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イラストAIの創作性と絵師の将来

はじめに


Lolita,gold hair, flat chest, bed で出力した絵

 昨今、novelai AIがイラスト生成に対応したことによる絵師の反発や各サイトでの問題が発生している。その中で度々、簡単に数円程度でイラストが生産できるAIに対して批判的な声がある。
 新しい(と言っても美少女イラストAIは2016年の頃から見れるレベルのものは出力してくれるが)技術に対しては批判や拒絶反応は起きやすい。今回は、いつもの記事と違いイラストAIについてを法的観点やユーザー目線から考えていく。

イラストAIに創作性はあるのか?


copyrightとだけ入力したら出力された絵

 結論から言うと創作性は認められないだろう

 著作権法において創作性という言葉は第十二条一項「編集物(データベースに該当するものを除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」と「第十二条の二の一項データベースでその情報の選択又は体系的な構成によつて創作性を有するものは、著作物として保護する。」に記されている。
 ここでの創作性とは本来は著作権法の保護を受けない編集物やデータベースでも著作権法の保護を創作性があれば受けると例外を定めている。つまり、著作権とは創作性に宿ると解される
 この著作権には創作性が必要だということは文化庁も以下のように示していることから明らかである。

 著作権法で保護の対象となる著作物であるためには,以下の事項をすべて満たすものである必要があります。
(1)「思想又は感情」を表現したものであること
→ 単なるデータが除かれます。
(2)思想又は感情を「表現したもの」であること
→ アイデア等が除かれます。
(3)思想又は感情を「創作的」に表現したものであること
→ 他人の作品の単なる模倣が除かれます。
(4)「文芸,学術,美術又は音楽の範囲」に属するものであること
→ 工業製品等が除かれます。
 具体的には,小説,音楽,美術,映画,コンピュータプログラム等が,著作権法上,著作物の例示として挙げられています。
 その他,編集物で素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,編集著作物として保護されます。新聞,雑誌,百科事典等がこれに該当します。

文化庁HP「著作物について」https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu.html

 では、「創作性」とは何であろうか?参考になる判例としてはよく東京高決平成元年6月20日判時1322号138頁、通称システムサイエンス事件が挙げられる。これに於いて創作性が認められないのは「特定のアイデアとその表現方法が不可避的に一致するケース」と「アイデアの平凡・凡庸な表現のケース」である。
 前者はどんなアイデアでも表現方法が一つに限定される場合は創作性は認められないと言うもの。例を挙げるならソシャゲのUIが似ててもタップ箇所の組み合わせでしか無いので創作性は無いといったものだ。
 後者は平凡なアイデアの表現には創作性は認められないというもの。具体的には赤ん坊が紙になぐり描きしたものには創作性は無いというものだ。

 また、著作権の保護だけではなく損害賠償請求においても創作性の有無が一部論点となったケースが有る。例えば東京地裁平成25年11月18日(和解のため非公開)のゲームデータの故意による破損により生じたゲーム上の創作物の喪失による損害賠償請求の裁判ではゲーム上においての創作物を見た結果、裁判官が創作性や芸術性が存在していたことは明白とし、作業時間300時間に則た損害賠償を認めている。
 このケースは既存の建築物の再現であったり、当然ただのゲームのデータなので著作権は無いが、創作性を認め賠償が発生したケースである。

 さて、ここでイラストAIを見てみよう。絵というアイデアの表現としてAIは不可避ではないが、アイデアの平凡な表現、これは創作性が認められるには一定の水準が必要であることを示すので、ただ単語を入力した場合におけるAIイラストは創作性は無いと解されるのが妥当であろう。故にAIイラストに著作権は存在しない。ただし、そのイラストAIの出力に多大なる時間を費やした場合は著作権は認められずとも創作性だけは認められ無断転載した場合には賠償が認められる場合もありうる。

ユーザーとしてイラストAIはどうなのか?


brand nameとだけ入力し出力された絵

 ユーザーとしてイラストAIを考えるとき、イラストのどの部分に商品価値を感じるかというものがある。特定の絵師の人にイラストを依頼する個人やフリーランスのイラストレーターにCGを受注する企業や法人などはその描き手の特徴と自身の欲している絵の特徴が一致したから1枚安くても3万は下らない決して安くはないお金を払うという契約を結ぶのであろう。
 しかしだ、イラストがあった方が華があるだけで、イラストそのものが必須ではない場面、例えば自治体のお知らせに意味もなく挿入される花や人の絵、TRPGにおける立ち絵などである。これらのイラストは本質的には必要ではなく、あった方が無いよりは良い、イメージが掴みやすいためのものであった。最近では立ち絵一枚5000円みたいなサービスをする絵師もいるが、よほどのこだわりが無い限り、その料金は高いし、何より、リテイクが効かないのはリスキーである
 この場合、そういった必須ではないがあった方が良い絵に求められるものは、ある程度絵が上手く、イメージに近いものが出てくることである。
 この点、novelai AIは10ドル1000ポイントで1枚4ポイント、4ポイントの支払いで何度でもリテイク可能、15ポイント支払いで表情差分まで生成可能。日本円に直すと約1400円で最大250枚イラスト生成可能、1枚辺り5.6円である。上記の立ち絵サービスの1/1000の値段で生成でき、更にはリテイクも差分の生成も可能、更に絵もかなり上手いと大変リーズナブルで手軽に利用できるものとなっている。

