのび放題にのびている。春夏は生い茂り、秋冬は枯れていく。

その中に、朝顔が二階の窓を通り越し屋根まで届いている家があった。
昨年は、秋になりだんだんと寒くなってきても立派に花を咲かせていて、いつまで元気な姿を見せてくれるのか楽しみでもあり、また、その生命力と比べて見劣りする自分が情けなくもあった。
だが、さすがに冬になると咲かなくなった。

冬が過ぎ春が来た。
しだいに生き生きとした葉をつけ始め「あぁ、また花を咲かせるんだな」と思いつつ見ていた。
そのうち昨年同様花が咲き始め、花を見ながら通り過ぎる日々が続いた。
梅雨が明けた頃、つるも葉も茶色になり、花もしおれていた。「どうして」と思いつつ家の周りを見ると、他の植物も枯れていた。

数日後、いつも締め切られていた玄関や窓が開け放たれ、中のものが運び出されていた。何日かそれが続いたが、そのうちに、しんとした以前の様子に戻った。

それからしばらく経つと、朝顔が復活していた。
驚いた。そして花を咲かせていた。
いつまで続くか分からないけれど、またしばらく朝顔を見られるなと思っていた。
その後、通りかかると家が壊されていた。
朝顔はもうない。

そして、現在はアスファルトが敷かれ駐車場になっている。周囲の風景はそのままに、その家があった部分だけ変わっている。
あったものがなくなり、なかったものがある。
また今日も、古い家が壊されていた。今度は何になるのだろう。