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『もしもし下北沢』の恋愛観

お父さんを失ってからの私の落ち込みは決して激しいものではなく、
ボディブローがじわじわっときいてくるような苦しみだった。
気づくと深く沈み込んでいて、なんとか顔をあげる、そういう繰り返しだった。

よしもとばなな『もしもし下北沢』
(幻冬舎文庫) p.6

よしもとばなな『もしもし下北沢』を
初見でエッセイと勘違いした。
感情描写が、やけにリアルだった。

ネタバレだらけなので注意↓




【あらすじ】
父を亡くして一年、
よしえは下北沢でビストロ修行に励む。
父は知らない女性の無理心中に巻き込まれ、「殺され」た。
全ての真相は闇の中。

奥底に暗い感情を抱えながらも、
残された者達は、繋がって生きる。
よしえの下宿先に転がり込む母。
父の音楽仲間との関係性。
理不尽をどう乗り越えるか追求した、救済の物語。



この小説の素晴らしい点は、大きく3つ。

・よしえの夢に「父の携帯」が登場するたび、涙があふれる
夢の描写が読んだ小説の中で、一番好き。
何かに囚われている時の夢って、
疾走感があって、ストーリーも強烈だ。
表現の巧みな引き算が、
かえって読者の心に深く刺さる。


・下北沢に馴染もうとする、目黒マダム
亡き夫のことを「割り切らずに生きていく」と宣言した、
賢く健気な母のキャラクターが魅力。
下北沢では、よしえの友達のように過ごし、
関係性がエモい。


・意外な恋愛
違和感のある恋愛が、
理屈を超えた展開を迎えた時、
深いことはわからないが、自然と納得した。

「仮に関係が続かなくても、
私の大切な思い出だからそれでいい」
言い切れるほどの追憶って、最強なのでは?
よしえが恋愛に求めていることはなんなのか、
答えを見つけて貫くところに好感が持てる。




この「恋愛展開」を自分事で掘り下げたい。
作品と少しずれるけど。

あのね、現実では絶対叶わない恋愛が、私は大好き。
誰かから奪いたくはない。
だが、私の中だけで恋をし、
「本当に素敵だなあ」って
勝手に癒されるのは、
最上級に楽しい。


えっ…?オタ活…?



だけど私は、きれいな人間じゃない。

慕っているうちに
推し事と独占欲の仕分けができなくなる。

私は自分の独占欲や嫉妬を、うまく扱えない。
感情の重さで自分がつらくなった時に、
「間違ってるなあ」と気が付くことがある。


推しの幸せを願う一途な愛し方や、
『もしもし下北沢』の
恋愛のような開き直りが、
私にできるんだろうか?
最近、今までの考えを改めたいことばかりだ。


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