共振回路とQ値(寄生抵抗の影響)
前回は寄生素子による高い周波数での影響を中心に見てきました。今回はもう一つの寄生素子である抵抗成分についても考えてみます。
1.寄生抵抗の影響が問題になる例
寄生抵抗の影響は大概の場合はっきり言って小さいです。回路には通常抵抗素子などが置かれますが、それらは10Ω以上でさらに±0.1%などの誤差を持っています。そのため寄生抵抗である0.1Ωなどという値はそれらの誤差に比べてほぼ無視されます。その中で、寄生抵抗によって無視できない影響が出る場合として
1.大電流が流れる場合
2.共振回路の中の場合
の二つがよく上げられます。
1-1.大電流が流れる場合
一つ目の例は回路に大電流が流れる場合です。例えば0.01Ωの寄生抵抗を持つコイルに振幅10Aの電流を流そうとすると、このコイルでの電圧降下はオームの法則より振幅0.1Vにも達します。さらにコイルで消費される電力は以下の式のように電流の2乗で効いてくるため、1Wもの電力消費が発生します。このように大電流が流れる場合は寄生抵抗の影響によって電力が消費され、これによって熱が発生します。これは寄生抵抗がコイルの許容電流と関係していたりします。ちなみに大電流系はあまり扱ったことがないため、私はあまり知見がないです。
1-2.共振回路の中の場合
もう一つの例として共振回路、特に並列共振回路の場合に影響が大きくなります。並列共振回路でコイルに直列な抵抗R_Lが付いた場合を考えます(この抵抗を等価直列抵抗 ESR "Equivalent Series Resistance"と呼びます)。この時の等価回路は以下の通りになります。
この時、並列共振回路のインピーダンスZは以下の式で書くことができます。
これはω=ω_cの場合、つまりR=0での共振周波数において、インピーダンスは以下の式のようになり、R=0では無限大のインピーダンスであった並列共振回路が有限のインピーダンスを持つことになります。
さらに、寄生抵抗の大きさが小さいとして次の式を仮定します。
すると分子のRが無視できるため、インピーダンスの近似値はR,C,Lの値だけで表すことができます。
具体的な値として、C=20μF、L=1.2mH(共振周波数約1kHz)でコイルの寄生抵抗R=0.01Ωを考えると、並列共振回路のインピーダンスは無限大を期待していたのに対して、6kΩというかなり小さなインピーダンスとなってしまっています。またR=0.1Ωの場合は600Ωです。コイルの寄生抵抗を0.01Ωとしたときと0.1Ωとしたときのインピーダンスのグラフが以下の図になります。
今まで議論した通り、寄生抵抗の値が大きくなるにつれて共振周波数におけるインピーダンスのピークが減っていることがわかります。
さらにこのグラフではやや見ずらいですが、インピーダンスの位相についてもコイルの位相+90°からコンデンサの位相-90°に飛ぶ時の変化が緩やかになっている傾向が見て取れます。またこのグラフでは判別がつきませんが、寄生抵抗が大きいほどインピーダンスのピークが鈍くなり、ピークの横幅も広がってきていることがわかります(下図にイメージ図)。イメージとしては、後で出てきますがQが高い(寄生抵抗が小さい)と共振する周波数の純度が高く、Qが低い(寄生抵抗が大きい)と共振する周波数の純度が低いというイメージを持っていると発信回路やフィルタの設計で役に立つかもしれません。
2.エネルギーから見た並列共振回路のインピーダンス
もともとの並列共振回路は、コイルとコンデンサの間をエネルギーのやり取りがシーソーのようにバランスしており、外部から電力を与える必要がなかった(言い方を変えると、電源からの電力を拒否していた)ために並列共振回路に電流が流れず、インピーダンスが無限大でした。しかし、並列共振回路に寄生抵抗がある場合、電流がコイルとコンデンサの間を行ったり来たりしている間にエネルギーが失われていくことになります。(下図のような外部電源から切り離した回路をイメージするとわかりやすいです。どうせ電流がゼロな回路をベースに考えているので、線を切っても同じような挙動をします)。
しかし外部電源が接続されているとコンデンサの両端にかかる電圧は強制的に外部電源と同じになるため、コンデンサにたまるエネルギーは常に変わりません(この結果、周期ごとに常に同じ電圧がコンデンサにかかり、コンデンサとコイルに貯まるエネルギーは一定となる)。
このときのエネルギーの収支を考えると、寄生抵抗で失われたエネルギー分を外部電源が並列共振回路に供給する必要があります。エネルギーを供給するためには外部電源から並列共振回路に電流を流してやる必要が出てくるため、並列共振回路のインピーダンスが無限大ではなく有限の値になるのです。
数式で考えると、共振回路内を流れる電流Iと外部電源の電圧Vの関係を寄生抵抗の大きさが比較的小さいと仮定すると以下の式で書くことができます。
この電流が寄生抵抗に流れるとすると、寄生抵抗で消費される平均電力Pは(電流を振幅で考えた場合に係数1/2が付くことを思い出すと)以下の式となります。
この消費電力Pを外部電源が補う必要があります。この時外部電源から共振回路に流れこむ電流をI_inとすると共振回路に与えなければならない電力P=V×I_inに対して以下のような関係が導かれます。
ここから共振回路の入力インピーダンスR_inが以下の式のように計算されますが、この式は1-2節のインピーダンスと一致していることが確認できます。
ちなみにこの計算の中で、共振回路内を流れる電流と外部電圧の関係式を出すところで寄生素子が小さいという近似を使っていましたが、ここをちゃんと計算すれば近似していない場合のインピーダンスに(試していないですが)なるはずです。
