【文学】夢を終わらせる恐怖と反復のレトリック: 又吉直樹『火花』

「僕達はきちんと恐怖を感じていた。親が年を重ねることを、恋人が年を重ねることを、全てが間に合わなくなることを、心底恐れていた。自らの意思で夢を終わらせることを、本気で恐れていた。全員が他人に感じる夜が何度もあった。」

 又吉直樹の「火花」のこの一文は、夢を追う過程での時間の経過と、それに伴う恐怖を鮮明に描写する優れた文章である。

 特に、「親が年を重ねることを、恋人が年を重ねることを、全てが間に合わなくなることを」という部分は、反復のレトリックを巧妙に使用して、読者にその恐怖感を強く印象付ける。

 この反復は、日常生活の中で誰もが感じる恐怖の普遍性を強調している。親の老い、恋人の老い、そして全てが間に合わなくなるという漠然とした焦り。それぞれのフレーズが反復されることで、時間の流れの避けられなさと、それに対する人間の無力感が浮き彫りにされる。

 さらに、恐怖が連続的で切迫していることも示唆している。親や恋人の老い、そして夢が叶わないことへの恐怖は、連鎖的に迫ってくるように感じられる。
 これにより、読者は登場人物の内面的な緊張感や焦燥感を共有し、物語の深い感情的な共鳴を得ることができる。

 この「火花」の一文は、反復のレトリックを使用し、夢を終わらせる恐怖心を見事に表現した優れた文章である。

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