想い出づくり

勤勉な婚約者との生活の隙間に入り込んだのは
元バンドマンの電話営業トーク

左斜め後ろから耳に入るその声に
私は聴衆の筆頭となった

ずっと聴いていたい…

チームが同じになったり
ランチが一緒になったり

少しずつ縮まる距離

オフィスから数日姿を消した席のパソコンに向かって滑り込ませた
1通のe-mail

 これ
 私の携帯メールです

端末を開いたあなたから
程なく受け取る返信

 メアドありがとう

そして始まる
二人の交換日記

行きに帰りに通勤電車で
婚約者不在の部屋の中で
スマホに積み重なる
秘密の履歴

会社帰り
初めて二人きりでグラスを傾け

帰り際
路地裏でのキス

帰宅後の熱いメール

 次のステップはこの次ね

そのはずが

独り身のあなたへの
不意打ちのようなリストラ
緩やかに緩やかに
あなたの熱をも奪った
にっくき持病

とめどなく流れる
婚前の
青い涙

叶わなかった約束の日
かつ入籍10日前

予定を埋めるべく
会社帰り
ホテルに呼んだ出張ホスト

頭痛が行為への没頭を妨げ
早々に切り上げた

(ワルイコトハ デキナイモノ)

市役所に届け出を出した数日後
性懲りもなく送る
連休の予定を訪ねるメール

一週間待ちわびた返信によって知った
氷のような門前払い
ベクトルは もう こちらにはない

元 バンドマンだしね…

引き換えに
私は〈悪者〉にはならなかった
(テイセツハ テイセツノママ…)

やがてこの日々は
勤勉な配偶者との生活の中で
ひっそりとした想い出へと形を変えるだろう

交換日記は
今も
スマホの奥底に眠り続ける…

#婚外詩

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