3.共振回路のQ値
前節までの議論で、共振回路内にたまっているエネルギーが失われる結果、並列共振回路の共振時のインピーダンスは有限の値を持つという結論が得られました。ここで、共振回路の質(quality)の高さというものを導入してみましょう。期待通りインピーダンスが無限大に近い状態(エネルギー損失が小さい時)を質が高い状態とし、寄生抵抗などによってエネルギーが失われる量が多いと質が落ちるというイメージです。この質を表すものとして一般にQ値というものがあり、以下の式で表すこととしています
この定義は
・様々な共振周波数の場合で同じ議論ができること
・蓄積されているエネルギーによらないで議論できること
・外部電源との接続の有無などによらずに議論できること
・並列共振回路以外の共振回路でも議論できること
・エネルギーの散逸度合いを表すパラメータであること
といったことを満足するための定義となっております。なお、係数の2πはQ値と関係する様々な性質を議論する際にうまくいくように調整されたものですが、ここではただの係数と思っておけばよいものです。重要なことは、共振回路がエネルギーを蓄えたときにどれだけそのエネルギーが失われているかの指標という点です。
3-1.共振回路内の導体由来の損失
まずはコイルやコンデンサのESR(リード線や導線に由来)について考えてみましょう。これらのESRは共振状態の電流が流れる経路上にあることから、抵抗Rに比例した損失が発生します。これを模式的に書いた共振が以下の図です。
上の回路の場合、電圧がピークVのときに蓄えられているエネルギーPと、1周期で失われる電力W_cとするとQ値(Q_c)は以下のように計算されます。
ちなみに、一般的にコイルは巻き線を作る都合上、ESRが大きくなる傾向にあ、コイルを使った共振回路はQ値が下がりがちです。しかし実用上インダクタンス成分をもちつつもQ値が高いものが欲しいということは当然ありえることです(というか、発信回路やフィルタを作る上ではよくあります)。これを実現する素子の一つが水晶やセラミックになります。これらはインダクタンス成分を持ち、そのQ値は10000を超えるものもあったりします。
3-2.共振回路内の漏れ電流由来の損失
次にコンデンサの漏れ電流に由来する損失を考えてみましょう。実際のコンデンサでは漏れ電流が存在し、下図のようにコンデンサの両端に電圧がかかるとコンデンサと並列につながれた寄生抵抗(コンダクタンスG=1/R_d)において損失W_dが発生します。
この回路のQ値(Q_d)を計算すると、以下のような結果が得られます。このとき、漏れ電流分を表す抵抗R_dはコイルのESRであるRとは異なる点に注意しましょう。
なお、コンデンサそのものの性能を表すものとして、コンデンサのインピーダンスの実部(漏れ電流分R_d)と虚部(容量成分ωC)の比をtanδと呼んでいます。これは以下の図のように角度δとしたときのtan成分を表していると考えてもよいでしょう。
このtanδを用いると、コンデンサを共振回路に使った場合のQ_dは以下の式で求めることができます。
ちなみに、Q_dは数式上周波数が大きくなると高くなるように見えますが、実際には漏れ電流を表すGが周波数特性を持っており、一般に周波数が高いほどQ_dは下がっていくのが一般的です。また、コンデンサのメーカーがtanδを明示している場合があり、これを使って共振回路に用いた場合のQ_dを推測できる場合があります。
3-3.外部Q
共振回路は電源供給回路や負荷などの別の回路(外部委回路)とどこかでつながって使われます。共振回路が完全に独立しておかれた場合は、思考実験として興味はあるものの電子回路としては無意味な存在です。その結果、共振回路に蓄えられたエネルギーが外部回路に流れ出すことが起こりますが、これは共振回路から見た場合共振回路のエネルギーが外部回路に散逸した(つまり損失があった)とみることができます。このように共振回路に蓄えられたエネルギーPと共振回路から1周期のうちに外部回路に流れ出るエネルギーW_eの比を外部Q(Q_e)と呼びます。
ちなみに、外部Q値が高い時というのは共振回路のエネルギーと外部回路の結合が弱い時に該当し、外部Qが無限大のときは共振回路が外部回路から完全に独立した(エネルギーのやり取りがない)状態となっているというイメージは共振器の測定をする際に重要になってきます。
3-4.共振回路の全体のQ値
ここではまとめとして共振回路全体のQについて考えてみましょう。共振回路全体内の損失は導体損失W_cと漏れ電流による損失W_dの和W_totalとなることから、以下の式のように逆数をとって考えると簡単です。
このように共振回路のQは導体損失によるQと漏れ電流によるQの調和平均になっており、より小さいQ値に引っ張られて値が小さくなっていくというものであることがわかりました。これは損失が大きい方が全体の損失を大雑把に決めるということを言い換えただけで、当然と言えば当然の結果を示しています。
また、共振器だけでなく外部回路も含めたQ値を考えることも可能で、これは負荷Q(Q_L)と呼ばれております。負荷Q(Q_L)も外部Q(Q_e)を含めて以下のように調和平均で記載することができます。
また、共振回路だけのQ値(ここではQ)のことを外部回路が含まれていないことを強調して無負荷Q(Q_Uと書くことが多い)と呼ぶこともあります。
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