 つまり、ユーザーとしては余程のこだわりが無い限りは、コストが高くリスクの多い人間の絵師に頼るよりもコストが低く、最低限が既に保障されているイラストAIの方が優れていることになる。
 

じゃあ、これからの絵師はどうなるの?


Illustratorとだけ入力して出力された絵

 イラストAIの登場により、上記のように特別上手いイラストレーターを除き、その需要は多くがAIに食われることになる。
 ただ、こういった現象は同じ絵師界隈でも以前にあった。いらすとやのデフォルメした分かりやすい絵の台頭により、公共の機関で用いられる絵や簡単な解説動画で使われるイラストは一気にいらすとやに置き換えられた。もちろん、後発でもデフォルメしそれに対応した絵は生き残っている。
 今回のAIでも同じことが言える。つまり、特に目的のないただ上手いだけの絵はAIに置き換えられるのである。逆に言えば、既に特定絵師、例えば甘やかしと言えば伊○ライフ、便器といえばは○うな、音ゲーキャラのレ○プといえば黒崎○利など(個人の感想です)と言ったように既にブランドが確立している絵師は、その人のイラストだからこそ価値があると言ったブランド化に成功しているのでAIが参入してきたところで、期待の新人とは言え新参の絵師がイラストと言うレッドオーシャンに飛び込んできた程度にしかならない。
 また、具体的な名前は失礼なので避けるが、絵はお世辞にも上手くはないどころか下手だけど、ものすごく好みのシチュエーションや雑だからこそ映える絵を描いてくれる絵師もイラストそのもの以上にイラストに物語性を組み込むことで価値を確立している。この物語性を組み込むということはAIだけでは、上記のように創作性が無いので明らかな差となる。
(とは言ってもnovelai AIはそのタイトルからも分かる通り元々は文章AIなのだが……)(正直言って、イラストAIとは点で比較にならないほど粗末だし、学習元の汚染も酷いので使い物にはならないが)
 つまり、イラストAIの台東により滅ぶのは単に上手いだけで、何も癖を感じられない絵師ということになる。

 では、既にブランド化を成し得ているイラストレーターだけが生き残り、新規参入が無くなるので、既存のブランド化したイラストレーターが寿命で尽き果てるとイラストレーターは滅びるのかというと、そんな事はない
 学校教育の中で基礎的な絵の描き方、技術はカリキュラムに組み込まれているし、そこで才能を開花させ精進した人は確実にAIよりもアナログだろうがデジタルだろうが上手いし、自分の癖さえ見つければ将来的にブランド化することもあり得るだろう。
 また、新参の時期にイラストAIよりも劣ったり、癖のあるイラストを描けなくても絵を描く技術は需要がある。イラストAIの絵を見れば分かるが、所々奥行きが平面的であったり、関節や手足のような末端は複雑な構造故に破綻が見える。こういった部分の修正は人力で行う必要があり、それは確実に存在する需要だ。
 某書籍の言葉を借りるなら高級蕎麦化がイラストにも起き始めている。江戸前そばにより高級なのから庶民向けの様々な蕎麦が作られたが、戦後になり様々な麺類が一般的に食べられるようになると立ち食い蕎麦が台頭し、様々な蕎麦が駆逐されて行く。しかしながら、1枚1500円は下らない高級蕎麦は普通に存在するし、庶民向けの立ち食い蕎麦もまた蔓延っている。
 絵でも同じことで、江戸から庶民が絵を嗜める様になり、のらくろの様なカートゥーンが流行ると戦後にかけて爆発した漫画文化がアニメ文化になり、誰でも00年代にPCが手に入るようになると個人サイトが流行り、ボカロ動画により絵師が誕生し、その元で様々なイラストレーターが様々なイラストを描いていたが、そこに安価なイラストAIが台頭し、高級ブランドのイラストレーターと庶民向けのAI修正イラストレーターが存在する様になるだろうだけである。

まとめ

 イラストAIには創作性は存在しないが、安価な上手いイラストにより売りのない中途半端なイラストは駆逐されるが、既存の神絵師はよりその価値を高め、そうでない絵師は安価なAIの修正と二極化するだろう。


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